キューピッドの恋は実らない

無月弟(無月蒼)

仲良しな幼馴染

 中学の制服に身を包み、長い髪をポニーテールに結んで家を出る。


 いつも通りの朝。

 しばらく歩いていると四つ角の所に、同じ学校の制服を着た男子が立っているのが見えた。


「おはよう有馬ありま。今日は暑いねえ」

「ん、おはよう莉子りこ


 サラサラの髪に整った顔立ちの彼は、同級生の有馬。保育園の頃から一緒の、幼馴染みだ。


 私達は毎朝ここで待ち合わせして、一緒に登校しているんだけど。あれ?

 いつもならいるはずの、もう一人の姿が無い。


「桜はどうしたの?」

「まだ来てない。寝坊でもしたのかも……」

「莉子ちゃーん、有馬くーん!」


 言い終わる前に聞こえてきた、元気のいい声。

 振り向くと小柄な女の子が手を振りながら、こっちに駆けてくるのが見えた。


「ごめーん。忘れ物取りに帰ってたら、遅れちゃった」


 やって来たのは猫みたいなクセっ毛をした、ボブカットの女の子。もう一人の幼馴染み、桜だ。


 するとそんな桜を見て、有馬が言う。


「一応聞くけど、宿題の方は忘れてないよね? 数学の宿題、結構たくさん出てたけど」

「あ、忘れてた!」

「まったく、桜らしいわ」


 ガーンと口を開く桜に有馬は肩をすくめ、私も苦笑いを浮かべる。


「俺達が解き方教えるから、学校ついたらパパっと終わらせよう」

「ううっ、二人ともゴメン。それと、ありがとね!」


 有馬が歩き出し、私と桜がそれに続く。


 見慣れたいつもの、朝の風景。

 十年前から仲良しな私達の関係は、これからも変わらず続いて行く。そう思っていたけど。


 私達の関係が変わったのは、それからすぐの事だった。

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