君にいれたいほど嫌悪感

みやにし

[01]つられいざない

 僕には幼馴染がいる。

 幼稚園の頃からの付き合いだ。

 昔から僕が遊べば彼女が隣にいて、彼女が遊んでいれば僕が隣にいた。双子のような、遠くなく、浅くなく、性別こそ違えど僕たちは限りなく近い距離で生きてきた。

 だが無論相違点はある。

 圧倒的に彼女は優れていたのだ。

 文武両道、眉目秀麗、あわせて才色兼備とその字足らずなしの彼女に、僕の両親は僕と彼女をよく比べてはため息をついていた。

 四年前に他界した祖父は「ため息をすれば幸せが逃げる」と僕に言ってはくれたが、実の母がこうであっては遺伝もするというものだ。

 口は災いの元、やはりというか僕はツイていない人間なのだろう。最近は良くないことがよく起こる。

 それと同時に僕の気持ちも沈んでいく。僕たちを例えるなら朝焼けと夕焼けか、彼女が朝で僕は夕方。

 くだらないことを考えるうちに自分の家が見えてきた。だが僕にとって帰路は日課であり最悪なことだ。

 なぜなら僕の隣にある彼女の家を、必ず通らなければならないから。その度に僕は耐えがたい劣等感にかられ、心が紫色へと変色していく。

 が、今日はどうやら違うところがあるらしい。

——ガシャン!

——パキ……

 まるで乾燥した木材を、床にいきおいよく叩きつけたかのよう。

 その音は僕が家に近づけば近づくだけ比例してくる。近くで工事の噂も聞いていない。その音に誘われるように、僕は足を進めていく。



 普段なら足早に通り抜けてしまう道。

 喧嘩もなく一緒にずっと過ごしていたのに、いつしか顔すら見せなくなった。

 高校は部活もクラスも別で、今となってはお互いの顔すら知らない。

 彼女が……。



「……」

 憂愁の思い出たちとは裏腹の光景。

 暗澹とした夕焼けには似合わないようで、おあつらえ向きの絶景は、僕の足も言葉も思考さえも止めてしまった。

「あぁ……久しぶりだね」

 透き通った品のある声に綺麗な指先、整った顔は太陽の如く。間違いなく最後にあった彼女と同じ。だったのだが、

「なにを……してんの?」

 今はその全てに僕と同じ紫色の空を感じる。

「なにって……」

 彼女は白く薄汚れてなお綺麗な手からハンマーをおろす。

「ケンタロウの骨を砕いてるの」

 彼女は骨粉まみれの庭で微笑んでいる。

 僕はこの日の異常な夕方の光景に、格別の絶頂を覚えた。これは何年、何十年と経っても忘れられないだろう。

 グリーンフラッシュのような、一瞬のときめきであったが。

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