6 文学と歴史と物語作りが好きなサリー

「ねえ、感想を言ってくださいな」


 文学と歴史が好きなサリーは休暇に遊びに行くと、俺に書き上げた原稿を見せては、面白かったかどうか尋ねてくる。

 内容は、歴史を元にした活劇だったりおどろおどろしいものだったり、悲劇だったり……


「面白いとは思うけど」

「けど?」


 ずい、と彼女は迫ってくる。

 とても淑女の距離ではない。

 サリーは他の女きょうだいが、それでも社交界に出ようとする中、一人ひたすらこつこつと文章を書き綴っている。

 たださすがに読者が居ないのが辛いそうで、手紙の中に小品の書き写しを送ってくることが多い。


「俺は君の手紙の中の様な話が好きなんだけど」

「え! でもあれはただのおとぎ話の様なものじゃないですか!」

「うん。でもこっちの長い話は、確かに色々あるという意味では面白いけど、歴史を知ってる前提で書いてる気がするんだよな」

「あああああそうですねえええええ」


 サリーはそう言って思いっきり凹む。

 そういうところが面白い。


「アルゲートさん、じゃあどうすればいいと思いますかっ」

「うーん…… やっぱりどういう人に向けて書いてるのか、まだ君考えてないよね」 

「どういう人?」

「ああ。書きたいことがだーっとあるのは判るし、たぶん気晴らしに読む様な楽しい話…… 内容はともかくね、そういうのを書きたいんだよね?」

「はい。私、昔っから本が大好きで。何かの時間の隙間があれば読んでましたから!」

「そういう時に、しちめんどうくさい説明がずらずら続くもの読みたいかなあ」


 はた、と彼女は膝を打った。


「なるほど! たとえばアルゲートさんの様な忙しいひと!」

「いや、俺である必要は無いけど」

「でも私の周りって兄さん含めて、読んでくれるひと居ないんですもの。姉さん達も『あんたの物語読むより流行のドレスカタログを見た方が有意義だわ』って」


 まあそれはそうだろうな、と俺も思う。

 普通の淑女ならば。


「でも君だってそのうち社交界には出るんだろう?」

「無理に出なくてもいい、と母さんは言うんですよね。うちの手伝いをするならそれはそれでいいって」

「……大らかだね」

「商売の関係でおもてなしすることもあるから、その時に人手が必要なんですよ。うちの使用人だけでは足りないこともあるし」

「使用人は増やさないの?」

「どうなんでしょう。そのうち兄さん達が結婚したら増築するかもしれないし、そうしたら増やすかもしれないけど」

「お姉さん達はそろそろ結婚話が出てるんだよね」

「はい。上二人は最近婚約しましたし」

「君は?」

「だから、別にしなくていいなら、しないかも、と」


 何となく胸の中がもやっとした。 

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