7 もやもやの正体

 もやもやの正体が判るまで、実に二年がところかかった。


「……お前等本当に仲がいいなー」


 増える手紙の応酬に、とうとう二人部屋になったリチャードが呆れた声で言った。


「いや、サリーが何かと物語の感想を聞いてくるし」

「うん、だからそれにいちいち付き合ってやってるんだろ? って言うか、最初は歴史や文学の成績上げるためだっただろうに。今は何だよ」

「返す言葉もありません」


 そう。

 いつの間にか本当に歴史や文学の成績などどっちでもよくて、彼女に乞われるままに物語の出来をああでもないこうでもない、とばかりに受け答えしているのだ。


「熱心だし、それにどんどん上手くなってるぞ」

「それでもお前、普通女の子が書く物語に付き合ってられっか?」

「サリーの書く物語はどっちかというと少年向けだぞ? お前読んだことないだろ」


 ほら、と手元にあるものを渡す。


「なになに……? 海底軍艦の…… いつの間にそんな話になってるんだ!」

「で、俺の方も船とか取引とか、そういう教えられる知識は教えているんだけど」

「だから言ったろう! お前ら仲いいなあ!」


 はあ、とリチャードはため息をつく。


「お前がこれで子爵家の跡取りで無かったらなあ……」

「え?」

「逆に考えてみろ。あのサリーが、妹の中で唯一社交界を嫌いな、あのサリーがだぞ! 唯一仲良くできる男! しかも真面目な! 絶対うちの家族、お前が子爵家の跡取りでなかったら婿にする! と息巻いてるぜ」

「えっ」


 正直その方面に頭を動かしたことが無かった俺は、十七にして、ようやく自分のもやもやする感情に名前がついたのを知った。

 正直、今までそういうことを考える余裕が無かったのだ。

 実家は神経を使う。

 祖父母宅も同様だ。

 唯一気が抜ける「家庭」的なところがこの友人宅だったのだ。


「で? お前は俺の妹のことどう思ってるんだ?」

「あー…… 好きだけど」

「うん。それは判る。……まあ、お前のことだから、その好きが恋愛というよりは、家族愛ってのも残念ながら、判る」

「判るのかよ!」

「そもそもクソ真面目で、先輩達の猥談に誘われても何だかんだ理由つけて逃げるしよ、俺ですら先輩の話とかは聞きたいぜ?」

「うーん…… よくそんな時間があるな、と」

「だから先輩達はお前ほど勉強を重視してないの! と言うか、お前医学部と経営学部両方取ろうとか思ってないか?」

「このままだと、そうなる」

「あ~よせよせ。二兎を追う者は一兎をも追えずだ。お前は医者になりたいんだろ? と言うか、視野がこう!」


 顔の前で、馬の目隠しの真似をする。


「なっちまうから、経営に向いちゃいないんだよ。理屈はともかく」

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