第7話 RAINグループ『2ねん4くみ』

『今日』


 ふゆ:ちょっと、今日、誰かリッキーと通話したヤツいる?


 KMR:しらなーい。


 かめ吉:俺もしてないよー。


 みうみう:どうかしたの、ふゆちゃん?


 ふゆ:さっきから何回もメッセージ送ってるのに反応ないのよ。ムカつく。


 みうみう:まだ塾じゃない? 今日は塾の日だし。


 ふゆ:バカのクセに塾なんて行ってどうするの、ゴリラのクセに。


 かめ吉:ふゆちゃんひっど。


 ふゆ:事実でしょ。腕力バカのゴリラが勉強なんかしてどうするのよ。


 KMR:リッキーにバレたら怒られるよ、ふゆちゃん。


 ふゆ:くっだらな。あいつのパパは私のパパの手下よ。無理に決まってるわ。


 ジロ~:出た出た、ふゆちゃんのパパ自慢。


 ふゆ:何よ。ジロ~、何か文句あるの?


 ジロ~:え、いや、別にないけど。


 ふゆ:じゃあ謝りなさいよ。


 ジロ~:え


 ふゆ:私をからかうようなことを言ったの、謝りなさいよ。


 ジロ~:ええ


 ふゆ:最高に気分が悪くなったわ。気持ち悪いくらい。ジロ~のせいよ。


 ジロ~:そ、そんなぁ


 ふゆ:謝りなさいよ。早く。泣きたい気分になってきてるわ、私。


 みうみう:ジロ~君、謝った方がいいよぉ。


 ジロ~:俺、別にそんなつもりじゃ……


 ふゆ:あんたがどういうつもりかなんて関係ないわよ。早く謝りなさいよ!


 ジロ~:ごめん、ふゆちゃん


 ふゆ:悪いのは誰?


 ジロ~:俺です。本当にごめんなさい。


 ふゆ:悪いことをしたってわかったら?


 ジロ~:もうしないよ。二度としないよ。だから勘弁してよ! 謝ってるじゃん!


 ふゆ:謝ってすむ問題だと思ってるの! 最悪ね、あんた!


 ジロ~:先に謝れって言ったのはそっちだろ! おかしいよ!?


 ふゆ:うるさい。私は間違ってない。おかしいのはあんたの方に決まってる!


 ふゆ:あんたのパパ、私のパパのグループの系列企業の下請けに勤めてたわよね。


 ジロ~:待ってよふゆちゃん!


 ふゆ:待たないわ。謝るだけですまそうとした卑怯者は絶対許さないわ。


 ふゆ:あとでパパに言っておくから。覚悟しておきなさい。


 ふゆ:あんたのパパなんて、すぐにクビか左遷よ。私を怒らせた罪は大きいわ!


 ジロ~:あ、謝るから、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!


 ジロ~:二度とふゆ様には逆らいません。許してください。お願いします。


 KMR:あ~ぁ。


 かめ吉:ふゆちゃん怒らせるから~。


 みうみう:ねぇ、ふゆちゃん、ジロ~君のこと許してあげたら?


 ふゆ:そうね。明日、みんなの前で私に土下座したら許してあげてもいいけど?


 ジロ~:はい、土下座します! 何でもします! だから許してください!


 ふゆ:いいわ。土下座して、私をふゆ様って呼んで一生奴隷になるなら許すわ。


 まー:こらこら、ふゆちゃん。やりすぎだぞ。


 みうみう:あ、まーくん。


 まー:ジロ~も十分反省してるんだし、許してあげなさい。


 ふゆ:何よまーくん、担任のクセにジロ~を贔屓するの? 平等じゃないわ!


 まー:僕は平等より公平が好きでね。ふゆちゃんの方がジロ~よりも偉いだろ?


 ふゆ:そうよ。私は偉いのよ。私のパパは大企業の会長なんだから!


 まー:偉い人はね、偉くない人に優しくしてあげた方がいいんだよ、ふゆちゃん。


 ふゆ:何でよ?


 まー:それが公平ってことだからさ。偉くて、強くて、優しい。いいことだろ?


 ふゆ:フン、まぁいいわ。これくらいで許してやるわよ。感謝しなさい、ジロ~!


 ジロ~:あ、ありがとうございます……。


 まー:うんうん。それでよし。ところでリッキーについてなんだけどね。


 ふゆ:あいつ、私が連絡してやってるのに全然反応ないんだけど!


 まー:ついさっき、リッキーのご両親から連絡があってね。


 かめ吉:え、何かあったの?


 まー:リッキーが急病で病院に運ばれたって。しばらくお休みするらしい。


 KMR:えええええ


 みうみう:いきなりすぎない? 大丈夫なの、それ?


 まー:わからない。今は病院で検査中だそうだ。


 ふゆ:何よそれ、仮病なんじゃないの? あいつ、明日のことで怖気づいたのよ!


 まー:明日? 明日何かするつもりなのかい?


 ふゆ:アキラよ。今日あいつ、すっごい生意気だったじゃない。


 まー:いつもとは随分と様子が違っていたね。


 ふゆ:私達に逆らうなんて絶対許さないわ。だから復讐してやるのよ!


 まー:リッキーとふゆちゃんで?


 ふゆ:そうよ。あいつに、一生忘れられない傷を負わせてやるのよ!


 まー:程々にね。


 KMR:止めないんだ、まーくん。


 まー:止めたって、どうせ僕が見えないところでやるだろ、ふゆちゃんなら。


 ふゆ:当然よ!


 まー:だったら僕が見えるところでやってもらった方が、僕としても都合がいい。


 みうみう:担任の先生の言うことじゃなーい。


 まー:あははははは


 かめ吉:って、笑いごとなんかーい。


 ふゆ:明日は最高の復讐をしてやるつもりだったのに、リッキーめ。


 まー:実を言うと僕も前々から、リッキーはあんまり好きじゃなかったんだよ。


 みうみう:そうなの?


 まー:だって腕力だけのゴリラだろ、あの子。


 ふゆ:さすがまーくんはよくわかってるわ。そうよ、あいつはただのゴリラよ。


 ジロ~:う、俺も実は、あんまりリッキーは……。


 かめ吉:あいつ、人のものすぐとるもんなー。


 KMR:そうそう。俺もあいつに消しゴムとられたままなんだよなー。


 みうみう:リッキーのこと好きな人って、実はいないよねー。


 かめ吉:すぐぶってくるから嫌いだ、あいつ。


 KMR:あいつも病院に行ったまま死んじゃえばいいのにな。


 みうみう:そうよねー。いなくなっちゃえばいいのに。


 まー:やっぱりクラスのリーダーはふゆちゃん以外にはいないな。


 ふゆ:当たり前よ。


 ふゆ:こうなったら、アキラへの復讐は私がやってやるわ。見てなさいよ。


 まー:さすがはふゆちゃんだ。クラスの和を乱す悪人を裁いてやってくれ。


 KMR:任せたぜ、ふゆちゃん!


 みうみう:ふゆちゃんかっこいいー!


 ジロ~:ふゆ様、最高です!


 ふゆ:そうよ、もっと、もっと褒めなさい。私はすごいんだから!


 ふゆ:私は偉くて、すごいのよ! そうよ、すごいんだから!



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 力也の家を出て、帰り道のさなかのこと。


「あ、金鐘崎君」

「あれ、枡間井さん」


 未来とバッタリ遭遇した。


「どこかに行くの?」

「いや、これから家に帰るところだよ。散歩中だったんだ」


 俺は差し障りのない返答をしつつ、道を歩きはじめる。

 その隣に、未来が並んで歩いてくる。


「枡間井さんこそ、何でこんな時間に?」


 時刻は午後八時。

 小学二年生が出歩くにしては遅い時間のようにも感じられる。


「ん、これ……」


 ガサと音を立てたのは、コンビニのビニール袋。

 中に、スナック菓子と四角く平べったい箱のようなものが入っていた。

 箱みたいなのは、チョコか何かかな。


「買い置きのお菓子がなくなっちゃって、近くのコンビニに買いに行ってたの」

「じゃあ、この近くに住んでるんだ?」

「うん。ここから少し行ったところにあるマンションよ」


 あれ、それっていわゆるタワマンでは?

 この辺り、街でも特に地価が高い高級住宅地でしたよね、確か。


「枡間井さんって、実はお金持ち?」

「そんなことないよ。パパはいつもお仕事忙しくて、家には私一人だし」


 父一人、娘一人、ってことかい。

 どうやら家庭事情はどこも似たり寄ったりらしい。住んでる場所が雲泥だけどな。


「金鐘崎君のおうちって、こっちだったっけ?」

「ああ、うん。遠くはないよ」


 適当の誤魔化しつつ、俺はさっさとこの場を離脱することにする。


「あ、枡間井さんはそっちに行くのか。僕はこっちだから」


 と、分かれ道で言ったところで、急に未来が俺のことを見つめてきた。


「ねぇ、金鐘崎君」

「何かな?」

「明日は、ちゃんと学校に来てくれる?」


 何だ、そんなことかよ。


「大丈夫だよ。ちゃんと行くから。心配してくれてありがとう」

「うん。わかった。どういたしまして」


 未来はにっこりと微笑んで、そして歩いて行った。

 やれやれ、敵じゃないようだが、あのあけすけな性格はどうにも扱い慣れない。


「さて、そろそろ腹も減ったし俺も帰って――」


 言いかけたところで、周りの風景を見て気づいた。

 あれ、もしかしてこの辺って、近くじゃね? ……佐村美芙柚のおウチのよぉ。


「――見るだけ見ていくか」


 俺は舌先で上唇を軽く舐めて、行き先を変更した。

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