皇女を軟禁
「……それでギルバート様、これはどういうことなのでしょうか……?」
早朝、僕はゲイブ達騎士団を連れ、クラウディア皇女のいるゲストハウスを取り囲んだ。
「申し訳ございません、クラウディア殿下。ですが調査した結果、あなたにマージアングル王国内で不正行為を行ったとの嫌疑がかけられております。ついては、僕と一緒にご同行をお願いします」
もちろん、これは僕が考えた嘘である。
だけど。
「し、失礼な! こちらにおわすのは、ブリューセン帝国第一皇女、クラウディア=フォン=ブリューセン様ですぞ!」
「これがマージアングル王国のやり方か!」
はは、ヘカテイア教団の息がかかっているのか、顔を青ざめながら食って掛かってくる連中がチラホラいるな。
突然のことで困惑している他の者は、おそらく
「ほう……? 本当にご存知ないのですか?」
「「「っ!?」」」
ほらね。そう告げただけで、すぐに
「……分かりました」
「っ!? クラウディア殿下、いけませんぞ!」
「そ、そうです! こんな連中の言うことなど、従う必要はございません!」
渋々頷くクラウディア皇女を、従者達は必死になって止める。
「いいえ、ギルバート様に私達が無実であることを知っていただくためにも……この私の身が潔白であることを証明するためにも、私は行かねばなりません」
「「「く……っ!」」」
従者達が歯ぎしりしながら忌々しげに僕を睨んでいるが、そんなことはお構いなしに澄ました表情でクラウディア皇女を見つめた。
「ありがとうございます。では、まいりましょう」
「……はい」
僕は手を差し出すが、彼女はそれを払いのけて横を通り過ぎた。
はは……まあ、仕方ないよね。
そんなクラウディア皇女の背中を見て苦笑する僕は、彼女を追いかけた。
そして。
「…………………………フフ」
馬車に乗った途端、クラウディア皇女は
「あはは……僕達の思惑はお見通しでしたか……」
「フフ、もちろんです。本当にそのような嫌疑がかけられているのであれば、ギルバート様ならこんなに大仰な真似をなさるはずがありませんから。それに、昨夜から従者のうち二名を見かけませんでしたので」
さすがはクラウディア皇女、それを瞬時に理解した上で、一芝居打ってくださったなんて。
「でしたら話が早くて助かります。その消えた二名の従者は、こちらで預かっております。その処分なども含め、クラウディア殿下にご相談したかったのです」
「なるほど……まずは、私もその二人に会いたいですわ」
「もちろんそのつもりです」
僕とクラウディア皇女は、
◇
「ギル!」
「シア!」
屋敷に到着すると、玄関で待ち構えていたシアが駆け寄って来た。
だけど、その表情はどこか怒っているように見えた。
「そ、その……」
「ギル、どうして私を置いて行ったのですか?」
「い、いえ、昨夜あのようなことがあった上に、早朝でしたので起こさないほうがよかったのではないかと……」
「私なら大丈夫です。だから、次からは必ずご一緒させてください」
有無を言わせないとばかりに、シアはそう言ってサファイアの瞳で僕を見つめる。
「す、すいません……次からは必ずお声をおかけします……」
そんなシアに、僕は平身低頭で謝った。
「フフ……“王国の麒麟児”と
「ク、クラウディア殿下……」
愉快そうに笑うクラウディア皇女を見て、気恥ずかしくなった僕は頭を掻いた。
「そ、それで、クリスとリズはどうしたんですか?」
これ以上はいたたまれなくなり、シアにそう尋ねる。
「ふふ……二人はよく眠っておられます。昨夜のことがあって、緊張の糸が切れたんだと思います。なので今は、アンがついております」
「そうですか……」
まあ、あの二人はこういったことには慣れていないからね。
それも仕方ないというものだ。
「ではクラウディア殿下、早速まいりましょう」
「フフ、はい」
僕達は、侵入者を収容している地下牢へと向かう。
「こちらです」
「……確かに、消えた従者の二人で間違いありません」
鉄格子の向こう側で未だ全身を氷漬けにされたままの侵入者達を見て、クラウディア皇女は静かにそう告げた。
「それで、いかがいたしましょう? このまま僕のほうで
「そうですね……ただ、少なくともこの者達の目論見が失敗したことはヘカテイア教団側……皇帝陛下にも知られたとは思いますので、そのままお願いできますでしょうか?」
「承知しました」
クラウディア皇女の言葉を受け、僕は
後は、
「では、この後はいかがいたしましょうか?」
「フフ……でしたら、このまま私を軟禁していただけますでしょうか?」
そう言うと、クラウディア皇女はクスリ、と笑った。
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