二人きりの家で 2

 彼女が泣き止むのにあまり時間はかからなかった。

泣き止んだ彼女はオレンジジュースを一口飲んでから話しだす。


 「いつでも誘ってくれたら来るから。誘われなくても来る」


 「だから、我慢せずにいつでも言ってほしい」


 目をちゃんと見て僕の手を握り強くいう彼女はいつも以上に頼りがいがある。

泣いていたからか目の周りは赤らみ瞳がうるんでいる状態で近づかれると正直ドキドキしてしまう。

自分の体を後ろにそらし少しでも距離を置きたくてそういう動きをしてしまった。

その行動で柚も気づいたのかサッと離れる。


 「ごめん、近すぎたね」


 照れて下を向く彼女はかわいい。

素直にそう思うがはずがしいので本人には言えずにいる。

もし、ここにいるのが僕ではなく彼だったら・・・・・・

そんな意味のない妄想をしてしまう。

もしかしたら僕も普段とは違うのかもしれない。


 柚が自分のことを好きだなんていう妄想をしてしまうのも普段と違うのなら説明がつく。

それに自分だけが普段通りなんてわけがない。

冷静に考えると片思いしていた相手に恋人ができて何事もなかったようにふるまえる人は少ないだろう。

少なくとも僕はそうだ。


 自分が変だと気付いたのならやるべきことはひとつ。

できる限りいつも通りを演じる。

それしかできない。

もっと頭がよければほかの方法を考えられるのかもしれない。

でも、自分にないものを望んだところでそんなものは意味がないことを知っているから。



 無言の時間が流れ、数分経った頃微妙な空気のなか彼女が再び口を開く。

 

 「そういえば今朝のあればなに?すごい恥ずかしかったんだけど」


 若干の怒りがこもっているように感じるも気づかないふりをする。

グイっと距離を詰めてきた柚から目をそらす。

こういう行動をされると意識してしまうからやめてほしい。

今回はちゃんと伝える必要がある。


 「近いよ、ドキドキするからやめてほしい。それに見えてる」


 なんで彼女に伝えようとしたかの理由はそこだ。

彼女が来ている制服のボタンからチラッと水色の何かが見えている。

その何かが勘違いなら大丈夫だと思う。

というか、勘違いであってほしい。


 「見えてるって何が・・・・・・」


 そう言って柚は自分の服を確認する。

みるみるうちに頬が赤く染まり僕に背を向けた。

何かしようとする仕草をみせたあと手で頭を抱える。

聞こえないくらいの声でぼそぼそと何かを言い続けている。


 彼女の行動がまとまるまで少し様子を見ておくことにして、のどの渇きをいやすため冷蔵庫から麦茶入ったポットを取り出しコップに移し替え口に含む。

長期戦になりそうだと思いつつ、柚を送って帰ろうと決めて待つことにする。


 この時点で時計は18時半を指していた。



 






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