第493話 『炎獄杯』一回戦第四試合:JK共vs俺:前
先攻は、ライミ。
「――パレット『展開』!」
おお。
これまでの試合を見て学んだか、なかなか立派な宣言だ。
さぁ、ここからどう来る。
作戦については、隣のエンジュが担当するだろう。
それを聞いた上で、ライミはどう判断し、何を使ってくるのか。
対戦相手ではあるが、ワクワクしてくるな。
「…………」
並べられた5枚の手札を前に、ライミは力強く構えている。
そこには、パレカを楽しもうとする気概が確かに感じられる。
「…………」
俺を睨むその視線にも、力が――、
「…………」
あ、目を逸らした。
「縁珠ゥゥゥゥゥゥ~~~~! これ、あたし、どうすればいいのォ~~~~!?」
そしてエンジュに泣きついた。
「はいはい、最初から自分で考えようとするからそうなるのよ」
エンジュも腰に手を当てつつ、軽く苦笑する。
うん、まぁ、そーだよね。最初は本当に何すればいいか、わからんよね。
「じゃあ、まずは手札に何があるか見ていきましょうか」
「うん……」
「それで、私が教えるより先に、一回、来魅がどう思ったか聞かせてね」
「え~、それってさ~……」
「いいからいいから。補助輪付きの自転車も乗る人が漕がないと進まないでしょ」
「わかったぁ~……」
そして、作戦会議開始。
俺が聞こえない声量で二人が手札の使い方について打ち合わせをし始める。
その間は、タイムカウントハストップされる。
本来であれば手番には制限時間があるが、今回に限りそれは無効となる。
何故ならライミの初試合だから。
公式でそういうルールになっており、本当にパレカは徹底的に初心者に優しい。
「……わ」
という、小さな驚きの声が俺の耳をかすめる。
二人のうちどちらかが発したものだが、エンジュの作戦にライミが驚かされたか。
やがて1分も経たないウチに、二人が再び俺を見る。
「行くね、縁珠!」
「うん、おじいちゃんをやっつけよう、来魅!」
うなずき合う二人に、俺もニヤリと笑う。
「やってみろやァ!」
「勝負だよ、アキラちゃん!」
俺に向かって告げるライミの顔から不安の色が払拭されている。
これは、エンジュから相当いい作戦を授かった、か?
「パレット『展開』! あたしは、手札全部を場に伏せて、ターンエンドだァ!」
「な……ッ!?」
聞いた宣言が信じられず目を剥く俺の見る先に現れる5枚の伏せカード。
ぜ、全部伏せて、最初のターンを終わり、だと……?
モンスターの1体も展開せず、ロールの付与もしないままに?
完全に意表を突かれた。一瞬だが、頭が真っ白になった。
ド素人のセオリーを無視した浅はかなパフォーマンス。……ではない。
それだったら、エンジュが止めるだろう。
だが、エンジュを見れば、ライミと同じくこっちに強いまなざしを向けている。
その視線に宿る力は、ライミの行動を正しいと捉えている証だ。
これは、何だ。
エンジュは一体、ライミにどんな作戦を授けたんだ。
尽きぬ疑問は、だが、すぐにはわかるはずもない。
そして、それに関わることなく俺の手番はすでに始まっている。
「見せてもらおうじゃねぇか! その自信のもとを! パレット『展開』!」
ライミが何を画策しているかは関係ない。
何もわからない以上、過度に警戒しても招くのは自滅のみだ。
だったら、俺は当初の作戦通りにいくべきだろう。
心は熱くしたまま、だけども頭は冷たく保って、体はいつでも動けるようにしろ。
「俺はナンバー015『チュチュン』を展開! 『アタッカー』を付与するぜ!」
まずは手札を一枚ひっくり返し、初代から登場する鳥型モンスターを展開。
大型のスズメのような姿をしたこいつは『つばさ属』に分類される。
このカテゴリの大きな特徴は何種かのトラップアイテムを無視できることにある。
例えば、地雷型アイテムの『キラーマイン』、『地雷原』などだ。
ライミが展開した5枚の伏せカードにそれらが紛れている可能性は高い。
この大会で採用されている『3on3ルール』ではアイテムでライフは削れない。
しかしモンスターを破壊することならいくらでもできる。
決戦士のロール任命権は1試合に3回まで。
それを使い尽くさせることは、のちのちの試合展開に大きな影響を及ぼす。
このルールにおけるトラップアイテムの主な用途はそれだ。
そして『チュチュン』はその多くを無視して、敵陣を攻撃することができる。
この攻撃を防ぐにも、今のライミに手札はない。
第一試合でミフユが見せた『シルダン』による防御は、手札にいることが条件だ。
一応、他のモンスターで『チュチュン』の直接攻撃を防ぐことは可能だ。
しかし、ライミのデッキは参加者の余りカードの寄せ集め。
デッキとして成立していても、ピンポイントで攻撃に対応できるとは考えにくい。
ならば俺が躊躇う理由は何一つとして、ない。行こう。
「俺は『チュチュン』でライミを直接攻撃だ! フリー・フライト・アタック!」
宣言と共に『チュチュン』がライミへと突っ込んでいく。
突撃してくるモンスターに、顔を恐怖に凍らせながら、だが、ライミは笑った。
「やった、ドンピシャ!」
「何ッ!?」
ライミが大声ではしゃぐと共に、伏せカードの一枚が反転する。
そして現れたのは、機械仕掛けの丸いモンスター。
「モンスター『展開』! あたしはナンバー188『キライム』を使うよ!」
ゲェッ!? 『キライム』だとォ!
ゲーム二作目で登場した『ヌライム』の近縁種の『だいち属』モンスターだ!
「縁珠!」
「ええ、やったわね。この『キライム』は伏せカードとして場に出ることで1ターンだけ『ガード』付与と『つばさ属』限定のターゲット固定効果を得られるわ。そして直接攻撃を受けた場合、そのダメージを相手決戦士にも及ぼすことができる!」
俺が見ている前で『チュチュン』と『キライム』が激突し、大爆発が起きる。
そして、ライフにダメージを受けたのは、俺の方。そんなことが!?
「ウソだろ? そんな、都合よく『キライム』を……?」
俺は、唖然となってしまう。
今の『チュチュン』の攻撃を防ぐ手段が、まさしく『キライム』の使用だ。
だが、はっきりいって『キライム』は相当なマイナーパレモンだ。
ハマれば強いが、使える状況が限られ過ぎていて――、って、まさか……ッ!?
「そのための手札全伏せか、もしかして!」
「ヘヘヘ~、その通りで~す! イェ~イッ!」
「イェ~イッ!」
気づいて叫ぶ俺の前で、ライミとエンジュが嬉しそうにハイタッチをする。
そして、俺はもう一つ気づいた。
「今の『キライム』、エンジュのデッキから加えたヤツだな?」
「うん、そう。さっきの『デッキ構築の儀』のときに、私のデッキから抜いたの」
だろうな。
ド素人のライミに『キライム』の使い道なんてわかるワケがない。
だったら、それを使おうとしていたのは、俺の本来の対戦相手であるエンジュだ。
「半分、保険みたいなものだったよ。手札に『キライム』が入ってたから」
「それでも、手札全伏せっていう奇策で、俺の警戒を買ったのはいい作戦だったぜ」
説明する孫娘を、俺は手放しで褒める。
あの一手で、俺の選べる手段はある程度限られてしまった。
場に伏せられた5枚のカード。
その全てを無視するのは絶対に無理だ。自然、俺の意識はトラップに向く。
「さすがは聖騎士長の戦術眼だな。キリオも太鼓判を押すだけは――」
「あ、それは違うの、おじいちゃん!」
「……あン?」
何故か、エンジュが俺の言葉を遮ってくる。
「手札の全伏せはね、私じゃなくて、来魅のアイディアなの」
「何ィ……?」
その意外過ぎる事実を告げられ、俺はライミの方を見る。
「ヘヘヘ、アキラちゃん、驚いてくれた?」
ライミは、どこか照れ臭そうにしながらも、楽しげに笑っている。
「最初に聞いたとき、私もビックリしたよ。まさか、今日初めてパレカに触る来魅がそんなアイディアを出してくるなんて。しかも、それが有効そうなのにも驚いた」
「じゃあ、さっきの驚き声は……」
「あ、聞こえてたの? もぉ、恥ずかしいなぁ……。それ、私の声だよ」
ややバツの悪そうな顔をして、エンジュがそれを認める。
俺が思っていたのとは逆だった。ライミが、エンジュを驚かせていたのか。
『してやられちまったねぇ、アンタらしくもない』
……あれ、お袋?
『ンだよ、試合中の魔力念話はルール違反ですよ、お母様』
いきなりのお袋からの魔力念話に、俺は我に返ってそう言い返す。
『別にゲームに関するアドバイスなんてしやしないさ。でもね、他で一つだけ、ね』
他で、一つ?
急にどうしたってんだ、お袋は。
『見事にライミをナメて火傷しちまったアンタに、ライミについて教えてやるよ』
『ライミについて、だと……?』
あの体育会系常識人に、一体何があるってんだ?
『アキラ、ライミを見くびるんじゃないよ。あの子は『喜々にして死屍』だったアタシを『人間』に戻した二人のうちの一人なんだよ。忘れてるだろうけどねぇ』
『あ……』
言われて、俺はハッとした。
そして脳裏に躍るのは、突出した殺人技巧を持つ、総天然快楽殺人少女ミーシャ。
『ライミは天性の軍師なんだよ。自分は根性論者のクセに、思いがけない奇策で場を引っ掻き回す、タケルの懐刀だったのさ。ついた二つ名が『大胆にして無敵』さね』
『マジかよ……』
『あの子は魚で、パレカは水だよ。さぞ自由に泳ぎ回るだろうね』
うっへぁ~。
凄腕女傭兵『竜にして獅子』ミーシャ・グレンからいらん保証をされてしまった。
『あっちにゃエンジュちゃんまでついてるからねぇ、こいつはせめてもの助言さ』
そして、お袋との魔力念話は途切れた。
残された俺は、改めてライミのことをしっかりと観察する。
「…………」
異世界でミーシャ・グレンを『人間』にした二人のうちの片方。
生粋の根性論者にして、天性の軍師『大胆にして無敵』、ライミ・バーンズ。
そうか。……そうか。
そうかァ、俺の異世界での実母は、そういう女かァ。
「……楽しいな、ライミ・バーンズ」
「え? アキラちゃん?」
「楽しいぜ、こいつはイイ。俺は今、か~なり楽しんでるぜ!」
言ってる俺は、自分の顔がニヤついているのを自覚する。
同時に、自分がイヤになってくるよ。
相手はお袋の幼馴染で親友で、そして、戦友だった女なんだから。
そんなの只者なワケがないのだ。
それなのに、俺は見た目の印象からライミをナメてた。お袋の言う通りに。
全く、情けないにも程がある。
そして、だからこそ今は楽しい。そんな相手と、俺は全力で対決できるのだから。
「まだだぜ、ライミ。俺はまだターンを終えちゃいねぇ!」
俺の手札はまだ残り4枚。
このターンでとれる手段が尽きたワケじゃない。
「初手はしてやられたが、ここからが俺の反撃だぜ。こんなモン終わると――」
俺はそこまで言いかけて、だが、続きを言えなかった。
何故なら、俺を見るライミが、いきなり涙を溢れさせたからだ。
「……来魅?」
俺に続いてそれに気づいたエンジュも、隣に立つライミの変化に唖然となる。
「――アキラちゃん」
ライミは、一度だけ俺の名前を呟き、両手で自分の顔を覆った。
え、俺、まだ何もしてないよ。……ね?
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