第22話 モナの想い
スタンピードは、俺たち【エクスポーション】が数日前に鎮めた。
そのはずであった。
「……スタンピードなのか?」
俺の予想が正しいとなると、色々と状況が良くない。
周期的に発生するスタンピードは、元々数年にあるかないかくらいの間隔であった。
しかし、近年はその間隔がどんどん縮まってきている。
──数日単位でスタンピードが来るとか、流石に笑えないぞ。
「おい、ヴィラン……不味いぞ!」
「ハハッ、何慌ててんだよ。初心者冒険者みたいだぞ」
「笑ってる場合か!」
スタンピードという言葉にも動じない。
ヴィランは、平常心のままに帰路を進み続けていた。
危機感が欠如しているわけではない。
ヴィランほどの男がそんな鈍感なやつではないからだ。
……きっと、ヴィランは最初から。
「暗い顔すんなよ。明日世界が終わるわけじゃあねぇんだからさ!」
ヘラヘラしているものの、その言葉は俺に安心感を与えてくれた。
異常な魔物の大量発生。
もしスタンピードが発生するとすれば、それは一箇所では済まない。
複数箇所からの同時攻撃。
街に被害が及ぶということをヴィランは考えていたのかもしれない。
「……だから、アレンたちが戻ってこなかったのか」
俺の呟き。
その独り言のような問いかけにヴィランは告げる。
「レオの予想通り。スタンピードは予測していた。そして、アレンたち3人を街に居座らせたのも意図的なものだ」
「それって……」
「ああ、アイツらは今頃、俺たちとはまた別の場所で戦っているだろうよ」
「──っ!」
──そんなこと、知らなかった。
「どうして、俺に教えてくれなかったんだ」
ヴィランの口振りから察するに、俺以外は皆このことを知っていた。
しかし、俺はそんな話を聞いたことはない。
俺だけに秘密にする事情。
……それが分からなかった。
──どうして。
教えてくれなかったという事実が突き刺さる。
仲間なのに、そんなことさえ秘密にされるのか?
……不快感が込み上げてくる。
決して抱いてはいけない。
大切な仲間に信頼されていないのではないかという疑い。
──いや、きっとそうじゃない。
「……俺に黙っていた理由。聞いてもいいか?」
【エクスポーション】のメンバーは、俺のことを信用してないなんてことはない。
以前の仲間とは違う。
俺のそんな心情を察してか知らないが、ヴィランは優しげな顔で頷く。
「レオ、これは決してお前に話せない内容だから黙ってたわけじゃない。スタンピードくらい、俺たちなら解決できるし、話を聞いた時にする動揺も他の冒険者に比べたら小さいもんだろうよ」
「ああ」
「お前に今回のことを話さなかったのは、モナの意向を尊重したからだ」
ヴィランは言うのだ。
これは、モナが望んだことであると。
「どうして、そんなこと……?」
「どうしてだと思う?」
ヴィランは問い返してくる。
どうしてか、と。
モナがどうして、この話を俺に言わないでほしいと考えていたのか。それは何故かと聞いてるのだ。
「……分からない」
「そうか、分からねぇんだな!」
ヴィランはまるで面白いことでも聞いたかのように爆笑する。
いや、今のはそういう場面じゃないだろ。
本当に分からない。
モナの気持ちも、ヴィランが笑っている理由も。
ヴィランは笑い尽くした後に、涙目ながらに告げてくる。
「レオは、やっぱり鈍感過ぎんだなぁ……モナも苦労するわけだ」
この言葉の意図は分からないが、
……少なくとも、俺のことを非難しているような口振りではない。
なんでそんな簡単なことに気付いていないんだと、微笑ましく見守っているような感じだ。
──鈍感。鈍感か……。
その鈍感という言葉が何に対してなのかすら、今の俺には分からない。
だから、ヴィランに顔を向ける。
「おい、俺にも分かるように話せって」
ヴィランに詰め寄るが、ヴィランは首を振る。
「言うわけねぇだろ。……これは、お前が自分自身でちゃんと知らなきゃいけねぇことなんだからさ!」
「俺が?」
「そうだよ。モナのこと。……仲間のことをちゃんと観察しろ。きっと、お前の知らないことがあるはずだ」
「俺の知らないこと?」
「そうだ。勿論、悪いことじゃあねぇぜ! それこそ、お前が知れば飛び上がって驚くくらいのことかもしれねぇがな!」
……そんなことを言われた。
俺が知らないこと。
俺に対して、仲間がどう思っているのか。
俺にとってプラスなこと。
3年間共にパーティを組んできて、【エクスポーション】の仲間たちについてはしっかり把握しているつもりだ。
俺の知らないこととは何だろうか?
だからこそ、答えの見えない問題をヴィランは提示してくる。
俺の疑問は潰えないままである。
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