死のうと思った日、子供を拾いました
鳴咲 ユーキ
第1話
《ねぇ、流希、明日とうとう結婚式だね。私、明日が待ちきれないよ》
「ああ、そうだな。俺もだ。今日は早く帰れるようにするから、結婚式の日は二人で手をつないで会場まで行こう」
《何言ってるの。そんなの当たり前でしょ。それじゃ、早く帰ってきてね。待ってるから》
それが、彼女との最後の会話だった。
俺と電話をした一時間後、彼女は死んだ。マンションの隣の部屋が火事になったせいで。隣の部屋にいた子供を助けに行って、彼女は死んだ。子供は無事保護されたが、彼女は間に合わなかった。
隣の部屋の家族は両親が共働きで、いつも十八時にならないと彼らは帰って来ない。
つまり彼らの子供は小学一年生なのに、十八時までほったらかしにされているんだ。それでなにかトラブルが起きないハズもなかった。
きっとそれが危険だともわからず、出来心でガスコンロの火をつけてしまったとかそういう不慮の事故が原因なのだろう。
「子供が死ねばよかったのに」
それでも俺は、そう考えずにはいられない。
「……なんで今なんだ。何で今なんだよ!」
安置所で、声が枯れる勢いで叫ぶ。しゃがみこんで遺体の頬を触り、感触を確かめる。
さらざらしている。数時間前まですべすべだったハズなのに、今は焼けただれていて本当に酷い状態だ。体温は異様なほど低く、顔は焦げて誰のものなのかもわからない。それでも、よく着ていたお気に入りの花柄の部屋着を身にまとっているのを見れば、一瞬で彼女だとわかった。
いや、本当は俺は電話で死亡を聞いたあの時から、彼女だと確信していた。
子供が大好きで、正義感に溢れている彼女らしい最期だと思った。それでも、果たして今である必要はあったのだろうか? と。
何で子供ではなく、彼女が死んだんだ! と。
罰当たりだとわかっていながらもそう思うことは、果たして罪なのだろうか。
それが罪だというなら、誰か、今すぐ俺を殺してくれ。
そして、彼女に会わせてくれ。
だってこんなのあんまりだ。幸せな家庭を築くハズだった。彼女と、彼女が生んだ可愛い子供と笑い合って仲睦まじく生きていくハズだったんだ。それなのに、何で今壊れるんだよ。
――頼むから、もう一度だけ彼女に会わせてくれ。
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