第133話 美月再起録 冬 side:美月

前回の要約

・美月は見知らぬ男から強姦未遂に遭った。

・美月は幼馴染の女性から強姦未遂に遭った。

・美月は人間不信になった。



―――



 気がつくと私は、真っ暗な闇の中でうずくまっていた。

 辺りを伺うも、目には何も映らない。

 私は光を求めて立ち上がる。

 意を決して歩き出すも、自分が止まっているのか進んでいるのかすら曖昧な、恐ろしい世界。

 私はこのまま1人で朽ちていくの?


 誰か、誰か助けて。

 思考が悪い方向へ流れていく。

 この闇から抜け出せない。


 走る、走る、けれど、どこにも光はない。

 やがて何かに躓き転んだ私は、顔から地面に激突――「君は僕のものだ」「美月のファーストキスは私のもの」――唇に触れるその瞬間、体が竦んだ。


「はっ! はぁっ、はぁっ、はぁ……ゆ、夢?」


 あの絶望に満ちた世界が現実ではなかったことに安堵していると、ドアをノックする音が響く。


「美月、何かあった?」


「ううん、なんでもない。ちょっと、悪い夢を見ただけ」


「そう……」


 夢の中まで侵食されて、熟睡できない日々が続く。

 お母さんはそんな私を見て、お祓いを受けることに決めた。


「私、まだ、知らない人に会うのは……」


「安心して。美月が怖くないように、警部さんが特別な人を紹介してくれたから。きっと美月も驚くわよ」


 たとえその人が悟りを開いていたとしても、私はきっと安心できない。

 人が何を考えているのかなんて、誰にもわからないのだから。

 信頼できるのは自分自身と両親だけ。


 そう、思っていた。


 心を閉ざす私に警察の方が紹介してくれたのは、陰陽師を名乗る小さな男の子だった。

 笑顔の可愛い、普通の男の子。

 ただ、その服装は普通とは違う。

 陰陽師が着ていそうな和服を、子供サイズにあつらえたみたい。


「はじめまして。僕は峡部 聖って言います。よろしくね、お姉さん」


「私は……藤原 美月……です。こちらこそ、よろしくね」


 こんな小さな子供がお祓いを?

 ごっこ遊びと言われた方がまだ信じられる。

 そもそも、陰陽師なんて現代には存在しないはず。

 そんなことを考えつつ、しばし雑談をしたところで、聖君が立ち上がった。


「美月お姉さん、お祓いの準備をしてもいい?」


 半信半疑だった私は、考えをすぐに改めた。

 聖君がテキパキ準備を整え、お祓いを始める。

 その姿はとても様になっていて、真剣な横顔は職人さんのよう。

 体は小さくても、立派に仕事をこなしていた。


「――悪しき力を断ち、陽なる風を――」


 さっきまでの拙さの残る喋り方から一変し、朗々とした口調で祝詞のりとを唱えている。

 その姿はどこか神秘的で、思わず目で追ってしまうほど。

 気が付く頃には、儀式は終わりを迎えていた。


「終わり!」


「終わったの? ありがとうね」


 聖君の口調は元に戻っていた。

 まるで、幻でも見ていたかのように。


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