幽霊と少女

今泉 叶花/宮園 れいか

第1話 美少年フリークの少女と美少年の可能性

「ねえ、君はアホなの?」

 開口一番、彼はそう言った。


                ***

 私は美少年が好きだ。美少年であれば、ツンデレだって、ヤンデレだって、メンヘラだっていい。別に、付き合いたいとか結婚したいとか、そんな大層な夢は持っていない。ただ、存在自体が尊いのだ。

「もう。結衣ったら、デレデレしちゃって。また美少年のことでも考えていたの?」

 呆れたように、友人の瑠璃がため息をつく。

「うん。やっぱり美少年は尊いわ。これぞ芸術、これぞ傑作! 今日も素敵な美少年を拝められたことに感謝します……!」

「あー。駄目だわ、これは。もう目が完全にイッチャッテル」

 感動にうっとりしていると、遠くから瑠璃の冷ややかな視線を感じた、ような気がする。

「結衣、私にはさっぱりわからないんだけど。美少年のどこがそんなにいいわけ? 見た目が優れていたって性格までいいとは限らないし、拗らせている人だって一定数はいるんだから。ツンデレはめんどくさいで片づけられるとして、ヤンデレには殺されそうになるだろうし、メンヘラに至っては、接している身が持たないでしょうよ」

 瑠璃はそんなことを言うけれど、美少年のそんなところでさえも、その美しさの前には、ちょっと過激すぎるくらいのスパイスにしかならないということを、彼女は理解していない。

「それでも、美少年は美少年だわ」

「そりゃそうだろうけどさ……」

 言ってもたぶん理解してはもらえないので簡潔にそう伝えると、それじゃあさ、と瑠璃は悪戯げに目を細めた。

「それが、例え幽霊だったとしても、結衣は美少年なら大歓迎なわけ?」

「ユウレイ?」

 予想を外れた問いに首をかしげる。

「そりゃ、視えるならいいけど。私、そもそも霊感とかないからなあ」

 そうか。考えてみれば、美少年は何も今生きている人間に限ったことではないのだ。人類の始まりから、脈々とそのDNAは受け継がれている。……と考えると、ハッ、もしかして視える人間の方がより美少年に出会えているのでは? となると、視えないというのは、何とも残念な体質なようだ。

「くーっ。会いたい。会ってみたいわ、幽霊の美少年!」

 新たな可能性に胸を躍らせると、隣から「あー、やっぱり言わなきゃよかった」という沈んだ声が聞こえてくるのだった。

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