第一王子の決心
「待て! 私はまだ隣国の皇女と会うことを受け入れたわけではないぞ!」
この期に及んで第一王子は、まだそんなことを
「ニコラス殿下……これは既に決定事項で、ここにいらっしゃるフレデリカ妃殿下はおろか国王陛下もお認めになられています。しかも、クラウディア殿下もブリューセン帝国から王国内に入られております」
「だが! このように一方的に話を進められ、この第一王子である私のことなどまるで無視をするような……何より、私には……」
そう言って、第一王子は口惜しそうに唇を噛む。
いや、クラウディア皇女との縁談の話が持ち上がった時点でちゃんと告げているだろうに……。
しかも、その表情を見る限り、まだソフィアに未練があるのか。本当に、あの女のどこがいいんだか……って、あー……第一王妃も心底残念そうな表情を浮かべているし。
「とにかく、この期に及んで
「っ!? そ、そんな……」
どうやら、そんなことすらも理解していなかったらしい。
第一王妃派が全てクラリス王女につき、王位継承争いがクラリス王女と第二王子の一騎討ちの状況になっているのに、まだ夢を見ていたなんて……。
「……フレデリカ妃殿下」
「……私は何度も
僕と第一王妃は、顔を見合わせながら肩を落とした。
すると。
「ハア……」
クリスの奴、盛大に溜息を吐いた後、まるでゴミでも見るかのような視線を第一王子に送った。
うわあ……残念とはいえ、コイツも一応第一王子なんだけど……。
「ニコラス殿下、よろしいでしょうか?」
「……貴様は?」
「はい。この度、国王陛下より伯爵位を賜りました、クレイグ=アンダーソンと申します」
「ああ……貴様があの」
どうやらクリスのことについて知っていたようで、第一王子はクリスをしげしげと眺める。
「それで、今回のクラウディア殿下との縁談についてですが、ニコラス殿下にとっても悪いものではないと思われます」
「……というと?」
「はい。まず、クラウディア殿下と婚姻されることにより、ニコラス殿下は王配となられるわけですが、当然、クラウディア殿下に次ぐ権力が与えられることとなります」
「うむ……それは理解できる。だが……」
「次に」
クリスが縁談によるメリットを告げると、第一王子は渋る表情を見せるが、そんなことにも意に介さず、クリスは話を続ける。
「ブリューセン帝国はマージアングル王国ほど大きな国ではありませんが、それでも東西の諸国を結ぶ要衝。そのような国ですので、殿下の立ち回り方次第でこの国をはじめとした西方諸国に対し、様々なことについて、かなり有利に交渉を進めることも可能でしょう」
「ふむ……」
「そして、次こそがニコラス殿下にとって最も大きな利点ですが、クラウディア殿下と最低限の責務さえ果たせば、あとは権力と自由を手にすることができます。例えば……妾を囲うことも、他国から意中の女性を招き入れることも」
「っ!? そ、それはまことか!?」
おおう……クリスめ、とんでもないことを言いだしたぞ。
確かにそんなことも可能性としてあり得るが、そもそもクラウディア皇女自身が第一王子に妾を囲うことを認めなければ話にならない。
しかも、あのエセ聖女を女神教会が手放すだろうか……もちろん、答えは否だ。
もちろん、そのことはクリスも当然分かっているだろうに……どうせ、政略結婚をさせてブリューセン帝国に追いやれば、後は何とでもなると考えているんだろうなー……本当に、腹が黒い。
それに……ほら見ろ。
騙されていることに気づかずに瞳を輝かせる第一王子に対し、そんな息子を眺めながら今にも泣きそうな表情の第一王妃を。
本当に、第一王妃が不憫でならない。
「いかがです? これなら、ニコラス殿下の願いを叶えつつ、マージアングル王国の目的を果たすことが可能です」
「う、うむ! 確かにお主の言うとおりだ!」
「では……?」
「分かった。このニコラス=オブ=マージアングル、クラウディア皇女との縁談に臨もうではないか!」
最初とは異なり、鼻息荒くそう告げる第一王子。
その気になったのはいいが、そんな彼を眺めながらほくそ笑むクリスを見て、本質的な性格までは小説の中と変わっていないことを再確認した、
だが。
「ギル、色々とありますが、これで縁談は上手くいきそうですね」
「シア……そうですね。とりあえず、目的は果たせそうです」
ニコリ、と微笑むシアに、僕も笑顔で頷いた。
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