第489話 『炎獄杯』一回戦第三試合:姫君vs最終兵器:前
大観衆による歓声が、いつまでも終わらない。
もちろんそれはカリンの異面体による演出だが、リアリティのある反応かもな。
ついさっき終わった第二試合は、思いがけない好勝負だった。
組み合わせ的にコントか漫才にでもなりかねないと思ってたけどなー、俺。
しかし、ド派手にド派手を重ねた逆転劇は、非常に見応えがあった。
そして同時に、俺も早くあの場でパレットを『展開』したいと思わされたよね。
そろそろ、次の試合が始まろうとしている。
つまりそれが示しているのは――、
『いやぁ~、スゲェいい試合だったな!』
『やっと戻った……。この実況の人、やっと元に戻ったよ~!』
タクマの復帰である。
シイナが絡むと壊れるのは仕方がないが、本当にただの応援団長でしかなかった。
笑うわ。ってなモンですよ。
『も~、ワケわかんない。そんなに仲良かったの? あのシイナって人と』
『仲良かったの、と言われると『世界で一番』としか返せないぜ、ばあちゃん』
『そんな、大げさな。彼氏彼女とかじゃないんだからさぁ~……』
平然と『世界一』を口にするタクマに、ライミがちょっと苦笑している。
あ、そっか。
ライミはまだ、タクマとシイナのこと、知らないんだ。
『いや、俺とシイナは彼氏彼女だぜ? ついでに言うと婚約済みで今年入籍予定だ』
『……は?』
わかり切っていた反応だが、ライミの声の凍てつき具合がシベリアにして北極。
『え、あの、シイナさんってタクマ君のお姉さ……』
『異世界じゃな。こっちじゃ俺は片桐逞で、あいつは山本詩奈だからいいだろ』
『いい、だろ。って……、えぇぇええええ~~~~?』
『ちょっと来魅』
『ふへ?』
『あんた、これでも食べてなさい』
『わぷっ!』
第二試合から場に加わっていたサラが、ヒいてるライミにポップコーンを渡す。
『それ食べたら納得しときなさいよ。あんたには関係ない話なんだし』
『むぅ、そうかもだけどぉ~』
ライミが眉間にしわを寄せて、渡されたポップコーンをモシャモシャし始める。
『ちなみに100g50円ね』
『従量課金制なのォ!?』
もう食べたあとで言われたライミが跳び上がる。
『誰もただでやるなんて言ってないし?』
すまし面でいけしゃあしゃあとサラが言ったところで、観客席から新たな歓声。
『おぉ~っと、そろそろ第三試合に臨む二人の決戦士の入場のようだ! さて、次の組み合わせだがこいつはなかなか楽しみだな。何が起きるかわからないぜ~!』
画面は、実況らしい実況をし始めたタクマから、グラウンドの方に切り替わる。
そこには、すでに入場を果たした二人の決戦士が向かい合っている。
片や、いわゆる平安っぽい姫カットの髪型が特徴的な中学生――、ヒメノ。
片や、異世界でも日本でも今のところ物理的に末っ子な四歳児――、ヒナタ。
二回戦の組み合わせも何が起きるかわからなかった。
しかし、こっちもこっちで、別の意味でどんな展開になるか想像がつかない。
『あの見るからに清楚ビッチっぽい子、眞千草の家の子なのよね?』
ポップコーンモグモグしてるライミが喋れないため、サラが解説席に入っている。
しかし、いきなり何てことを言いやがるのか、あのライミの幼馴染は……。
『ヒメノ姉が清楚ビッチはねーだろ……。こっちでの苗字はそれで合ってるけどよ』
『ああいう、どこから見てもおせいそって感じのヤツは絶対裏の顔があるし』
タクマに苦言を呈されてもサラはまるで引かなかった。
『それで、対戦相手はあんな小さい子なの? 小学校にも上がってないわよね?』
『ヒナタだな。ウチの末っ子っしょ。小せぇけど、しっかり者だぜ』
『へぇ~、あんなナリでパレカやってんだ……。面白いじゃん。どんな決戦スタイルなのか、この目で確かめてやろうじゃない。それもまた一興、ってね』
『なぁ、あんた絶対決戦士だろ?』
『は? 何言ってんの、パレカなんかやってないし』
アニメ版ライバルのエイスケの口癖まで出しといて、そっちこそ何を言ってんだ?
どうやら、第三試合はこの二人が実況と解説をこなすようだ。
一方、グラウンドでは穏やかに笑うヒメノと腕組みしているヒナタが相対する。
二人とも言葉はないが、その視線は真っすぐで、火花がバチってる。
「ヒメノお姉ちゃん、手加減はなしだよ!」
「はい、もちろんですわ。ヒナタちゃん。手加減なんて、失礼に当たりますもの」
そして、ヒメノとヒナタが、同時に二本指を天へとかざす。
「「
一回戦第三試合、開始!
さぁ、俺としても非常に興味深い組み合わせ、先攻はヒナタだ!
「私のターン! パレット『展開』だ~!」
ヒナタの前方に配置される五枚の手札。
俺はあいつとは決戦をしたことはないが、話によればシンラを打ち負かしたとか。
我が家の最終兵器はどんなスタイルで戦っていくのか。
見せてもらおうではないかァ~!
「私は手札からナンバー080『ゲートン』を展開! このモンスターは、登場したターンに限り『ガード』のロールが自動的に付与されるよ!」
ヒナタがまず場に出したのは、両開きの門の形をしたモンスター『ゲートン』。
だが『ガード』付与ってことは、攻撃に出るワケじゃないのか?
「それでぇ~、続けてアイテムカード『イエロータウンの門番』を使うよ!」
さらにヒナタはアイテムカードを使用する。
使ったのは『ガード』が付与されたモンスターにエナジーを加算するカードだ。
「『ゲートン』にエナジーを1点追加! これで『ゲートン』の進化条件クリア! パレット・エボリューション! 来て、ナンバー081『ジョーモン』!」
ヒナタの宣言と共に『ゲートン』が光に包まれて姿を変える。
現れたのは、一回り大きくなって、物々しさを増した門の姿のモンスター。
おおおおお、いきなりの進化かよ。
確かに『ゲートン』は最も進化が簡単な部類のモンスターだ。
だが、進化先の『ジョーモン』はそこまで強くない。
進化が容易な分、進化した際の強化幅もそこまで大きくないのだ。
性能でいえば『ジョーモン』は『ナイティオン』に劣る程度。
しかも『ガード』のままでは、ヒメノへの直接攻撃もできない。さて、どうする?
「『ガード』が付与されたまま進化したことで『ジョーモン』の特殊能力発動! 私は今の手札から2枚破棄して、新しく2枚を手札に加えるよ!」
へ~、そんな能力あるのか。知らんかった。
俺はバチバチに攻めるのが好きなタイプだから、防御型パレモンには詳しくない。
しかし、こうしてみるとヒナタの戦い方は俺とは真逆っぽいか?
ガッチガチに守りを固めた上で長期戦に臨む感じに思える。
「よし、来た! ラッキ~!」
引いたカードを確認して、ヒナタが何やら拳を握る。
『おぉ~、何やらヒナタが随分と笑顔をハジけさせてるが、これは何を引いた~?』
『反応から見て『やりたいことをするために必要なパーツ』を手にしたって感じかしらね。ここからさらに守りを固めるのか、それとも何かの攻撃手段か……』
サラがしっかり解説してる横で、ライミはコーラを啜って観客と化している。
もう、実況と解説、このままでいいんじゃねーかな?
「よぉ~し、いくよ~! ヒメノお姉ちゃん、覚悟!」
「はい、全力でどうぞ」
コクリとうなずくヒメノに、ヒナタは勇ましく笑ってうなずき返す。
「アイテムカード『ハイパー・エナジージェネレーター』を使うよ! このカードはデッキに1枚までしか入れられない代わりに、即座に『パレットエナジー』を3点獲得できる! これで『ジョーモン』は、もう一回進化だァ~!」
え。
二段階進化、ですか……?
「今ここに、分厚き門は全てを阻む境界となる! 冷たき鋼鉄よ、金剛へと至れ! パレット・エボリューション! 来て、ナンバー555『ダイセイモン』!」
巨大な質量が、グラウンド全体を揺るがした。
そこに現れたのは、門ではなく、もはや壁。
黒く、大きくて、硬く、分厚くて、何よりも揺るぎなき、巨大なる城門。
こいつは、四作目であるパレモン魔剣・聖鎧に出てきた超防御型モンスター。
そういえば『ゲートン』の追加進化形態だったっけかー!
「『ダイセイモン』は『ガード』を付与された状態で場に出ることで特殊能力を発動できるよ! グランド・ガード・グラウンド! この能力により、これから2ターンの間、ヒメノお姉ちゃんのモンスターの攻撃は全部『ダイセイモン』に集中する!」
うわぁ、ターゲット集中効果だァ~!
初手でガチガチに防御を固めるどころか、ヒメノの攻撃の導線まで固定した。
ってことは、ここからヒナタがやるのは――、
「最後に、私はナンバー120『ブレイドン』を展開!」
ヒナタが『ダイセイモン』の隣に出したのは、刃に顔がついてる剣型モンスター。
「このモンスターに『アタッカー』を付与して待機させることで特殊能力発動! ヒメノお姉ちゃんからの攻撃を条件に、自動的にカウンター攻撃を行なうよ!」
なるほどなぁ~、受けモンスターで攻撃を防いで、カウンターで仕留める。と。
これは、なかなか凶悪な釣り野伏。もしくは殺し間。ひどいコンボだ。
ヒナタが出した『ダイセイモン』の防御性能は、トンチキレベルだった気がする。
それを完全に使いこなしているヒナタの実力は確かなものだ。
言っちゃ悪いが、シンラが勝てなくなったのもわかる。
ヒメノの形勢は明らかに不利。一体、ここからどう動けばいいのやら。
「いきなり状況を固められてしまいましたわね……」
だが、そう呟くヒメノの顔に恐れやおののきの色はなかった。
それどころか、涼しかった笑顔が、少しずつ熱を帯び始めている。特に、その瞳。
「ああ、何てこと。どうしましょうかしら」
瞳の中に蒼白い火の粉を散らしながら、ヒメノはその声に重みを乗せる。
困ってるような口ぶりで、しかし、全然困っちゃいねぇ。
「私、高ぶってしまいますわ」
そして、バーンズ家次女はたおやかなそぶりでその目を細めた。
ヒメノのターンが、始まる。
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