第18話
「ドーレ、どうしてこんなことを?」
「わからないのか?」
「わかりません」
鍔迫り合いをしていた男に向かってシバルはそういうと、ドーレと呼ばれた男は、鍔迫り合いを弾き、少し距離をおくと笑う。
「まあ、簡単に言うとさ、こんな町を壊してやろうと思ってな」
「どうしてですか?」
「わからないのか?あんなくそみたいな勇者を呼び出しやがったからだよ。あいつのことを聞いたのか?」
「少しは…」
「だったらさ、もっと言ってやるぜ、あの名前だけの勇者やろうがどんなくそみたいなやつなのかをな。この世界に呼び寄せることでしか現れない、あの勇者が来たってことで、俺様たちも最初は楽しみにしていたんだ。どんなやつなのかってな。でも召喚されたそいつは冴えないやろうで…その後もそんなにできるやつというわけではなかったが、それでも最初は俺様たちだって、弱かった。だから訓練をすればいいと思っていた。でもあいつは逃げやがったんだぞ。そして挙句の果てには遊び歩いてやがる。そんなやつを勇者だと俺様は認められないだけだよ。だからそんなやつを容認しているこの町ごと壊してやる」
そう言うと、ドーレと呼ばれた騎士は斬りかかってくる。
いや、はっや!
俺の考えている数倍の速さで男が迫ってきて、さすがに身構える。
ただ、男が振り上げた剣は同じようにこちらに迫っていたシバルの盾によって防がれる。
「は!さすがは、世代最強の騎士様だな」
「何を…」
「ただ、わかっているのか?俺様にはスキルがあって、お前にはないんだよ」
ドーレはそう言うと、力を籠める。
先ほどまでシバルと盾でドーレの力は拮抗していたのに、今はもう防げていたものが差し込まれ始める。
これは、相手のスキルが発動したということか…
どんなスキルかはわからないけれど、先ほどまで拮抗していた力が押され始めたということはスキルが発動したということなんだろうけれど、どんなスキルだというのだろうか?
「ふはははは。確かに俺様のスキルはただの剣士としては上位版のスキル、ナイトスキルだから、こうやって騎士をやっているときにだけはスキルを使えないお前を上回ることができるんだよ」
「く…」
ご丁寧に説明をしてくれたが、確かに強いスキルだ。
このままではいけない。
といっても、俺が近づいて、もらった武器であるナックルで殴るなんてことをしたとしても、邪魔になるだけかもしれない。
そこで俺はポケットに入れていた、ある存在を思いだした。
グッとそれを掴むと、外にだしてぶんぶんと振り回し投げる。
「んだ、そりゃ」
急に飛んできたものに相手もビックリしたのだろう、押し込んでいた剣を引き、盾を構えて防ぐ。
ドンと音がして、それは盾に防がれた。
「これは…見た目は完全にふざけてやがるが、今の盾に感じた感触は、当たると痛いものだな」
「まあ、実力差があるんだし、俺たちのことを見逃してくれないかなって思うんだけど」
「はあ?急に割り込んできて何を言うかと思ったら、そんなことだと?」
急な、しかも一方的な要求にドーレは頭をかるく抑えながら、考える仕草をするという。
「まあ、別に見逃してやるってこともできるな。条件はあるがな」
「何を?」
「そうだな。これをそこの二人がつけてくれるならな」
そうして投げれたのは首輪のようなものだった。
「これはなんだ?」
「ああ、見るのは初めてか?これは拘束具ってやつだ。これを元騎士と元聖女様につけるのであれば、お前だけは見逃してやろう」
「なるほど…ということは俺のことも見逃してくれないと?」
「はあ?今の話を聞いていたのか?」
「聞いていたよ、だからわかるってことさ」
そう、俺は社畜時代にこういう口実のことをされたことがあった。
ミスは俺のせいにすればいいからと…
「そんな言葉を信じたやつが、ただ損をするだけってことを俺が一番わかってるんだよ」
「ちっ、そうかよ。でも、それならお前たちは一方的にやられることになるぞ」
確かにそうだ。
俺はポケットにあるものの感触を確かめる。
これを被れば俺は強くなれるだろう。
でもヘンタイとしてもう後にひけなくなる。
く…
ただ死ぬのが先か、それとも世間的に死ぬのが先か…
こんなことを転生先で考えることになるとは思わなかった。
何かないのか?
俺はポケットを探る。
こ、これは…
そして、ある存在に気づいた。
俺はそれを取り出した。
「んだ?さっきのように、また投げてくるのか?」
「いや、被るんだ!」
「は?」
そして被った。
俺がいた世界でよく見た光景。
ストッキングを頭に被る。
「へ、ヘンタイやろうじゃねえか」
それを見たドーレはそう口にする。
ふ!
これこれこれ!
これだよ。
俺は醜くて見えにくい顔のまま構えをとる。
「なんだそりゃ?」
「なめてもらってはこまるな」
俺は地面を蹴った。
「な!速い」
一瞬で相手との距離を詰めた俺は、構えていた拳を振りぬいた。
ドーレはそれを後ろに下がることでかわす。
「まだまだ!」
「くそ、からくりはわからんが、急に強くなりやがって!」
再度拳を振りぬくが、それは相手の剣によって防がれる。
我ながら拳で剣と殴りあっている今の状況に驚いた。
俺の戦闘能力があがったということなのだろう。
見えにくい、だが体がついてくる。
キン、カンという金属同士がぶつかる音が数回なる。
「ちっ…理屈はわからねえが、確実に先ほどよりも強くなったということか」
「どうだ?」
「最初は意味のわからないことをやっている変なやろうだと思ったが、そうじゃないようだな。だったら俺様もここからは剣技を使うからな」
そこで構えが変わる。
先ほどまでとは違い、剣を後ろに引き縛り、盾を前に構えている。
くる。
「騎士流、一の型、スラッシュ」
その言葉とともに下から上の斬り上げ。
スキルが発動しているからだろう、すごい速度の剣戟だ。
ただ、俺だってヘンタイスキルを発動しているのだ、負けるわけにはいかない。
だってここで負ければ、ただのお笑いスキルになってしまうのだからだ。
「せい!」
俺は地面に拳を叩きつけた。
それにより地面が揺れて、さらに土が飛び散る。
角度的に相手に当たるようにやったため、それはしっかりと相手に向かって飛んでいく。
「ちっ」
それにより相手の攻撃を鈍らせることに成功すると、斬り上げをなんとか避ける。
ふー、本当にこんな中身三十路一歩手前の男を戦わせるなんてことに疑問を覚えてほしいものだ。
俺は再度構えをとる。
それは相手も同じだ。
「ふざけているのに、強いだというのが本当にバカにしているようで腹が立つ。」
「そんなことをいうなよ。俺はこう見えても至って真剣なんだからな」
俺だって、スキルがこんなものでなければもっと普通に戦うことだってできていたはずなんだよ。
くそ、涙が出てきやがるぜ。
「どうしたのかお前、泣いているのか?」
「泣いてねえわ」
そうだ。
別に普通のスキルがこんなにかっこよくてそれを見ているだけで、俺の今の恰好含めて、かなり惨めに感じて泣けてきたとかそんなことでは決してない。
いや、でもなんかイラっときたな。
お前も変な自称神に会って、変なスキルを言い渡されてこいよ。
「いくぞ、オラ!」
やけくそになりつつあった俺が突っ込むときに踏み込んだときだった。
【避けなさい】
その声が聞こえて、俺は慌てて滑りこむ。
そしてその頭の上を何かが通りすぎる。
あ、あっぶねー…
というか、さっきもこういう展開あったよな。
「誰だ!」
「ほう、今のをかわすとは、ドーレが苦戦するわけだな」
そうキメ顔でドーレの隣に立った男…
「いや、誰やねん」
その言葉に、俺以外の全員がこけそうになるのを俺は見たのだ。
コントかよと思ったのは言うまでもない。
「わ、わたしのことを知らないというのか?」
「いや、知らない。ほら俺って部分的記憶喪失ってやつだからさ」
「そ、そうか…そういう事情なら仕方ありませんね。わたしのことを全く知らない人がいるかと思いましたよ」
そういったのは、純白の鎧に包まれた優男。
見た目だけではどうかわからないが、あれだ。
それなりに高貴な騎士というやつだろうか?
「わたしの名前は、ジーク。今日で終わりの聖騎士長というやつさ」
「そうですか…」
「おいおいおい、このお方のすごさをわかっていないな。このお方は、あの町最強の戦闘能力を持つ、騎士なんだぞ」
「さいですか」
「ドーレ。記憶喪失の方には仕方ありません。それに時間があまりありません。今から行きますよ。」
「わかりました」
「騎士長、どうしてこんなことを…」
「それは、わたしの正義にあの勇者があわないと判断したからです」
「それでも、町の人たちを巻き込むのは違うはずでは」
「ふむ…それは生きていればわかることです。あの町のくさったところがね。それでは、君たちは、わたしの正義のために消えてください」
そういうと、ジークという名の聖騎士長は剣を抜く。
まずい。
攻撃をしかけてくる気だ。
といっても、今から俺が相手に飛びついたところで間に合うかはわからない。
だからこそ、向かう先は決まっている。
「うおおおおーーーー」
「ふ…この期に及んで後ろを向いて、女性に向かって逃げますか!逃げようとしない、女性たちのほうがよほど立派だと思いますね。まあ、全てを無に帰すしかないので、仕方ありませんがね。聖騎士剣術、奥義、ホーリーソード」
その言葉とともに振るわれた剣は、魔法を纏って剣戟として飛んでくる。
それを後ろに感じながらも、俺はアイラに向かって飛びつく。
「きゃああああーーーー!ただし、急にヘンタイな恰好で近寄ってこないでよ、我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリーバリア」
飛んできた光の剣は、バリアによって防がれたのだった。
いや、本当に危機一髪だった。
そう思いながらも、近づきすぎていた俺は、アイラに思いっきり引っ叩かれたのだった。
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