透明色の恋人

月ヶ瀬 杏

午後5時54分

 部長の挨拶が終わると同時に音楽室を飛び出したわたしは、三階から二階へと階段を駆け下りた。


 わたしが所属する合唱部の活動はいつも5時45分に終了するのだが、今日は音楽室の時計が少し遅れていて、そのことに誰も気付いていなかった。


 だから、部長が解散の挨拶をしたあとにスマホを見たわたしはひどく慌てた。


 午後5時54分。彼との待ち合わせ時間が、もう1分後に迫っていたからだ。


 彼との待ち合わせ場所は、二階の二年三組の教室。彼と会って話せる時間には限りがあって、待ち合わせには遅れられない。彼との時間を、1秒も無駄にはできない。


 息を切らしながら教室に駆け込むと、彼は既に窓際の席に座って待っていた。


 窓から差し込む西陽に、彼の色素の薄い髪がきらきらと透けている。その横顔が、とても綺麗で。何度見ても、初めて彼を見たときのようにドキッとする。


 昨日も、その前も、この場所で待ち合わせているのに、今日も彼がそこで待ってくれていることが嬉しくて仕方がない。


「トウ!」


 弾むように名前を呼ぶと、彼がわたしを振り向いて、ふわりと優しく微笑んだ。


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