恋も叫べば、血が巡る
蒼井どんぐり
第一話 : 第82回放送
「あ、あー、これ入ってるかな。この前の回で結構ガタが来てたから…。もう、ダメなのかな…。えい!」
「あ、ついた? よかった…。ええと、では、はい。どーも。ショーコ、ですー! えっと、初めましての人もいつも聞いてくれてる人もこん、にち、わー!」
「この放送も始めてから、どれくらいでしょうか? 前回たしか…キリ良く終わったので、改めまして自己紹介から始めた方が良いですかね。よ、良いですよね、きっと。うん。えっと、この放送は私、ショーコの不器用な恋の話を、だらだらと語る放送なんですね。え、なになに? そんなの求めてない? そんなこと言わないでー!」
「実は私、今ある船に乗船しているんですね。たくさんの船員も乗り込む豪華な船。男女数名が客として乗船して。長旅の渡航になるので、そこで共同生活をしています。ね、何かありそうと思いませんか? どこかで見た番組、みたいな」
「たまたま乗り合わせたみんなと出会い、同じ屋根の下、共に過ごす日々。そんな日々がずっと続く中で、ですね。えっと。わたくし、人を、す、好きになってしまいまして…。今では毎日その人のことで頭がいっぱいに…。あ、でもちゃんと人柄に惹かれてますよ。でも、こんなことを話せて相談できる相手はいなくて。誰かがきっと聞いてくれるんじゃないかな、いや誰も聞いていなくたって叫ばずにはいられん!というのがこの放送なんですね。なので、ぜひ聞いてください! お願いです!」
「あー、まずはえっと、舞台であるこの船ですね……とても大きいです! その中に、客員専用の大きなお部屋はそれぞれついてるぐらい大きな船」
「私たちはこの船で共同生活を送っているわけですが、そんな生活を始めたメンバーですが、私を入れて五人」
「まずは、お調子者もののマイク。彼は技士みたいで、なんとこの船の機関士も兼ねて乗船しているみたいで。すごいですねー」
「次にお姉さんタイプのマイ。黒い長髪がとても綺麗で羨ましい。彼女、お仕事は医者みたいで、具合が悪い時の相談も乗ってくれたり。もはや私たちの母と言っても過言ではない」
「そのマイと仲良しこよしなのが、リンです。背がちっちゃい妹みたいな子です。可愛さがずるいです。彼女は管理栄養士?っていうんでしょうか? 医療系の職業同士、よくマイと話してます」
「で、で、最後にご紹介するのが、この船の船長でもある、ダンです! そう、私が恋してしまった相手。ともかく健康的な筋肉にとても優しい瞳。瞳だけじゃなく、心もとても優しい人で。ふふ。考えるだけで、彼の顔が思い浮かびます。ふふふ」
「彼を意識し始めたのはそう、出発してからまだ数日の時でした。船の廊下では船員たちが同じ制服を着込んで黙々と仕事をしていて、私たちを見かけると、とても丁寧に挨拶をしてくれるんです。なぜか私、それが中々慣れなくて。いつもびっくりしてしまって」
「私、普段からあまり人と顔を合わすのも苦手なんです。その時も下を向いて過ぎ去ろうとしたら『おはようございます。ショーコ様」と声をかけられ、驚いてしまって。瞬間、足がもつれて顔を盛大に地面に叩きつけそうになった時、たまたま通りかかった彼が両腕で支えてくれたんです」
「そして、彼が私の顔を覗き込んで言ったんです。『おっと、揺れるかもしれないから気をつけて。ショーコさん』と」
「あ、名前覚えててくれたんだ、と思うと同時に、彼と目が合ってしまいました。その瞬間、まだ乗船メンバーの顔も覚えていなかった私の脳裏に彼の顔がしっかり焼き付きました。その時は自覚はなかったんですが、きっとその瞬間から彼を意識し始めてしまったんだなと思います。今まで一度も恋なんてしたことなかったのに」
「それからというもの、船の中で彼を見るたび、どうしても彼のことが気になってしまうようになって。いつも、いつも、彼のことが、そう彼、彼のことが頭から離れなくて。これが恋だと気づいた今はもう、忘れられません」
「今だって顔が思い浮かぶ。ふふ。何度だって彼の言葉も思い出せる。ふふふ。絶対に忘れないです。絶対に。絶対に忘れない絶対に忘れない絶対に忘れない絶対に忘れない絶対に忘れない絶対に忘れな…」
ドン。
「あ、え、なんだろう。部屋の外で何かぶつかったみたい。ちょっと見てきます」
「………あ、あな…か。まだ、………てたんだ。え…と、大…夫?」
「………あ、もう…け…くなってる。や…ぱり…う限界か。ごめ…ね。よ……しょ」
「………でも、しょ…がないか。……き…と…もう…ぐだから。もう少…待…て」
「あ、えーもしもしー、聞こえますか? すいません、ちょっと船員の方が調子悪くなってしまったみたいで。ちょっと様子を見て、げ、元気付けてやりましたよ! 偉くないですか? そう私って偉い…。うん、偉い! 偉い偉い!」
「じゃあ、本日はこの辺で。また次回の放送まで、お楽しみに!」
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