桃とウイスキー
小柳日向
桃とウイスキー
先日友人たちががやがやと我が家に泊まっていったわけだが、私はその間眠ることが叶わなかった。
昼夜逆転している、クソみたいな生活リズムが一番の原因であるが、兎に角私は人と同じベッドで寝ることは苦手な分類なのである。
そう云う訳なので、朝が来るまで小説の組版などをして過ごして居た。
宅飲みが終わった後は嵐が去った後の様な惨劇で、片付けるのも私を憂鬱にさせた。友人たちは引きこもりがちな私の為に、色々と試行錯誤してくれる。
外に出られるように、元気を取り戻せるように。
しかし私の自堕落さというものは、自殺願望が転じたかと思われるくらい根深いものである。起き上がれない気怠さというものは、うつ病の人間には理解できるだろうし、うつ病でなくても、万人がだるさというものと闘っていきていることだと、私は十二分に知っているのである。
私の怠惰さは引きこもりと云う形で顕著に表れているが、思い返してみても欲しい。自分の怠惰さは何処に潜んでいるのか。ないとは云わせない。怠惰さこそが、通常の生活のどこかで働かなければ、人は重圧につぶされて死んでしまうだろう。
ところで、私は先日の宅飲みの片づけをしていた。通常缶類のゴミは作らない主義であるが、こうした場合だと致し方ない。燃えないゴミ袋を引き摺り出し、ペットボトルゴミを今週のゴミ捨て日に備えてまとめていく。
片付けに気が乗ってくるとフローリングを拭き出し、コロコロで絨毯を掃除し出す。しかし、総てに手が届く訳でもなく、時計は早朝の五時を回っており、空は白みだしておる。
冷蔵庫の中身も整理してみたが、そろそろ熟れた桃がひょっこり現れる。
そういえば絵画のモチーフにした後に、友人と食べる気でいたのだが、すっかり忘れてしまっていた。
桃を剥きながらウイスキーのソーダ割りを飲んでいた。ゴミ捨てする際に、ウイスキーの瓶も開けてしまいたかったのだ。冷たく甘く、しゅわっと舌を刺戟するウイスキーは私の喉を熱しながら嚥下していく。
今ここに私一人しかいない。その淋しさにあてられたわけではない。
かねてより、桃をまるごと齧り付きたいという願望があったにすぎない。
私は台所で桃の汁が溢れて手や腕を滴るのも構わずに頬張った。甘みが口の中に拡がってゆき、何か浄化される様なうっとりとした官能に満ちていた。
お酒の弱い私はウイスキーでぼんやりとしているけれども、白んでいく空の青さや桃の芳醇で甘やかな香り、味わいにあてられて、気が狂いそうな心地に堕ちて行った。
桃とウイスキー 小柳日向 @hinata00c5
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