爬鎧類 ハガイルイ
ヒレカツ寺本
第1話 緊急事態
2045 ー夏ー
新宿の東京都庁前の通りが封鎖され、戦車が数台配備されている。八月の太陽が照りつけてアスファルトは危険な熱さになっている。
この日、日本中の政府や防衛隊の関連施設を中心に厳戒態勢がとられていた。そして、街には緊急事態宣言が発出され、一般国民は自宅待機を余儀なくされていたのであった。
自国防衛隊、杉並第二中隊のきっちりとした整列。その百八十名の隊員を前に、大柄な有馬隊長が睨みをきかせている。
「日本の未来は我々自国防衛隊の腕にかかっている! 貴様ら一人一人が日頃行ってきた訓練の成果を実証し、全ての外敵を駆逐し殲滅する! それが我々の責務なのである。敵は本日正午より総攻撃を仕掛けるそうだ! 我々はこの都庁並びにその周辺を守るよう命じられた!」
隊長のゲキが飛ぶ。が、少し細い目になり
「しかしながら今だ敵の姿を確認しておらん。どこに何者が何をするのか情報がさっぱり入ってこない。だが何者が来ようとも与えられた任務は確実に遂行する! 全員持ち場につき、指示があるまで待機! 以上」
「はい!」
途中少しトーンが落ちたが、最後は大声で隊員を送り出す。隊員たちはバラバラに各々の持ち場へ向かう。
隊の中にいた内田リクも小走りで持ち場へ向かっていた。
その昔、防衛隊の前身である自衛隊の、陸上自衛隊に父がいた事から、リクと名付けられたらしい。そして今、息子は立派に自国防衛隊で闘っているのである。
「おいおい今から何が起きるんだ?」
後ろから同期入隊の尾崎セナが話しかけてきた。
祖父が、F-1ドライバーのアイルトンセナの大ファンだったらしく、セナと名付けられたらしい。
「知らねーよ」
少しニヤッとしながらリクが返す。
「宇宙人が攻めてきたらどこ狙えばいいんだ?」
横に追いついたセナが言う。
「そりゃ頭だろ。粉々になるまで撃ちゃいいんだよ」
チラッとセナに目をやって、リクが答えた。
「習ってねぇじゃん! 宇宙人との戦い方」
「見た事もねぇだろ」
くだらない会話を続ける二人。
実はこの作戦、どこから何がどれほどの数攻めてくるのか全く知らされていないのである。隊の中では冗談か本気か宇宙人が攻めてくるという話が飛び交っている。
待機場所である戦車の横に到着。積み上げた土嚢で簡単に作った壕に入り、準備を整えて隊長の指示を待つ二人。リクが腕時計を見ると十一時五〇分。まもなく正午だ。
となりのセナが周りの様子を偵察しながら話す。
「やっと実戦だな!」
「ああ。初実戦が何も作戦内容聞かされてないなんてなかなかの待遇だぞ」
サブマシンガンのグリップを握りしめてリクが返す。
「宇宙戦争って映画観た? 宇宙人は次の日には地球のウイルスにやられて死滅するらしいから大丈夫だぞ」
「そりゃよかった。んじゃ今日だけ乗り切ろう」
この時点ではほとんどが何も起こらないと思っている。
「ところでリク。宇宙人って律儀に時間守るのか?」
「ほんとだな! そんな奴らなら話し合いで解決できそうだな……ってまだ宇宙人かどうかもわかんないし!」
なんとも現実味のない任務に気が抜けている二人。
と不意にタッタターン! 前方五十メートル程の隊で銃声がなる。まだ何の指示もないのに。全員が持ち場から顔を覗かせて様子を伺う。次の瞬間、タタタターン! バババババーン! ドドーーン! 一斉にライフルやらサブマシンガンやらの銃器の放つ音が響き渡った。リクが目を凝らすと黒い物体が無数にピョンピョン飛んでいる。前方の戦車を軽々飛び越えている事から十メートルくらいはジャンプしているだろう。砂埃と火花が散る中、その黒い無数の物体がだんだん近づき大きくはっきり見えだし、銃声が近くで鳴りだす。
リクの視界の左上に何かが映り目線を上げると太陽の逆光で真っ黒に見える影が飛んできてベターーンという音と共に目の前の戦車の上に着地した。
それはまるで鎧(ヨロイ)を着た大きなトカゲのようだった。
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