王位継承権
「お待ちしていましたよ、小公爵殿、そして、フェリシア
王宮に到着した僕達は馬車を降りると、第一王妃がにこやかな笑顔を浮かべながら出迎えてくれた。
だけど……くだけたものとはいえ、シアに敬称をつけるなんて、それだけ第一王妃は僕達に対して配慮していることが
本当に、王太子と第二王子もこういう使い分けを覚えるべきだ。
「フレデリカ妃殿下自らのお出迎え、誠に痛み入ります。ギルバート=オブ=ブルックスバンク、
「うふふ……こちらこそ、急なお呼び立てをしてしまい、申し訳ありません。では、陛下がお待ちですのでどうぞこちらへ」
「はい」
「は、はい」
第一王妃の後に続き、僕とシアは王宮の中へと入る。
「シア、僕と初めて出逢った場所というのは……?」
「あ……王宮の入口のところです。そして……ふふ、この通路を二人で走りました……」
そうか……僕は、ここでシアと出逢ったのか……。
そう思うと、この王宮に来るのも悪くはないな。
「では、ここでお掛けになってくださいな」
「失礼します」
第一王妃に促され、僕とシアは席に座る。
すると、第一王妃の侍女が僕達にお茶とお菓子を用意してくれた。
「それでフレデリカ妃殿下、陛下はどのようにお考えでしょうか?」
「ふう……陛下からお話しされますが、ニコラスとショーン王子の処遇については、小公爵殿に委ねるとのことよ……」
深く息を吐いた後、第一王妃は憂いを帯びた表情でそう告げた。
第一王妃からすれば、馬鹿とはいえ可愛い我が子の未来が僕の胸三寸で決まるのだから、不安で仕方がないのも頷ける。
さて……それを踏まえた上で、僕はどう立ち回ろうか。
もちろん、二人の王子がしでかしたことは絶対に許せないし、もはや王子達の謝罪では済まされない。
となれば。
「……話は変わりますが、この国の王位継承についてどう思われますか?」
「? どうとは?」
「はい。今のこの国では、
「……それは、どういう意味かしら?」
僕の言葉で、第一王妃の表情が険しくなる。
当然だ。僕の言ったことは、現在の王政を否定するように聞こえてしまっているから。
「フレデリカ妃殿下、勘違いなさらないでください。僕が言いたいのは、何も男子のみが王位に就く必要がないのではないか、そういうことですから」
「あ……」
そう……第一王妃には、あの王太子の他にもう一人子どもがいる。
――第三王女、“クラリス=オブ=マージアングル”。
小説の中ではシアが王立学院の二年生に進級した時に新入生として入学し、残るもう一人の皇子をめぐってシアのライバルとなるキャラだ。
第一王妃譲りの水面下での根回しや策謀などが得意で、シアにとってはソフィア以上に障害となる人物である。
「僕もクラリス殿下に二、三度お会いしたことがございますが、聡明な御方だと思います。ならば、王太子殿下とショーン殿下の二人にクラリス殿下を加え、今一度次の王位継承について考える余地はあるかと」
「なるほど……」
頭の切れる第一王妃のことだ、僕のこの申し出に必ず飛びつくはず。
それに、王位継承権を白紙に戻されたとはいえ、一応は王太子……いや、もう王太子ではないからただの第一王子か。彼にも再び王となるチャンスはある。
それに、第一王子が王位を継ぐことができなかったとしても、実子であるクラリス王女がいる。
なら、第一王妃にとってはかなりメリットがあるからね。
「そうですか……小公爵殿が、まさかそこまで王国のことを考えておられるとは……本当に、ニコラスにあなたの半分……いえ、さらにその半分でも聡明さがあればよかったのに……」
「いえ……」
安堵したのか、にこやかに微笑む第一王妃の賛辞に、僕は謙遜する。
そんなことより、これで第一王妃は完全に僕の味方だ。加えて、王位を諦めるしかなかったクラリス王女も、僕に足を向けることはないだろう。
つまり……これでクラリス王女は、決してシアに敵対することはなくなったということだ。
まあ、
「え、ええと……シア?」
「…………………………」
どういう訳か、シアが眉根を寄せながら全力で僕を睨んでいるんだけど……。
「あ、あの……僕は何か、あなたに失礼なことをしましたでしょうか……?」
そう言って、おそるおそる尋ねてみると。
「……ク、クラリス殿下とは、その……ギルは仲がよろしいのですか……?」
ああー……シアはクラリス王女に嫉妬したのか。
本当に、あなたはどこまで僕を夢中にさせれば気が済むんですか。
「あはは、先程もフレデリカ妃殿下に申し上げたとおり、僕がクラリス殿下とお会いしたのは二、三回程度です。なので、精々社交辞令程度ですよ」
「そ、そうなのですね」
表情を和らげ、シアは胸を撫で下ろす。
今すぐにでもシアを抱きしめたいけど、さすがに第一王妃の手前、ここは我慢だ。
「うふふ、本当に小公爵殿とフェリシアさんは仲がよろしいのね」
「もちろんです。シアは僕の
「ふあ!?」
僕の言葉に、シアが可愛い声を漏らした。
このままだと、国王陛下に謁見する前に僕は尊死してしまいそうだ。
――コン、コン。
「フレデリカ妃殿下……」
侍女の一人が、第一王妃に耳打ちをした。
どうやら準備が整ったようだ。
「では、小公爵殿、フェリシアさん……まいりましょう」
「「はい」」
僕達は、国王陛下の待つ謁見の間へと向かった。
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