15 北東辺境伯領へ

 俺はまず貰った住所に手紙を出し、返答を待たずに大陸横断列車で四日揺られ、北東辺境伯領へと向かった。

 かの地へ行くまでは、草原や砂漠といったものも目に入る。

 恐ろしく切り立った高い山々も遠くに見渡せる。

 成る程、まだまだ知らない場所は本当に多い。

 四日間の列車移動は、とりあえず二等車両を選んだ。

 学生の身としては贅沢だが、最初の長距離の一人旅としてはまあ仕方がないところだろう。

 それでも狭い車両の中に閉じ込められるというのはなかなかなものだった。

 四日掛けて到着した領都イゲルスリート駅は帝都のそれに引き比べるとずいぶんと閑散とした印象だった。

 帝都のそれが、ターミナルであることもあり、周囲の商業施設をも巻き込んで人がごった返す場所になっているのに対し、ここはひたすら重厚な昔からの建築物をそのまま利用している様だった。

 母の墓があるのは、そこから支線に乗って半日くらいの場所。

 乗り換えのために下りた駅は、同じ月であってもずいぶんと冷えていた。

 おそらくそういう者は多いのだろう。

 多くは無いがそれでも存在している商業施設の中に、防寒仕様の服を売っている店があった。

 そこに飛び込んで帽子や襟巻き、長い上着を用意する。


「学生さん、ここに来るのは初めてかね」


 店主が問いかけてくる。


「ああ。親戚が居るので一度来てみたかったんだ。ところでラバジストクに行くんだけど、これで大丈夫かな」

「服はいいよ。ただちゃんと宿は手配しているんだろうね? 向こうはそんなに数が無いから、まず着いたら駅の案内所で紹介してもらいな」


 ありがとうございます、と言って俺は待合室へと向かった。

 ラバシストク行きの急行は、一時間程後になるという。

 軽食を食べられるスタンドがあったので、分厚い肉をがっつりと挟んだ歯応えのある丸パンと、小ぶりだが深い器に入った赤い野菜の煮込みスープを頼んだ。

 まあ、近くに座っていた客が美味そうに口にしているのを見れば、つい、だ。

 実際美味い。

 学校の休日に街に出ればあちこちのスタンドに立ち寄ることもあるが、ボリュームの質が違う。


「いい食べっぷりだねえ兄さん」

「まだ半日がとこ行かなくちゃだからなあ。持ち帰りできる?」

「ああ無論だ」


 そう言って、冷めても美味いらしい丸パンサンドを紙袋にたっぷり入れてもらった。


「横断列車でなくとも湯沸かしがついてるかな?」

「ここいらは駅と駅の間が長いからな。湯沸かしと便所は確実だ」


 それはありがたい、と俺は大きく頷いた。

 すると唐突に。


「この若いのと同じのを」


 そう言う太い声が横から聞こえた。

 俺は驚いてその声の主を見上げた。

 引き締まった身体、焼けた肌の中年男がそこには居た。


「なるほど、似てるな」


「え」

「アルゲートだな? アルゲート・サンパス」

「……貴方は」

「お前の手紙は昨日届いたんだがな、お前の親父は電信でくれぐれも頼む、と言ってきやがった。どうしようと迷ったが、まあ、悪くなさげだな」


 どうやらそれは、目的の伯父、アダム・ネルフィルの様だった。

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