#7

「比良人さん、身長伸びましたわね」


 隣を歩くさきにそう言われ、俺は嫌味かと返す。


「お前の方が高いのは気に食わん」

「あら、ちょっとした差ではありませんか。それに、身体以上に比良人さんは大変大人びていますし、わたくしの理想の結婚相手ですわ」

「だから結婚するとは言ってねぇだろ……」


 隙あらば合意を得たように振舞う咲に、見逃さず訂正を入れる。


 俺たちは高校生になった。


 高身長金髪美人の容姿はほとんど変わっておらず、対して俺は身長を一気に伸ばしてみせたのだが、それでもあと1㎝は欲しかった。

 中学時代から続く求婚は進学してもついてきていて、その理由は未だ曖昧な言葉でしか語られない。最初の頃とは咲の態度は随分と変わっているが、それ以上に厄介さが増していた。

 結局中学では二人浮いたまま卒業し、それでも大きな事件には発展しなかった。まあ小競り合いみたいなのは何度かあったが。

 高校では平和だといいな、と俺は過去を思い返しながら叶わない祈りを捧げるのだった。


「……今年は別クラスか」

 校舎入り口前に貼り出されているクラスの振り分け表を確認すると、俺と咲の所属は別々だった。中学三年間は全て同じ組だったから、若干の違和感を覚える。


「まあ以前みたく、教員に賄賂を渡していませんし仕方ないでしょう」

「やっぱ渡してたのかよお前……」

「それほど比良人さんに全力と言うことですわ」


 転校初日に隣席だったのはやはりカラクリがあったようだ。ほんと金持ちは何でもありだな。

 改めて咲の強みを実感しつつ、俺たちは出会ってから初めて、それぞれ別の教室へと向かう。

 と言っても咲は、「休み時間は顔を出します」と念押ししてきたので、あまり離れても関係はなさそうだった。

 またも中学時代のように目立つのかと考えると今から気が重い。


 ……別に、嫌いと言うわけではないんだが。


 俺も意地になって拒絶しているのかもしれない。咲に抱いている感情を言い表すなら好意に近いはずだ。

 それに彼女は飛び切りの美人。加えて金持ちで、性格も三年間やってこられたのだから合わないということはない。

 欠点と言えば、占いみたいなものを信じているという怪しさぐらいなもので、逆に言えばそれだけとも取れる。

 だというのに関係を進めないでいるのは、間違いなく俺に問題があった。



 探している人がいる。

 顔は思い出せないのに忘れられなくて。

 だから、見つけるまでは……



 俺は、今日から自分が所属する一年二組の教室へと足を踏み入れる。室内には既に教師がいて、黒板に貼られた席順表を参考に自席へと促された。

 登校しているクラスメイトは全体の半分くらい。まだ時間はそれなりにあるようだ。

 何をすることもなく教室を見渡していると、左隣の席に生徒が座る。


「あ、よろしくお願いします」

「どうも」


 ふと視線がぶつかり、律儀に頭を下げられ一応と応える。

 平均的な体格のボブカットの女子で、全体的に派手な感じはしない。

 大人しそうな性格でしかも異性だし、今後関わることはなさそうに思えた。


 それから全ての席が埋まって、教師による新入生に向けての説明が行われる。

 こうして、俺の高校生活は始まった。

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