16 母方のルーツを聞く

 それから俺はアダム伯父と共に、半日かけてラバシストクの町へと向かった。

 支線と言えども距離が長いので、座席も個室になる。


「じっくり話をするにはいい場所だ」


 そうアダム伯父は言った。


「子爵家に染まって最初から気取ったレストランを探そうって奴だったら無視しようかと思ってたがな」

「そんなところは化粧臭くて嫌いなんですよ。できるだけ行きたくない」

「ほう? そんなに化粧臭いところは嫌か?」

「嫌ですね。……五、六歳の頃、子爵夫人にペットの様に連れ回されて以来、あの飾り立てた女達のにおいというのが無性に嫌いで」


 据えられた折り畳みテーブルに頬杖をつくとアダム伯父は、


「そいつは災難だったな」


 そう言ってにやりと笑った。


「お前の父親もそういうのは嫌いそうだったな」

「父には時々会ったりは」

「いや」


 首を横に振る。


「妹の遺体を引き取った以来だな。会ってはいない。ただ時々手紙はよこした。一応妹の息子のことは気になっていたからな」

「ありがとうございます」

「よせや、改まって言われると気味悪い」

「……母の実家は準男爵家だった、と聞きましたが」

「家格だけあって、中身は反吐の出る様な親だったぞ。俺と三人の妹、リリー、メアリ、エラ。まあもう、この名付け自体手抜きもいいものでな。ネルフィルってのは元々は中央から南の方の家だった。だからほれ、俺の髪の毛とか」

「ああ」


 黒々としている。


「だから元々爵位とかどうでもいいのが多い地方だったんだが、先々代の侯爵領主が東の王女を貰ってな。それから少しばかり様子が違ってきちまって。爵位とか、身分とか、そういうのを尊いと思いたがるのが増えたんだ」


 その辺りの話は確か、サリーに聞いたことがある。

 嫁いだ本人はともかく、周囲が微妙に変化してしまったらしい、と。


「帝国の制度によって親父の親父が準男爵とやらに任じられて、それからおかしくなっちまったというか。そこにきて、うちの母親の――お前にとっては母方の祖母だな。それがまた帝都方面から来た女でな。草原特有の資源ってのがあってな。向こうの実家がそれ欲しさに娘を嫁がせた、って感じだ」


 俺は慌てて頭の中に帝国全土の地図を思い浮かべる。

 中央から南の侯爵領――だったらアイデアル侯爵か。

 あの辺りは草原が中心の広い範囲が領地となる。

 遊牧生活が基本で、アイデアル侯爵家は元々はその辺りの部族をまとめあげた家と聞く。

 羊と馬が生活の基盤で、足の速い馬、上質の毛織物の材料で有名だ。


「そこの暮らしはそれはそれで安定しているんだ。だがうちの祖父さんってのが、そうじゃなくてな。何故か帝都方面の実業家と提携すべきだ、という考えに取り憑かれちまって」


 何と、と俺は驚いた。

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