第127話 最終日/バスの中/こうして事実は知れ渡った
キャンプ、終わっちゃったー!
「こうしてみると、あっという間だったわね~……」
タクマが運転するバスの中で、席に座ったミフユがそんなことを言う。
うん、そうだね。それはいいんだけど、
「またおまえが窓側? ……俺も窓から外眺めたいんですけど」
「アキラ、わたしに席を譲ってくれてありがとう」
あれ、おかしいな。別に譲った覚えないんですけど。
そのイベント、いつ発生した?
「あっという間だったけど、でも、色々あったわよね……」
「そう、だな」
何事もなかったかのように話を進めるミフユに、俺は早々にあきらめてうなずく。
おのれミフユ、この借りはいずれ必ず返してやるからな。
で、それはそれとして、だ――、
「色々あったけど、主役は俺達じゃなかったよなー」
「そーねー」
と、俺とミフユは一緒に一つ後ろの座席を覗き込む。
「……何だよ」
「……何すか」
そこには、我が愛娘タマキと、その隣に座る我が親友ケントがいた。
覗き込む俺達を、二人は一緒に見返している。あれ~、何かな、その反応~?
「いやぁ~? 別に~? ね~、ミフユさん」
「そうそう、別に何でもないわよ~? 仲がよさそうでいいな~って、ね~?」
「ね~?」
俺とミフユは、互いに顔を見合わせて、ニヤニヤしつつ首を傾ける。
すると、ケントが言ってきた。
「率直に申し上げますが、ブチ殺しますよ」
「ホントに率直!?」
まさか、ケントが俺達に向かってそんな一直線に牙を剥いてくるなんて!
「ヤバイ、ちょっとドキドキした。何か男の友情って感じが……」
「それはただの病気だよ、団長」
うわぁ、一層冷たい声で言われてしまった! 笑うわ!
「っていうか~、何だよ、おとしゃんもおかしゃんも、何の用だよ~!」
「あらあら、ちょっとダベろうってだけなのに、そんなに煙たがらないで欲しいわ」
「け、煙たがってなんかいねーし!」
と、ミフユに対して唇を尖らせるタマキだが、じゃあ、その余裕のなさは何事さ。
明らかに、俺とミフユへの態度がいつもと違ってますよねぇ?
「もうこうなったら直できくけどさ、ケントさ」
「はいはい、何ですか。めんどくせぇな」
「おまえら付き合うの?」
「ぶっは!?」
おお、ケントが噴いたぞ! タマキが背中をさすっているぞ!
何これ、甲斐甲斐しいタマキとか、ちょっと新鮮でしてよ。ねぇ、ミフユさん!
「な、何でそうなるんすか! あんた、何を根拠に……!?」
「何を根拠にって、なぁ?」
「……そうねぇ」
俺が同意を求めると、ミフユもこっちを見てうなずく。
すると、俺達のリアクションが不満だったのか、ケントがさらに噛みついてくる。
「さっきから何なんすか、マジで。ヒマつぶしに俺らを使わんでくださいよ!」
「そーだそーだ! オレ達はおとしゃん達のおもちゃじゃねーんだぞー!」
二人して俺達に遺憾の意を表明してくるが、あれ、もしかして気づいてないのか。
俺はミフユに目で問うが、首を傾げられてしまった。教えた方がいいんかな。
「あの~、どうかしたんですか?」
と、そこに新たな登場人物。
菅谷真理恵だった。
「あ、真理恵さん」
「やっほ~、菅谷真理恵~!」
ケントも、そしてタマキも、特に気負いは見せずに菅谷に挨拶をする。
キャンプ開始前は、タマキなんぞ彼女を見るなり全身総毛立たせてたってのにな。
「別に何でもないですよ。ただ、そこのガキンチョ二人が、俺とお嬢をからかってくるだけで。あ~、ウゼ~、俺ら別に何でもないのに、チョ~ウゼ~。ってだけです」
「そーだそーだ! チョ~ウゼ~、なんだぜ~!」
あ、コレ本格的に気づいてないわ。どうしよう、クソ面白い。
そう思っていると、困ったように眉を下げた菅谷が、優しく諭すように告げる。
「あのね、ケントさん、タマキさん」
「何でしょうか、真理恵さん」
「あなた達、ずっと手を繋いだままよ……?」
言われたケントとタマキが、一瞬動きを止める。
そしてそのまま両者共に、自分達が座る席の真ん中部分に目線を落とす。
タマキの左手と、ケントの右手が、しっかり繋がれていた。
「…………」
「…………」
「「~~~~~~~~ッ!」」
一瞬の間ののちに、二人の顔が同時に真っ赤に染まった。
やっぱり気づいてなかった! そしてリアクションが初々しィィィィィィッ!
「あッ、あの! これはその、えーと、アレです! その、アレですって!」
「もぉ~、何なんだよ、もぉ~! 何だよー、別にいいだろ、もぉ~~~~ッ!」
ケントがテンパり、タマキが逆ギレする。
だがその間も、二人の手、繋ぎっぱなしでしてよ! うおー! うおー!
「え、何々、なぁにぃ~? どしたの~? カップル成立なのぉ~?」
そこにやってくるスダレ。
「えッ、カップル成立!? 何ですかその忌々しい言霊は! 悪霊退散ですよ!」
そこにやってくるシイナ。
「何と、ケント殿と姉上が!? これは実にめでたき仕儀! 心より祝福を!」
「ハハンッ、いいねぇ、お似合いじゃないかい! 青春だねぇ、こりゃあ!」
「せいしゅんなの~?」
そこにやってくるシンラとお袋とひなた。
あっという間に、ケント達の席の周りに俺達が大集合!
「クッソ、俺ッちもそッち行ッきてぇ~~~~!」
運転してるタクマだけは、こっちに来ることができない。
すまんなタクマ、だが安心してくれ。おまえの分まできっちり弄り倒してやる!
「ちょっと、何ですかあんたら! 俺達の周りに輪を作らんでくださいよ!?」
「さっきまでならそれも聞いてやった。しかし、今は状況が変わったよ、ケント君」
「団長のその口調は何キャラだよ!?」
あ~、打てば響くこのツッコミ。本当のケントが帰ってきたんじゃ~。
「で、ケント君よぉ、告白はどっちからなんだ~い?」
「あんた、父親のクセに躊躇なく核心を抉ってくるのは確実に最低だからな!」
「昨日、バーベキューのときに二人していなくなったよね、途中から」
「ぐぅッ……!」
必死に抗おうとするケントだが、俺がそれを指摘すると途端に言葉を詰まらせる。
やだ、その反応だけで、こっちは顔がニヤケちゃう。
「べ、別に……、俺とお嬢で、散歩に行っただけですけど~」
ケントは、自分を注目する皆から目を逸らし、唇を尖らせてそう述べる。
ほほぉ、まだシラを切ろうとするか。
だが、顔は赤いままだし、手も繋いだままだし、これは説得力皆無。そして絶無!
「あの、アキラさん? あんまりケントさん達をからかうのは……」
と、ここで菅谷がケント達に助け船を出そうとしてくる。
菅谷が俺を『さん』付けしているのは『出戻り』に関する話をしたからだ。
ケントとタマキが、自分を救おうとしてくれる菅谷にパッと表情を輝かせる。
さすがは『正義の人』菅谷真理恵。しかし、しかしだ……!
「菅谷さん、あんた、この二人のコイバナ、気にならないのか?」
「それは気になります」
「そんな、真理恵さァァァァァァ――――んッ!?」
残念だったなぁ、ケント!
菅谷真理恵だって、刑事とはいえコイバナ大好き二十代前半女子なんだよォ!
「菅谷さん!」
「はッ、はい!?」
ここで、何故かシイナが菅谷を呼んで、ジッと凝視する。
「つかぬことをお尋ねしますが!」
「あ、はい、何でしょう……」
強烈に迫ってくるシイナに、菅谷は気圧されつつ質問を待つ。
すると、シイナは前置きもなしに彼女に問いかけた。
「……彼氏いたこと、ありますか?」
おまえ、なんつーことをきいて……。
「いえ、その、お恥ずかしながら、ないです……」
そして菅谷真理恵。おまえも何で素直に答えちゃうかな……。
「我、今ここに、生涯の友を得たりィ~~!」
「うひゃあぁッ!?」
勢いのまま、歓喜の声と共にシイナが菅谷真理恵を抱きしめる。
いやいや、おまえと一緒にすんな、シイナ。それは菅谷に失礼だと、俺は思うよ。
「ところでケント殿、姉上と想いを通じさせられたコツなどはございましょうや。余としましては、是非とも今後の参考にさせていただきたく――」
「ンな真面目に言われたって知らねーっすよ! もう休ませてくださいよぉ!」
何かケントが、必死になってるシンラに食い下がられてる。
シンラも、このキャンプ中に何かあったんかねー。お袋もニヤニヤしてるし。
「ねぇ、タマキ?」
「何だよ、おかしゃん! オレ、怒ってるからな!」
そして、俺の隣ではミフユがまたタマキに何かを話しかけている。
「そんなツンケンしないの。もう、からかったりしないわ。ただ、教えてほしいの」
「何をだよ!」
まだプリプリしているタマキへ投げる、ミフユの問い。それは、
「キャンプ、楽しかった?」
母親として、娘にそれを確かめるものだった。
そして、問われた娘は表情を一転、楽しげなものに変えてうなずいた。
「うん、最高に楽しかったぜ!」
それなら、よかったよ。
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→ 第六章 愛と勇気のデッドリーサマーキャンプ 終
幕間 緊急招集、金鐘崎アキラを弾劾せよ! に続く←
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