深夜の捜索
「ワハハハハ! 小公爵様、どうぞこちらへ!」
晩餐会の会場となるホールへとやって来ると、アボット子爵が僕を中央へと誘導する。
というか……この会場に集まった他の者達は誰だ? ちらほらと貴族らしき者はいるが、それ以外は身なりこそいいものの、平民のように思える。
「皆さん、こちらにおわす御方こそ、あの“王国の麒麟児”、ギルバート=オブ=ブルックスバンク小公爵様ですぞ!」
「「「「「おお……!」」」」」
唐突に行われたアボット子爵の紹介により、会場にどよめきが起こる。
だが、どちらかといえばアボット子爵に合わせた、茶番を見せられているように感じた。つまりはそういうことなのだろう。
「小公爵様、彼等に一言お言葉をいただけますかな?」
「は、はあ……」
仕方ないので、僕は促されるままに本当に一言だけ挨拶をした。
挨拶は中身も何もないものので、割愛させてもらおう。
「いやいや、それにしてもまさか
「ワハハ! それほどではございませんぞ!」
挨拶に来る者達のお世辞に、上機嫌のアボット子爵。
なるほど……僕を
街の治安や状況なども鑑みると、
もちろん、本来の領主である先代アンダーソン伯爵とも。
それより、クリスは大人しくしているだろうな……。
ただでさえ一族の
僕はクリスのほうへと視線を向けると……あはは、さすがはシア。
上手く彼をなだめながら、アボット子爵が視界に入らないように誘導してくれていた。
そうして一通りの来賓との挨拶を済ませ、僕もアボット子爵と別れてシア達と合流した。
「みんな、今夜は色々と忙しくなるんだ。ちゃんと食事は摂っておいてね?」
「ふふ……もちろんです。ですが、次はクリス様に是非この街の名物をご馳走になりたいですね」
「プ……アハハ! フェリシア様、任せてください!」
うん、基本的にシアとクリス、それにリズは仲は悪くないんだよなあ……。
なのにすぐ険悪な雰囲気になるのは、いかがなものか。
こうして、できる限り上機嫌のアボット子爵を視界に入れないようにしながら、僕達は僕達だけで楽しんだ。
ゲイブ? ゲイブは部下の騎士達を連れて、街に繰り出していったよ。
とにかく、飲み過ぎていないことを祈る……。
◇
「さて……そろそろかな」
深夜二時が過ぎ、僕の部屋にはシア、クリス、リズ、そしてゲイブに集まってもらった。
他の騎士達には、とりあえず自室に待機してもらい、いざという時にはシアの氷結系魔法で合図する手筈になっている。
「それでギルバート、五十年前の事件の証拠って、どこにあるか分かっているの? それとも、この広い屋敷の中を、しらみつぶしに探すのかな?」
クリスが上目遣いでおずおずと尋ねる。
「心配するな。ちゃんと証拠の品の
「う、うん! ギルバート……よろしくお願いします!」
「ああ、任せろ!」
深々とお辞儀をするクリスの肩を叩き、僕達は部屋を出て目的の場所へと向かう。
さすがにこんな時間だから、見張りの使用人達の姿も見当たらない。
まあ、まさか僕達が五十年前の事件について調べに来ただなんて、アボット子爵も思いもよらないだろうしね。
僕達は警戒しながら階段を降りる。
そして。
「え……ここ……?」
たどり着いた場所は、屋敷の調理室で、クリスが、そして他のみんなが、思わずキョトンとしてしまった。
「ああ、ここで間違いない。この調理室の下に、五十年前の真相が隠されているはずだ」
そう……僕は小説で、五十年前の事件について調理室の下にある地下室から、当時の事件に関する証拠品……つまり、アボット子爵の二代前、初代アボット子爵が家令時代に行っていた不正取引の数々の書類が眠っているという設定にした。
もちろん、その証拠品を収めた地下室を覆い隠すために、初代アボット子爵があえてその上に調理室を設置することでカモフラージュしたことにして。
小説の中では、その事実をクリスの母親の形見に仕込まれていた当時のアンダーソン家の見取り図を元に、現在のアボット家の屋敷と照合して地下室を発見するんだ。
そこから、ニコラス王子が王太子という強権を発動して、強引にアボット家の屋敷を捜索し、書類を発見して糾弾。無事にアンダーソン家の汚名が晴らされることになる。
要は、最初からそのことを知っている……というか、その設定を考えた僕がいるんだから、すぐ見つかるに決まっているよね。
ということで。
「やはり、ここに扉があったか……」
僕はもっともらしい口調でみんなにそう告げる。
「ギルバート……君はどこまですごいんだ。どうして、こんな誰も知らない扉を見つけることができるんだい……?」
クリスが
「ああ……簡単だよ。王宮に残されていた五十年前のアンダーソン家の屋敷の見取り図と、このアボット家の屋敷の見取り図を照合して、調理室がある場所の地下に部屋があることを確認したんだ」
そして僕は、もっともらしくそう告げる。
もちろん、そんなこと調べちゃいないけど。
「さあ、行こう」
僕はみんなを見回した後、その地下室へと通じる扉に手をかけた。
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