第2話コイの話

ひそひそ

ひそひそ


今日もあちらからコイバナが聞こえる。


ひそひそ

ひそひそ


今日もこちらからコイバナが聞こえる。




恋っていうものは、いつだって人気の流行トレンド。

「誰々さんと誰々さんが~」

知ってる。その情報はもう古い。

「何々さんと何々さんが~」

いや、そこ知りたくなかった。


毎日特ダネが町を駆け抜ける。嘘かほんとかわからない恋の噂が風と一緒に吹き抜ける。

聞きまして? あのお噂。

聞きましてよ、あのお噂。

恋の噂はすぐに広がる。お幸せに、なんて言ってあげる人の本心は実は別の言葉なのかもしれない。どんなにお上品な言葉で言っても、心の内は真っ黒でどろどろしている。そういうものなのかもしれない。


恋の話が好きなのか。それは恋が叶って幸せになった人を祝福することとはきっと違う。

恋が叶わなくて悲しむ人を見るのが楽しい。恋を叶えたくて頑張る人を応援したい。

そして、自分とは関係ない現実を「外から」ただ見ていたいだけ。そういう人もいるのだろう。

恋をしたい、と恋の話が好き、は違うこと。彼らも自分も、恋をしているのだろうか。恋をしてみたいのだろうか。




恋をしている。

恋をしている。

恋をしている。

恋がしたい。

いつから恋なのだろうか。

どこから恋なのだろうか。

それはきっと、恋だと思った瞬間が恋の始まり。

出会った瞬間。目が合った瞬間。声をかけられた瞬間。笑いかけられた瞬間。手と手が触れ合った瞬間。

ああ、これは恋だ。

そう思ったその瞬間から恋は始まる。たとえそれが「好き」でも「嫌い」でもなくたって、「恋だ」と思ってしまえばそれはきっと恋。

恋という感情は開かれることを待つ宝箱のようだ。開かれることを、始まることを待ち続ける心のどこかに置き忘れた宝箱。箱の中には幸せと不幸が半分ずつ入っている。それは宝物なのかもしれないし、くだらないガラクタなのかもしれない。

その宝箱は誰かがあなたの中にぽつんと置いていく。それは鍵を持つ誰かだ。

それは恋の相手。あなたと誰かが恋をするために持ち込まれた宝箱は、ただ一人の恋人が設置したトラップなのかもしれない。

あなたの心には開かれなかったいくつの箱が眠っているのだろう。そして、あなたは一体いくつのトラップを仕掛けたことがあるだろうか。

それは時限爆弾つきの、誰も傷付かないびっくり箱だったらいいのにね。中身がこわいから開こうとしないで置いておく。それでもいつかは勝手に開く。そんな箱だったら、そんな、箱だったら、無理矢理その想いを暴かれずに済むのだろうか。

恋というものは本当に身勝手だ。




恋がしたい。

恋がしたい。

恋がしたい。

恋をしている。

塵も積もれば山となる。恋も乞い積もれば何となる?

叶いましては両思い。秘めたる想いは片思い。砕けましては失恋とはよく言ったものだろうか。

砕けてしまった想いは消えてしまった? 恋は砕けると消える、そういうものか。

消えてしまえばいい。叶わなかった想いなんて、消えてしまえばいい。いっそ、そんな恋始めからなかったことにできたらどれだけ楽になれるだろう。

積もるところ、そんな風にはできていないというものが恋なのでありまして。何日何週間何年経っても忘れられないという厄介なものこそ恋というもの。

叶わなかった想いは消えてしまうのだろう。時間と共に霞んで消えてしまえばいい。それでも、その想いが入っていた箱は心のどこかに居座り続ける。中身の消えた空っぽの宝箱は、置いた主がいなくなってもそこに在り続ける。中身は空っぽになったまま。


忘れることなんてできない。できるはず、ない。

あなたは確かに恋をしていたのだ。

なかったことになんて、知らなかったことになんてできやしない。

できるはず、ない。

それが恋というもの。

ああ、本当になんて厄介な感情。







叶った恋はどうなるの? 両思いの恋はどこへいく?

出た芽は育って伸びていく。蕾をつけて、花が咲く。きれいな綺麗な恋の花。キレイに咲いた恋の花。


花は咲き続けることができるのか。咲き続ける花に意味はあるのか。


いつかは無様に枯れて散るだろう。それが花というものだから。

もしも「恋の花」が「花」ではなくて「華」だったら、いつまでもきらびやかに咲き続けることができるだろう。でもそれはただの造花だ。

恋の咲く先に未来を望むなら、花が散ることを覚悟しないといけない。覚悟して、相手を信じなきゃいけない。恋の花が形を変えたとき。それは実って恋の果実ができるとき。

花のままで愛でたいか。果実にして味わいたいか。

どちらを選ぶかはあなた次第なんだろう。







ハラリ

ひらり




春は来る。

春はやって来る。

恋の季節が足音を忍んでやって来る。

だけど、春風を知らない時間だってある。

知っているでしょう?




はらり

ヒラリ


恋は舞う。







恋を教えてくれませんか。




人魚の姫は一目惚れ。初めて見た人間は王子様だった。初めて見た人に彼女は恋をした。初めて見た人魚に彼は恋をした。初めてが別の人でもあの恋は成立したのだろうか。

教えて、人魚姫。

あなたは何に恋をしていたの?

人魚の恋は泡となって海の底。


白雪の姫は運命。偶然が重なって姫と王子は出会った。それは誰かの嫉妬が作り上げた舞台の上に成り立っている。一つでも条件が違えば足を踏み外してしまう。姫はどんな可能性を胸に横たわっていたのだろうか。

教えて、白雪姫。

あなたは誰に恋をしたの?

白雪の恋は足跡すら残っていない白雪(はくせつ)の上。


茨の姫は試練。困難を乗り越えた先に待つ出逢いを求めて、彼の人はやって来る。長い時間を夢の中で待ち続ける姫は試練に打ち勝つことができたのだろうか。茨の中を進む人は望んだものに出会えたのだろうか。

教えて、茨姫。

あなたは誰と恋をしたの?

茨の恋は棘だらけの庭園に眠り続ける。




教えてください。

恋をしたことのない自分に、恋というものを教えてください。

たった一回でいい。自分だけの恋というものに出会ってみたい。だから、教えてくれませんか。

自分に、あなたの出会った恋を教えてくれませんか。


恋がしたい。

恋がしたい。

恋がしてみたい。

恋がしてみたい。

恋をしている。恋をしていた。

恋を、探している。恋を、見つけた?

恋と出会った。恋と別れた。

恋がしたい。

恋が、したい。


恋の話は尽きることがない。

ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ口は動き続ける。いつの時代だってそうだった。

恋を夢見る人たちは本当の恋を語ることができない。夢が現実にならない限り、自分だけの恋を語ることなんてできないのだ。

幾多のおとぎ話。ラブロマンス。いつだって人は夢を見続ける。

素敵な恋話。ロマンティックな恋夢話。自分が主人公になったかのように語られ続ける夢のような話たち。それらのほとんどは現実ではない。現実ではないからこそいくつもスパイスを追加してより刺激的に、より情熱的に、より繊細に語られ続ける。夢の中には素敵な恋がいつだって溢れ返っている。だが、現実はどうだろうか。

現実にある恋は綺麗で素敵なものばかりではない。いくら自分だけの特別な恋だと言っても、誰にも言えない恋だってある。誰にも言わない恋だっていくつもある。

まるで、どこか満足しきれていないかのように。

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