蔓延る

緋雪

第一話

 庭中に蔓延はびこるたんぽぽを見つめながら、私は考えていた。

「こいつら、どうやって始末してくれようか」


 花が咲いている時は、可愛いな、綺麗だなとか、呑気なことを思っているけれど、綿毛になって、飛んでいく頃に、ああ、綺麗だなあって思いながら、ふと我に返る。

「こいつら、また増えるじゃん」

 もう泣きそうになる。


 地道に草抜きをしているときに、とにかく困るものの代表が、たんぽぽとスギナ。困ったことに、どちらも、「旬」は、可愛かったり、美味しかったりする。土筆の卵とじは、私の大好物だ。

「はぁ……」

 ため息一つ。ホームセンターで買ってきた移植ごてと便利そうな草抜きの道具を持って、たんぽぽを抜いていく。


 こいつらの根っこは本当に深い所まで届いていて、全部抜くことが凄く難しい。葉っぱだけ千切ったところで、すぐにまた葉っぱが生えてくる。花が咲く。綿毛が飛ぶ。増える。そう考えると、こいつらを全て処分するなんて不可能に近いんだろうな……。気が遠くなりそうになりながら、黙々とたんぽぽを抜く。

「絶対、こいつら、世界征服企んでるわ」




 地下組織タンポーポは、世界征服を企んでいた。


「ノビール隊長、大変です。玄関横の163号がやられました!」

「何?根ごと全部か?」

「恐らくは。今年、でかい奴らは、武器を変えてきました」

「なんだと? 新しい武器?」

「はい。根の部分を挟んで抜いていくようです」

「でかい奴らめ……」

「ですが、大丈夫です、163号の遺伝子は既にハウス横まで飛ばしてあります。うまく風に乗った者は土手の近くまで行ったかと」

「そうか、それは頼もしい。でかい奴らも、そこまでは手が回るまい」


 タンポーポ達は、仲間が完全に殺られた時でも大丈夫なように、花型スコープで地上を見渡し、未開の土地を見つけると、仲間に遺伝子を飛ばすよう指示する。簡単で軽いプロペラをつけて飛ばしておくのだ。


 時々、まだ幼いタンポーポが、花形スコープを作っているうちに、でかい奴らに見つかり、殺られることもある。でかい奴らは、残虐で容赦ない。少しでも仲間を多く残すために、なるべく多く、なるべく遠くに遺伝子を飛ばし、子孫を増やしていく必要がある。



「いやあ、タンポーポさんのところも大変だねえ」

 急に呼ばれて振り返ると、スギナーがいた。い、いつの間に?

「これはこれは、誰かと思えば、スギナー第一部隊隊長、ハビールさんじゃありませんか」

 平静を取り繕う。

「聞きましたよ。玄関先部隊が根こそぎ殺られてるみたいじゃないですか。大変ですねえ」

「ええ、まあ……。スギナーさんのところは大丈夫なんですか?」

「うちは、この通りです。まだまだ範囲を広げている所で」

「そうですか、お互い、頑張りましょう」

「ええ。ではまた」

 ハビールは、ツクーシ達の様子を見に行ってしまった。


「くっそ、スギナーめ」

 部下の一人が口を開く。

「よせ、やつらは地下茎組織だ。どこに潜んでいるかわからん。聞かれるぞ」

「でかいやつらが愛でるような、花型スコープも作れない奴らが!!」

「でも、奴らには、ツクーシがあるからな」

「全然、美しくもない奴らじゃないですか!」

「あいつらはな……」  

 隊長は部下の頭に押込むように低い声で言った。

美味うめえんだとよ」

「くっ……」

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