害し系ダークマッチングアプリ

押見五六三

第1話

「紗絵子!それ、間違いなく浮気されてるわよ!」

「やっぱり?香夜かやもそう思う?」


 正午もとっくに過ぎた昼下り。一般の主婦には洗濯物を片付けたり、お迎えに行ったりと忙しい時間帯だが、子供が居ない私には実に退屈な時間帯だ。だから普段、私と友人の香夜はこの時間に暇つぶしのバイトを入れて小遣い稼ぎをしている。何かとキツイ仕事なので週2ペースにはしているが、それでも結構な金額に成るので有り難い。本当は今日、そのバイトに行く日だったのだが、凄くムシャクシャする事が有ったので休みにしてもらい、昼間から宅配ピザをつまみに缶ビール5本も空け、すっかり酔っぱらいながら自宅のリビングで愚痴をこぼしているところだ。ムシャクシャの原因は旦那のクレジットの明細。私の知らない高級レストランの支払いが数件有ったので、イライラが止まらないのである。こんな洒落た店に旦那あいつが一人で行くわけがないし。


「でも旦那あいつの仕事場、女っ気ゼロなのよね。何処で見つけたんだろ?お酒飲めないからキャバ嬢の可能性は薄いし……昔の女かな?」

「今流行りのマッチングアプリじゃない?」

「マッチングアプリか……あれって既婚でもオッケーなの?」

「当たり前じゃん。結婚相手探してるんならともかく、オッサンのほとんどはヤリモクで登録してんだから」


 問い詰めても誤魔化されるだけだし、スマホはしっかりガードされてるしで、どうやって証拠を掴もう。夫婦間でも勝手にスマホを覗くと犯罪だと聞くしなあ。興信所に頼んだら数十万取られるらしいし、もし私の早とちりだったりしたら大損だわ。


「んとに、腹立つわね。なんなのよ、人の旦那を寝取るなんて!人間のクズよ!クズッ!旦那あいつも浮気しておいて、私に対しての罪悪感とか感じないのかしら?」

「あんたも旦那に黙って風俗で働いてんだから、お互い様じゃない」

「私のは浮気じゃないでしょ!ビジネスよ、ビジネス!だいたい紹介してくれたの、あんたじゃない!」


 しかし、もし風俗でバイトしている事がバレたら裁判に成った時に不利に働くのは確かだ。何とかコッチの不利は隠して浮気相手に制裁を加えられないかしら。このままじゃ腹の虫が治まらないわ。


「あー!悔しいー!涙出てきたッ!相手の女を見つけ出して張り倒してやりたいわッ!」

「木刀で得意の『メーン』する?」

「そうね。ボッコボコにしてやる。ねえ、何か探し出す良い方法ない?」

「尾行してみたら?」

「バレるわよ!旦那あいつ、そういう警戒心は強いんだから」

「うーん……そうだ!私が以前働いていたお店のマネージャーさんに聞いたんだけど、がいし系マッチングアプリってのが有るんだって!」

「ガイシ系マッチングアプリ?何それ?」

「自分の生活に害する人間を探し出せるアプリとか言ってた。ほらッ!私ら風俗店で働く子って、掲示板に悪口や素性を書かれたりして嫌がらせを受けやすいでしょ。特に人気の子は消しても消しても誹謗中傷が後を絶たないんだって」

「ああ、確かにね。私は経験浅いから掲示板に書かれた事もほとんど無いけど、人気の子は無茶苦茶書かれてるわよね」

「そうなのよ。うちらの業界は同じ店の子に妬まれたり、お客に逆恨みされたりが多いからね。匿名掲示板のそういった書き込みって公衆無線とかを使うから、警察や裁判所を介さないと犯人が誰か特定出来ないそうよ。正直、私ら風俗の子は親族とかに身バレすのが嫌だから警察沙汰にしたく無いし、店が動いてくれなきゃ犯人は解らないまま泣き寝入りなんだけど……でもね、そのアプリは警察や裁判所を介さなくても犯人を特定してくれるそうよ。アプリが犯人を簡単に見つけてくれるんだって!」

「えーッ?!アプリで犯人を探せるの?凄いアプリが有るのね!初めて聞いたわ!何でそんな便利なアプリが有名にならないの?」

「だって非公式の野良アプリだもん」

「……それって、ヤバい奴じゃないの?」

「かもね。でも興信所に頼むより安く済むかも」


 でも何か面白そう。ヤバかったら直ぐにアンインストールすれば良いんだし、ちょっとだけ、どんなのか試しにやってみようかな。


「香夜!そのマネージャーさんとは、まだ連絡とれる?」

「うん。たまにラインしてるから」

「明日でも良いから、そのアプリの情報を送ってくれない?」



 私は怪しいと思いつつも酔いの勢いで頼んでしまった。

 まさか、あんなアプリだと知らずに……。

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