第5話


 私が星の海から生きて帰ったことは大陸中のニュースになった。


 病弱で周りと違うということだけで私を天の河に落とした子達は泣きながら謝った。


 私はそれを笑顔で許し、彼らと話すことはなくなった。


 お兄さんに願った通り、私は強くなった。

 身体も、心も、勉強も、何もかも負けることがなくなった。


 私の両親は私が帰ってきたことを誰よりも喜んで、泣きながら笑ってくれた。


 お兄さんとは真逆の顔だった。


 私が乗っていた船は気付けば無くなっていた。

 まるで溶けてしまったかのように。

 存在なんてしていなかったかのように。


 私は勉強も運動も頑張った。


 今まで動けなかった分を取り返すかのようにがむしゃらに動いた。


 私の願いを叶えるために。


 願いを叶えるために必ず、乗り越えなければならない目標があったから。


 何度も涙を流した。


 何度やっても上手くいかないことばかりだった。

 乗り越えるべき壁に押し潰されそうになったことも何回もあった。


 それでも、乗り越えれたのは、何度も立ち上がれたのはお兄さんの悲しい笑みを思い浮かべてだった。


「初めましてだな」


 そこまでしたから、ようやくここまで辿り着いたのだ。


「お初にお目にかかります、国王陛下」


「楽にしていい。人払いは済んでいるからな」 


 私と同じ体験をしたであろう人と出会う機会を得たのだ。


「ご好意に感謝します」


 別れる前にお兄さんが言っていた。

『人を治める器が欲しいと言った子もいた』

 それを求めた人は、多分、この国王陛下だろうという想像がついていた。


「良い。私はまどろっこしいのを好まぬ。よって率直に聞く。其方は会ったのか?」


「会いました」


 誰に、なんて言わなくてもいい。

 この場合の誰はたった1人しか当て嵌まらないから。


「そうか。もう1つ聞こう。お前は王位に興味はあるか?」


 その質問が来ることも想像済みだった。

 そして、私が何という言葉を返すのかも私はもう決めている。


「ありません」


 私の目標のためには、王位なんていうものは邪魔でしかない。


「そうか……無理矢理やらせるのは私の趣味ではない。だから、これ以上は聞かぬ」


「ありがとうございます」


 国王陛下はすんなりと諦めてくれた。

 そこだけは意外だ。もっと無理矢理にでも押し付けてくるかと思っていた。


「それにしても、惜しいな。其方は私の次代に相応しい。しかし、其方の目を見れば分かるわ。私達などどうでもいいのだろう?


「……」


 私は黙って笑うことを返事とした。

 きっと国王陛下ならば意図を理解するだろうという確信も込めてだったが。


「私の用はこれで以上だ」


 国王陛下のそのお言葉を聞いてすぐに私は彼の元を去った。


 これ以上、あの場にいて引き留めらることは阻止したかったから。


「さようなら」


 私は、王宮を去る前に振り返って呟いた。


 もう2度と訪れないだろうことを予測しながら。


 

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