【Web版】追放された盾持ちは3年の時を経て最強Sランクパーティの一角を担う

相模優斗『隠れ最強騎士』OVL文庫

一章〜パーティには戻らない〜

第1話 追放されたが……パーティに誘われた






「追放されたのか? なら、お前……うちに来い!」


 俺がおっさんに出会った日は、夕暮れのよく晴れた日のことであった。

 その日の俺は、かなり荒んだ心境にあった。




『レオ、お前はこのパーティに相応しくない。出ていってくれ』


『は?』


 その日、俺はパーティからの追放を言い渡されていた。

 大盾使いのレオ。

 それが俺の名。


 敵のヘイトを一手に引き受け、盾役としては、それなりに活躍していたはずだった──。


 けれども、それは俺の勘違いだったらしい。

 一瞬だけ、悪い冗談かとも思ったが、Cランクパーティ【聖剣の集い】のリーダー、ランドは真剣な眼差しのまま、「出ていけ」と手首を上下に振った。


 しかしながら、俺は納得していない。

 自分の役割はしっかりこなしていた。

 何が不満であるのかが分からない。



『おいおい、流石に嘘だろ?』


『嘘じゃないわ、貴方はもう必要ない』


『カナ……』


『私もそう思うよ。レオは、私たちの足でまといにしかならないもの。このままじゃ【聖剣の集い】は、上に行けなくなる』


『ラウラまで……』


 回復魔法使いのカナ、攻撃魔法使いのラウラも俺に対して、ランドと同様に侮蔑を含んだ視線を向けてくる。


 まるで俺がお荷物かのような言葉遣い。

 今までの時間はなんだったのかと、不意に考えてしまう。



 ──なんでだよ。ずっと一緒にやってきたってのに!



 最低ランクであるFランクから同じパーティでやってきた俺にとって、仲間からの容赦ない言葉は、心に突き刺さった。

 仲間だから背中を預けられる。

 ずっと一緒に上を目指せる。

 しかし、そんなことを考えていたのは、俺だけ……。


 ──最低だな。こいつら。


『俺はいらないと、そう言うんだな』


『ああ、本当に迷惑だ。盾を持って立ってるだけのレオは、はっきり言って邪魔でしかない。攻撃もしないで、俺たちのおこぼれにありつく寄生虫。……はぁ、頼むから、俺たちの前から消えてくれ』


『……分かったよ』


 そう告げられ、僅かな手切金をレオは渡された。


 ──何が、消えてくれだ! 当初、誘ってきたのは、そっちだったくせに! 


 込み上げてきた怒りは収まる気配を見せなかった。

 配慮の欠片もない突然の追放。

 心の整理を済ますには、多大な時間を要するものであった。


 そんなことがあったその日のうちに、

「追放されたのか? なら、うちに来い!」なんてことを言われたものだ。


 冷やかしかと考え、更に怒りが込み上げてくる。


「悪いが、今の俺は気分が悪い。構うな」


「嫌だね!」


 こちらの威嚇にも怯まず、その男はキッパリと告げた。

 ──なんなんだコイツ? 

 気がつけば、「は?」と無意識に声を出した。


「何をそんなに驚いてる? 勧誘してんだぜ、こっちはさ」


「冗談も大概にしろ」


「冗談じゃない。俺は本気だ。俺の目を見ろ」


 ──意味が分からん。こんなCランクパーティから追放されたやつのどこに魅力感じてんだ?

 男の煌めくように眩しい瞳を見ながら、そんなことを考えた。



 ──イカれてるか。イカれてるか。イカれてるか……だな。


「お前、人を見る目がないぞ。医者に目の治療でもしてもらえ……」


 そう告げてみたものの、目の前にいるその男は、俺の言葉を鼻で笑い飛ばした。


「馬鹿言えって! 俺はなぁ、人を見る目だけはあるんだ」


「それなのに俺なんかに声をかけたのか?」


「違う。そうじゃない」


「じゃあ、なん……」


「お前だから声をかけたんだ!」


 思わず、耳を疑った。

 理解しがたいことだったから。


 ──俺だから声をかけただと? やっぱりおかしい。


「やっぱり、見る目がないな……」


 そう捨て吐いた。


 けれども、内心穏やかではない。

 過去のパーティで、俺は力を隠していた。

 俺の持つ力は特殊であった。

 戦闘中に使ってはいたが、わざわざ話すこともない。

 もし、俺の持つスキルが強力であることが知られれば、悪用しようと俺たちのパーティに介入してくる奴が現れるかもしれない。


 そう考えた俺は、【聖剣の集い】がAランクパーティ以上になるまでは、このことを伏せておこうと考えていた。


 パーティ追放を言い渡されるような立場になった時であっても、その事実は秘匿した。

 言っても意味がない。

 そもそも、その力のことを告げたところで、嘘であると馬鹿にされるのがオチであると感じていたからだ。


 ……それを目の前の男は看破しているように感じる。

 もちろん、俺が誰かに他言したことはない。



 ──気付いてんのか?



 その男を心底不気味に思う。

 まるで、こちらの情報を読み上げているような変な感覚。


 早々に立ち去ろうとしたが、男の呟きを聞き、動きを止めることになる。


「お前のオーラがな。気に入ったんだ」


「……」


「おいおい、信じてないだろ」


「ああ」


「そうだろうな。けど、俺の経験則として、お前みたいなオーラを持ったやつは化ける。きっと、まだ才能を発揮しきれていないだけだ」


 優しい声音。

 利用するためではない。

 ただ単に、この男は善意で自分に声をかけたのだと、理解できた。

 ──変なやつ。


 パーティ追放者。

 そんな、はみ出し者と関係を持つことは、冒険者内において忌み嫌われる行為だ。

 ──そのリスクを冒してまで、俺と組みたいってのか?


「おい」


「んん? 俺のとこに来る気になったか?」


 男は横柄な態度でそう確認をしてくる。

 そんな彼の堂々とした振る舞いが最後の決め手であった。


 ──決めた。そんなに言うんなら、組んでやろうじゃないか。

 俺は、男に手を差し出した。



「ああ、入ってやるよ。お前と冒険者でもなんでもやってやる」


「……いい目だ。お前は、もっと上を目指せる!」


 この日より、目の前の男と共に歩むことを選んだ。

 そして、最強パーティの一角として、俺が『毒壁の守衛レオ』という名が呼ばれることになる転機でもあった。

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