暴竜アイトワラス

「さて……それじゃ、行くか」


 王太子や第二王子をはじめ、貴族子息達が我先にと森の中へと入っていく中、僕はまた観客の中にいるフェリシアを見る。


「フェリシア殿! 行ってまいります!」

「っ! ギルバート様! どうかご無事で!」


 僕が笑顔で手を振ると、フェリシアは祈るように手を合わせながら叫ぶ。

 あはは……それじゃ、さっさとこの“シェルウッドの森”一番の魔獣討伐に向かうとしよう。


 この森の最奥に潜む双頭の竜――“暴竜”アイトワラス。


 なお、狩猟大会が行われるシェルウッドの森は、今から三年後の物語の本編でも、同じく狩猟大会の舞台として登場する。

 本編では、世界を滅亡させようとしている者がアイトワラスを操って狩猟大会を混乱させたところを、フェリシアの機転で二人の王子が討伐するんだったな。


 正直、物語の前半で登場する魔獣だし、当然ながら作者である僕はアイトワラスの弱点も知っているため、今の僕・・・でも倒すことは難しくない。

 まあ、今の王太子と第二王子では絶対に不可能だろうけど。


 ということで、草をかき分けながら僕は森の奥へと進んで行く。

 途中、王太子や第二王子のうるさい声が聞こえたりもしたが、無視だ無視。


 そして、森を進むこと二時間弱。


「ここが、アイトワラスの棲み処か」


 目の前には、かなり大きな洞窟が口を開けていた。

 洞窟の中をのぞき込むと、魔獣の……それもかなり巨大なものの息遣いが二つ・・聞こえる。


 だが、そのリズムなどから察するに、どうやらアイトワラスは眠っているようだ。


「ふむ……となると、寝ている隙に仕留めるか、それとも洞窟からいぶり出し、洞窟の外で仕留めるか……」


 洞窟内部がどの程度の広さがあるのかは分からないが、僕のランスだと取り回しが難しくなる可能性がある。

 なら、外で戦うほうが有利かといえば、それは否だ。


 ランスという武器の特性上、突きに特化しているため、斬撃による攻撃はできない。

 それに、相手は巨大な体躯と強靭な鱗を持つドラゴン。ランスの胴の部分による打撃を行っても、大して効かないだろう。


「あはは……じゃあやることは、いつもどおり・・・・・・ということだな」


 そう……結局は、ゲイブとのいつもの訓練こそが身を結ぶ。

 僕はただ、このランスを信じてアイトワラスの胴体に突き立てるだけだ。


「【身体強化・上】」


 僕が使える唯一の魔法である身体強化魔法により、全身の能力を底上げする。

 今はまだ四等級のうち三等級である【身体強化・上】までしか使えないが、本編が始まる王立学院入学時には、これを最上級の【身体強化・極】を使えるようにしないとな。


「よし、行こう」


 僕は持ってきた松明たいまつに火をともし、洞窟の中へと入っていく。

 といっても、寝息の大きさからしてそこまで奥まった洞窟ではないはず。


 そう考えていると。


「ほら、やっぱり」


 アイトワラスは、地面に寝そべりながら気持ちよさそうに眠っていた。

 その大きさは、僕の設定どおり全長十メートルといったところか。


「……これなら」


 ゆっくりとアイトワラスに近づき、鱗などを確認する。

 思っているほど堅そうというわけでもなく、ランスを突き立てることは難しくなさそうだ。


 なら。


「起きろ、アイトワラス」


 僕は、眠るアイトワラスの右側の頭のまぶたに、松明たいまつの炎を思いきり押しつけた。


「「グオオオオオオオッッッ!?」」


 突然のことに、アイトワラスの驚きの鳴き声を上げ、洞窟内に響き渡る。

 それと同時に、僕は一目散に洞窟の入口付近へと駆けた。


「「グウオオオオオオオアアアアアアアッッッ!」」


 攻撃をされたのだと知ったアイトワラスが、怒り狂いながら洞窟の入口へとその太く強靭な四肢を動かして突進してきた。


「そうだ。お前を起こしたのは……お前を攻撃したのは、この僕だ」

「「ッ! グオオオオオアアアアアアアッッッ!」」


 外の光に照らされて浮かびあがる僕の影を凝視し、アイトワラスは吠える。

 僕とアイトワラスとの距離は約十五メートル。これだければ充分だ。


「行くぞ!」

「「グウウウオオオオオオオッッッ!」」


 ランスを構えて突進する僕を見て、アイトワラスも同じく突進してくる。


 そして。


「おおおおおおおおおおおおおおッッッ!」

「「グギュオオオオアアアアアッッッ!?」」


 双頭のあぎとによる攻撃が届くよりも先に、僕のランスがアイトワラスの胴体を突き破った。


 そうだ……ランスでの戦いに必要なのは、敵陣に突入するための勇気・・

 それこそが、相手よりも先に穿うがつことができるのだから。


 だけど。


「「グウウウオオオオオオオッッッ!」」


 アイトワラスは、それだけで仕留めたことにはならない。

 何故なら、このドラゴンを倒すには、方法は一つしかないから。


 それは。


「これで、終わりだッッッ!」

「「グギェッッッ!?」」


 一気にランスを引き抜いた僕は、双頭をほぼ同時・・・・に串刺しにした。

 これこそが、アイトワラスを倒す方法。


 二つの頭を同時に破壊することで、アイトワラスはようやくその活動を終える。


「「グギュ……ウ……」」


 そんな弱々しい断末魔の鳴き声と共に、僕はアイトワラスを仕留めた。

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