コハクイエローの秘密
羽間慧
第1話 ヒーローは目の前にいる!
「またストーンズの人数が減っちゃった。ヒスイくんもいなくなったら、あたしの生きる意味がなくなっちゃうよ」
わたしが教室に入ると、すみれちゃんが話しかけてきた。すみれちゃんはアイドルオタク。一ヶ月前も、推しの結婚で落ち込んでいた。わたしは、すみれちゃんの肩をポンポンと叩く。
「推しのアイドルが活動をやめちゃうのは、世界の終わりと同じくらい重大だよね。今いる推しを愛してあげて」
「違う違う。ストーンズは、アイドルグループじゃなくて戦隊ヒーロー。めちゃくちゃ有名なのに知らないの? 怪人サボリタイの歴代討伐回数ナンバーワンなんだから」
「そうなの? 知らなかった。それで、さっき話していたヒスイくんってどんな人?」
わたしの質問に、すみれちゃんは目を輝かせる。あ、これは話が長くなりそうだ。
「姿勢がきれいで、足がとにかく早いの。ヘルメットで顔は分からないけど、絶対にイケメンよ。この間のプール開きの日に、サボリタイが出たじゃない? アスファルトがすごく熱くなって、はだしで歩くの無理だったでしょ。先生達がマットを取りに行こうとしたら、プールに投げ飛ばしちゃうし。サボリタイのやり方って本当にひきょうだわ。あたし達の後ろには、極寒のシャワーが待っていたもの。そんなときよ。ヒスイくんが一人で来てくれたのは」
すみれちゃんの顔が、わたしの目と鼻の先に迫る。
すみれちゃん、近い近い!
びっくりしたけど、それくらいヒスイグリーンのことが好きなんだね。なんだか、ほっこりしてきたよ。
思わずニッコリ笑顔になる。すみれちゃんは両手を握りしめていた。
「銃を構えて駆けつけたヒスイくんに、一目惚れしない人はいないわ! あんな小柄な子が戦っていたなんて知らなかった。百四十センチあるかないか。そんなヒスイくんが大きめの服を着ているのよ。萌え袖に、キュンキュンせずにはいられないわ。しかも、弾丸から飛び出した植物のつたで、サボリタイをぐるぐるにしちゃうなんて。あたしのハートも捕まれちゃった!」
すみれちゃんがショタ好きなんて、知りたくなかったよ! でも、中学二年生が小学四年生に恋をするのはセーフなのかな?
わたしが心の中であたふたしていると、すみれちゃんは唇をとがらせた。
「むかつくのはコハクイエローよ。あの日はヒスイくんしか来なかったし。大きな剣なんか握って。ヒスイくんよりカッコイイ武器を持たないでよね!」
わたしは冷や汗をかく。
コハクイエローのことは知っていた。このわたし
すみれちゃんがストーンズの話をしたから、思わず知らないフリをしちゃった。大事な友達なのに、ごめんね。
怪人サボリタイは人の体を乗っ取ってしまうから、わたしの正体は限られた人しか知らない。ストーンズメンバーと、戦闘のサポートをする研究所のみんな。お父さんにもお母さんにも教えていない、トップシークレットなんだ。
わたしがコハクイエローだって世界中に教えたい気持ちはあるんだけど、
すみれちゃんからコハクイエローの悪口を聞くのはつらいけど、今日の放課後は博士と会えるから大丈夫。少しくらいなら、へっちゃらだよ! 傷つかないと言えばうそになるけどね……。
わたしが息をつくと、背後から男子の声が聞こえた。
「雪村、もしかしてコハクイエローのことが気になっているのか? 同情で好きになるなんて単純な奴だな」
「はぁ? そんな訳ないでしょ。
わたしは鼻を鳴らした。
桃田は嫌いだ。ことあるごとに、わたしの好きな人は誰か探ってくる。口が軽い人に言うもんですか。どうせ「片思いの相手は十歳も年上? やめとけやめとけ。おこちゃまな雪村を恋愛対象として見るわけないって」とか笑うんでしょ! この間も、わたしが漢字テストのやり直しプリントをもらったのを見て、つっかかってきたしね。「読書好きなのに漢字ニガテなん?」って。教室中に聞こえるように言うものだから、頭がカッとして胸ぐらを掴んじゃった。
思い出しただけでムカムカしてきた。早く放課後になって、水野博士の笑顔に癒されたいな。
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