ヒカリの中から消えゆく世界で僕は君に愛を誓う

道尾玲香

第1話 ヒカリの溢れる世界

 ひかり。その単語を聞いたとき、世間は何を連想するのだろう。電気やライト、花火、星や太陽、蛍。

 俺は何を連想するだろうか。短めの黒い艶のある髪、白く透き通るような肌、大きいわけでも二重でも無いけど印象深い瞳。きっとそんなことだろう。

 俺だって最初は世間と同じ様なものだった。でも、彼女と出逢ってから俺の価値観は変わったんだー


 5月初めの連休。いわゆるゴールデンウィーク。そんな期間に俺、竹村涼佑は暇を持て余していた。

 なぜなら高2の俺は部活に所属していない帰宅部だからだ。俺は運動神経も頭の良さも普通並みだ、嫌われてはいないが必要とされているわけでもない。そして、恋愛経験はこの17年間皆無である。

 ってことで、今日もゴロゴロしながら1日を過ごすつもりだった。だが、

「涼佑?今日ぐらい外に出なさいよ。天気もいいし、連休ももうすぐ終わりなのよ?」

母の声が聞こえた。別に俺は、連休とはいえ外に出て思い出作りをしようとなんて思わない。でも、母は心配症だ。従わないとかえって面倒になる。

「あぁ〜。分かったよ。10分したら家出るから。」

だから、階下の母には安心させることを言う。いつも、俺はことなかれ主義で生きているから。

 

 「暑すぎんだろ、、5月だよな?」

結局家を出た俺は後悔することになった。なぜなら、冷房の効いた部屋にいた俺は長袖のパーカーを着て外に出てしまったからだ。最初は、まだ体が冷えていて、モワっとするくらいだったため気にしなかった。だが、家に戻るには少し面倒になるころにで暑くなってきた。薄手の生地だったことが不幸中の幸いだろう。

 「あっ、自販機あった…」

なぜこの地域は田舎でもないのに、自販機が全然無いのかなどとイラつきながら、ふらつく足取りで自販機へ向かった。

「うわっ!」

自分でも信じられないほどの大声を出しながら俺は派手にコケた。ここはコンクリの上だ。肘と膝が痛い。

 「だっ、大丈夫ですか!?怪我してませんか!?」

ん?人の声だ。見られていたことを恥ずかしがるより先に、俺は声のする方を見上げた。同年代ぐらいの黒髪の女の人がかがんで、心配そうに覗き込んでいる。

「あ、いや。大丈夫で…はないですね。めちゃくちゃ痛いです。」

俺はなぜこの時正直に言ってしまったのか分からない。だが、これが良かったのだろう。

「ふふっ。あ、ごめんなさい!怪我してるのに笑っちゃって…でも、正直に言ってくれて良かったです!」

にこにこと笑う彼女は、優しくそれでいて意志の強そうな子だった。

後から聞いてみれば、自販機のちょっと前で俺を見かけ、あまりにもふらふらしていたため、追っていたのだという。

「勝手に尾行みたいなことしてすみません…」

「いや、別に大丈夫ですよ。逆に心配していただいてありがとうございます。」

「いえ…あ、私はなつめひかりです!夏目漱石の夏目に光る里で光里です!」

「光里さん。僕は、たけむらりょうすけです。竹に村と涼しいって言う字に佑です。」

「涼佑くん!よろしくね!」

「うん。よろしくね。」


 この出会いが良かったのか悪かったのかは分からない。だが、この出会いが俺の人生も彼女の人生も変えるなんてこの時は一つも考えていなかったんだ

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