第10話甘

幾度となく体を重ねても、

どれだけの時間を費やしても、

言葉では表してくれない。

表す事ができない。


だからこそ一度だけの「好き」は

記憶はから帰る事はない。

その一言だけで、自分がいつまでもみかを忘られなくなっている事は、確かだった。


かなに愛情を注ごうと努力している時点で、

それが本当の愛情ではない事は知っていた。


かなと一緒にいれば、

自分は変われると

自分も他の人のように愛情という物が何なのか分かるはずだと

そう努力をした。


その選択が自分苦しめ、自分が自分では無くなっていく時間の中で膨れ上がったのは、

自分の中にある、人とは分かり合えない感情だった。


「すまない。かなを苦しませて、

オレは、全て捨ててでも、必ずミカと一緒にいたい、少しだけ待ってくれないか」


「いいのよ、それまで私が待てるかわからないけどね」


みかの表情は穏やかだった。


「かつは、私とも分かり合えないわ、

ただ、私はそれも理解してあげれる

だからかつは、私と居られる時間が楽しいのよ。本当に私の事が好きなのもわかってる、それでも今は、私はかつに心を開かない」


「みかには、かなわないよ•••ありがとこんなオレと向き合ってくれて。

オレが包み隠すさず、自分で居られる場所で居てくれて本当にありがと。」


「私もかつと居られる時間はとても楽しいわ。

それだけ

ただそれだけよ、それ以上も、それ以下もないわ。今はね…」


ここでも、大切な部分は濁す、みかに救われた。


「さぁ、かつ今日は帰りましょう。かなちゃんが待ってるわ。

かつはこれからも、自分を騙して、いい人を演じ続けて、周りの人達に祝福されるのよ。

けど、本当は自分に素直に生きていいのよ」


「そうするよ。

またみかの前では、わがままに生きることにするよ。 助かるよ。」


そうしてホテルを後にした。

少し雨が降る昼下がり

真逆に歩いていくみかの背中を最後まで見送り、

帰路につく。

タバコに火をつけ、空を見上げた。

(傘は買わないでおこう)

今日の雨は何故か少し嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る