絶世の美女
「ふう……」
とうとう第一王子とクラウディア皇女との面談の日となり、僕は深く息を吐いた。
ようやくその気になったとはいえ、あの第一王子のことだ。その面談の場で失礼なことを言わないかと、気が気でない。
例えば、『私には既に心に決めた女性がいる』とか、『ソフィアに比べれば、クラウディア皇女は見る影もない』とか、そういうことだ。
実際、第一王子は僕の大切な婚約者であるシアに、本当に酷い言葉を吐きかけたんだ。到底信用できないし、僕は今も許してはいない。
とはいえ、ヘカテイア教団を叩き潰し、ラスボスも倒してシアと幸せな人生を過ごすために。ここは僕も涙を呑もう。
ただし、もし余計な真似をしたりシアに仇なすようなことをした場合には。
「……死よりも恐ろしい目に遭わせてやる」
鏡に向かって着替えながら、そんなことを呟いていると。
――ガチャ。
「ギル、支度が整いました……」
僕の部屋とシアの部屋を繋ぐ扉から、シアがおずおずと顔を
というか、そんな緊張した声も仕草も、僕の心をくすぐりまくっているんだけど。
「そうですか。それで、あなたの美しい姿を僕に見せてはくれないのですか?」
未だに顔だけを
もちろん、これはちょっとした悪戯心というやつだ。
すると。
「っ! す、すぐにお見せします!」
あはは、シアが慌ててこの部屋に入って来た。
そして……うん、僕は女神ディアナよりも美しいシアの姿に、ほう、と息を漏らした。
白銀に輝くドレスを、『女神の涙』をはじめとした宝石が彩り、シアの美しさを際立たせる。
はっきり言って、これでは主役であるはずのクラウディア皇女は存在を消してしまうのではないかと余計な心配をしてしまう。
「そ、その……いかがです……っ!?」
「シア……あなたの罪深いほどの美しさを、僕は誰にも見せたくないと思ってしまいました。できれば、この部屋にあなたを閉じ込めてしまいたい」
「ふあ……あ、ありがとうございます……」
思わず抱きしめてささやくと、シアが顔を赤くしながら僕の胸に顔をうずめた。
「シア……僕にはあなたの顔を見せてくださらないのですか?」
「い、いえ、そういうわけでは……ん……ん……ちゅ……」
恥ずかしそうに見上げたシアを逃さず、僕はその柔らかい桜色の唇を味わう。
ついばんでみたり、甘噛みしてみたりしながら。
「ちゅ……ぷあ……もう……」
ようやく唇を離し、シアは苦笑した。
でも、その口元はすごく緩んでいる。ああもう、これじゃ全然足らない!
「シア……もう一度……」
「はい……ちゅ、ちゅく……ちゅぷ……」
――コン、コン。
「うわっ!?」
「ふああああ!?」
突然のノックに、僕とシアは思わず変な声を出してしまった。
「ギルバート様、そろそろお時間です……あ、フェリシア様もいらっしゃったのですね!」
「あ、ああ……分かった。行きましょう、シア」
「ふあ……は、はい」
呼びに来てくれたリズに微妙な反応を返しつつ、僕はシアの手を取ってそそくさと部屋を出た。
おのれ、第一王子とクラウディア皇女の面談が終わって帰ってきたら、絶対にシアと二人きりで過ごしてやる。
◇
「それにしても、本当に最近は王宮に来てばかりですね……」
「そうですね……」
シアの手を取って馬車から降ろすと、僕達はそう呟いた。
「ですが……ふふ、ここはあなたと初めて出逢った思い出の場所ですから、何度来ても嬉しいです」
「あはは……そうですね……」
悔しいことに、未だに六歳のその出来事を思い出せない僕は、ただ愛想笑いを浮かべることしかできない。
くそう、いつかきっと、シアとの初めての出逢いを思い出してみせる……!
「ほら! ギルバート、フェリシア様、行くよ!」
「ああ、今行く」
少し口を尖らせながら手招きするクリスを見て、僕とシアは苦笑しながら彼の後に続いた。
そして、第一王子のいる控室へとやって来ると。
「…………………………」
……あからさまに緊張した様子の、第一王子がいた。
その傍らには、心配そうに眺める第一王妃と、呆れた表情のクラリス王女の姿も。
「(ク、クラリス殿下、その……
僕とシアはクラリス王女の元へ行き、小声で尋ねる。
「(……それが、いざクラウディア殿下と面談の時になって、どうやら怖くなってしまったようなのです。その……今まで王国どころか王都からすら出たこともないですし、そもそも女性に対して耐性がないといいますか……)」
「「女性に耐性がない?」」
クラリス王女の言葉に、僕とシアは声を揃えて聞き返した。
いやだって、あんなにソフィアに入れあげている上に、シアに対してあんな態度を取っておきながら、そんなことを言われても信じられないんだけど……。
「ああ見えて、結構デリケートというか、意気地なしというか……」
「へ、へえー……」
肩を落とすクラリス王女と第一王子を交互に眺めながら、僕は気の抜けた声を漏らした。
すると。
「ブリューセン帝国の一行が到着いたしました。これより謁見の間へと入られます」
「分かりました」
王宮の使用人がやって来てそう告げると、第一王妃以下、揃って謁見の間へと向かう。
その後には、僕達も続く。
「クラウディア殿下は、どのような御方でしょうか……」
「聡明な御方だとは伺っておりますが、僕も実際にお会いしたことはありませんので……」
尋ねるシアに、僕は曖昧にそう答えた。
とはいえ、小説でも登場しない人物だから、僕の予想では相当優秀な人物であると見た。
何せ、モーリスやゲイブ、サンプソン辺境伯という前例があるからね。
そして。
「ブリューセン帝国第一皇女、クラウディア=フォン=ブリューセンと申します」
謁見の間にて、一人の絶世の美女が国王陛下に優雅にカーテシーをした。
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