Asaka
@tanakakyouhei
第1話 同級生(1)
雨の音で目が覚める。何時だろうか。時刻を確認する。夜の八時四十五分だ。
俺は気だるさを感じつつも布団から抜け出す。トイレに行って、顔を洗って、歯を磨いて、服を着替えて、最近購入した金属バットを持って家を出る。
雨は嫌いだ。傘をさすのもめんどくさいし、さしても多少は濡れるし、車から雨水をかけられることもあった。
俺は足早に田城佑樹(たしろゆうき)のいる会社に向かった。俺の調べではこの時間帯に田城は帰宅する。
会社が見えてくる。そこから一人の男が出てきた。男は怒りを露にした表情をしている。俺が待っていた男、田城佑樹その人だ。
田城は会社の入り口から動き出した。俺は慌ててヤツに付いていく。徐々に人気のない道に入っていく。
田城がピタリと動きを止める。俺も慌てて止まる。
「さっきからなんなんだ!人の後付いてきやがって!」
ギロリと後ろを振り返り睨み付けてくる。
「その顔、見覚えがあるぞ。唐沢だ!唐沢直樹(からさわなおき)!中学以来会ってないお前が俺に何の用だ?」
ソッコーでバレてしまった。仕方ない。意を決して田城の前に歩み寄る。
「用なんて分かるだろ?お前が俺にやってきたことヘの報いだよ。」
「報い?何年前の話だ?中学だぞ!まぁ、ちょうどいい。腹が立ってたとこだからよ、一発殴らせろ!」
「殴るのはこっちだ!バーカ!!」
俺は持っていた金属バットを田城の顔面に向かって振る。それを田城は腕でガードし、受け止める。
「腕痛そうだな!大丈夫そうか?」
「心配すんな、痛いのはお前の方だから!」
田城はガードした腕で金属バットを持っている俺の手を掴み、反対の手で俺の顔面を殴る。
痛ぇー!思わず声が出そうじゃねぇか!
俺は起き上がろうと前を向くと田城の足が一瞬見え、次の瞬間顔面にさっきの比ではない痛みが走る。田城に顔面を蹴られたのだ。涙目になりながら田城の足にバットを振る。倒れた状態のままでの攻撃のためそこまでのダメージはなく、田城は一瞬怯んだぐらいだった。その隙に起き上がることに成功し、田城と距離をとる。
「やるじゃねぇか、唐沢!」
「うるせぇ、バカ野郎!」
田城は冷静さを取り戻したのか、考える仕草をする。
「何考えてんだ?」
こっちももう体力が切れているので温存を図るためにも田城に話しかけ時間を稼ぐ。
「お前、仕事は?」
「クビだよ!無職だよ!働いてねぇよ!」
「俺も今日クビになった。」
それで腹立ってたのか、納得する。
「唐沢、俺と組め。」
「は?何でだよ?」
「俺をクビにするように言ったヤツがいる。会社の上層部がそれを素直に聞いて俺はクビにされた。分かるか?会社の上層部が口出しできないような大物がいる。しかも俺一人をピンポイントで狙ってな。」
「誰かに恨まれてんじゃねぇのか?」
「その線もあるが、クビにされたのは俺だけじゃない。中学の同級生がクビにされて就職先も見つかってない、偶然にも同じ時期にだ。偶然にしては出来すぎてる。つまり、意図的に俺たちを狙ってるヤツがいる。そいつが誰か興味があって、クビになったあと、上層部の一人に詰めよったら吐いたよ。」
「誰だったんだよ?」
「俺たちの中学の同級生の一人、山中卓(やまなかすぐる)。俺たちが真に殴らなきゃならねぇヤツの名だ。」
*
「これからどうする?」
「中学の同級生に当たるしかない。山中の家なんて知らねぇし、とりあえずクビになってる同級生と接触しろ。俺は中学に行ってみる。まだあの時の教師がいるかも知れねぇからよ。連絡先教えとく。お前はまず川野の家に行け。」
「は?お前、川野ってまさか、連絡取ってたのか?お前ら。」
「ああ、家も知ってるから教えてやる。それはそうとお前、どうして俺の会社知ってんだよ?」
「お前の実家知ってたから行って教えて貰った。」
「てめえ、マジかよ!?」
田城はまだ何か言ってやがる。こちとら体力切れて疲れてんだよ。はぁ、帰って寝てぇ。とりあえず明日川野の家に行くとするか。この川野という男も俺の報復する相手だったが今は休戦中だから仕方ない。一発で我慢しよう。
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