蒼きエリュシオン〈改〉

赤木フランカ(旧・赤木律夫)

Op.01 蒼の狭間で

Op.01 蒼の狭間で①

 青黒い海が傾き、回る。海面と細かな流氷が星のように光り、視界を流れていく。


 海東かいとうキリナはその中に流氷とは違う金属的な輝きを見つける。それは現在交戦中の敵戦闘機が翼に日光を反射した輝きだった。


「敵機発見!」


 キリナは操縦桿を引き、右に旋回しつつ降下。重力を利用して加速し、敵を追尾する。


 敵機との距離が詰まり、キリナはその姿を肉眼で捉える。主翼の前方にカナード翼を配置し、内側に傾いた垂直尾翼を持つ単発の戦闘機――JaD-21「ダストロ」だ。


 その主翼には燃え盛る炎のマークが描かれている。船団都市を拠点とするテロ組織、「火の国」が保有している機体だ。


 敵機はキリナの追尾を振り切ろうと機体を翻す。軽量なダストロは小回りが利く。双発の大型戦闘機に乗るキリナは、急角度で旋回を繰り返す敵機に翻弄される。


 しかし、旋回を繰り返すうちに敵機は速度を失い、一瞬だけ動きが鈍った。キリナはその瞬間を逃さずロックオン。操縦桿のスイッチを押し込み、短距離ミサイルを発射する。


 敵機はフレア(熱と赤外線を放出するデコイ)を散布しつつ左に舵を切る。ミサイルは外れたが、キリナは相手の未来位置へ機関砲の照準を合わせ、トリガーを引く。〇・五秒の射撃の間、フレームを伝わった振動がキリナの背骨に響く。


 砲弾は敵機の右翼に着弾し、根元から引きちぎる。片翼を失った敵機は不規則に回転しながら高度を下げ、海面に叩きつけられた。


「敵機撃墜」


 無感情な声で防空指揮所に報告した直後、キリナの鼓膜を尖った警告音(アラート)が突き刺す。後方よりレーダー照射を探知。キャノピーのフレームに設置されたバックミラーにもう一機のダストロの姿が映る。


 キリナはスロットルレバーを倒し、敵機の射程外へ離脱を図る。速度性能ならこちらが上だが、急激な加速はパイロットにも負荷を与えた。シートに身体を押し付けられ、息が詰まる。


 そこへキリナの僚機であり後輩の根室ミサから通信が届く。


〈キリナさん、そのまま真っ直ぐでお願いします!〉

「了解!」


 キリナは彼女の指示に従って直線的な機動をとる。首を巡らして敵機の方を見ると、その後ろから両翼に大型のエンジンポッドを搭載した戦闘機が現れる。RW-15「アスベル」――キリナの乗機と同型機だ。


FOX2フォックスツーッ!〉


 ミサが短距離ミサイル発射のコードを叫ぶ。アスベルから発射されたミサイルは、緩やかな曲線を描きながら飛翔し、敵機のエンジンに突き刺さる。炸裂したミサイルに機体を内部から破壊され、敵機は爆散した。


〈敵機撃破!〉

「ナイスキル。援護ありがとう、ミサちゃん」


 先輩に褒められたミサは誇らしげに〈ランチ奢ってくださいね?〉と返す。キリナは「はいはい」と応え、防空指揮所に連絡する。


「こちらノシュカ隊。全ての脅威の排除を確認。これより帰投する」


 通信を終え、キリナは機体の進路を基地の方角へ向ける。データリンクで航法システムを接続されたミサの機体は、キリナが指示を出さなくても後についてきた。

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