第4話 疑心暗鬼
森本事件から二週間後。
渋谷駅前の大きなモニターから臨時ニュースが流れている。
『今日正午頃、防衛政策局参事官の高橋浩二さんが大田区の路上で殺害されました。犯行手口が一連の事件と一致する為、同一犯の犯行として調べを進めています』
画面では、代理の防衛大臣が報道陣に詰め寄られている。
「大臣! 犯行声明はないのですか?」
「国際テロ組織の犯行との見方がありますが!」
「会見を開いてください!」
大臣は無言で去っていく。
『今のところ政府からは犯行に関する発表は無いとの事です』
森本防衛大臣が殺害されてから二週間、あの日以来、毎日複数の人間が殺害されていた。
防衛副大臣、大臣政務官、大臣補佐官、大臣官房長、防衛政策局長など、防衛省の関係者ばかり数十名にもなっていた。そして全員が森本防衛大臣のように刃物で数カ所えぐられたような跡があったという。いずれの事件も犯人を目撃した者はおらず、犯行声明も無く、捜査は難航しているようだ。
世間では、北朝鮮かロシアの工作員説が濃厚で、テレビでもその手の有識者が議論を重ねていた。
ところがこの一連の事件、発生したのは日本だけではなく、アメリカ、イギリス、フランス等の軍関係者が同じような手口で殺されていた。当初は敵対国の犯行と判断して各国が疑心暗鬼になり、あまり情報を出さなかったが、その後、同様にロシアや北朝鮮でも起こっていた事がわかり、あまりにも世界中で同じ手口の事件が多発している為、敵対国の犯行ではなく、大きなテロ組織の仕業との考え方が主流になる。そして、ようやく世界中で情報共有をはじめたのであった。
しかし、平気で嘘をつく国も往々にあり、これらの情報が真実なのかの確証はなかった。
結局どこのテロ組織というのもはっきりせず、会見も開かれない。政府は頑なに情報を隠しているようで、国民は国に不信感を抱いていた。国会議事堂前では連日、真実を隠すな! 全ての情報を公表しろ! などと五十名程の人々が叫び、デモを起こしていた。
報道される事も少なく、事件だけが明るみに出ているだけで、真相もわからない。世間ではデマや噂が錯綜している。当然の流れであろうが、宇宙人襲来説が出たり、地底人や霊の仕業であるという説も出てきて不謹慎にも楽しんでいる部分もあった。
渋谷駅前の人々は、事件に耳は傾ける人もいるものの、それでもいつものように、今日も各々自分の用事に忙しく動いている。スクランブル交差点は、普段通り変わらぬ賑わいを見せていた。
まだまだ日本は平和である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます