もう終わりか?
椿に転移させられたエミリーたちは、少し離れた場所から椿とソルセルリーが戦っている王城の一角を眺めていた。
「椿さん……」
エミリーはずっと椿を心配している。
強くなって帰ってきたと言っても、あの直接その身で感じたあの威圧感を拭うことはできない。
現在、崩れた城の一角では濃密な霧で覆われている。
時折、霧からソルセルリーの攻撃が飛ぶだけ。
「上里……」
翔もまた戦闘を見ている。
霧によって感知系の技能は阻害されているものの、それでも椿が勝つことを祈るくらいは許されるだろう。
帰ってきた椿の戦闘を誰もが見守っている。たとえ姿形は見えずとも、その霧の中の戦いはそこから飛び出してくる"魔弾"がその熾烈さを物語っている。
今もそう。飛び出した"魔弾"のうち一つがエミリーたちに向かって……
「!?みなさん敵の攻撃が……」
超音速で飛んでくる"魔弾"を認識した頃には時すでに遅く、既に回避が困難な場所まで飛んできていた。
もう駄目だと誰もが思ったその時、
ガキンッ!という音が鳴った。
エミリーたちが何事だと見ると、そこには額からツノを生やして刀で"魔弾"を受け止めている少女がいた。
その少女は己の刀と弾いた"魔弾"を一瞥して
「痛い!痛いですよ!鬼化に加えて限界突破も支援魔法も身体強化も使ったのに弾くので精一杯です!」
「ほら、花恋、弱音を吐かない。回復魔法かけてあげるから次もよろしくね」
「リーリエも手伝ってください!障壁だったり結界だったりで威力を削いでください!」
「え?だって私の魔法って椿のよりも効果少ないし……」
「わたくしだって椿さんの足元にも及びませんよ!もう、任せたなんて言うから張り切りましたのに……椿さんはこれどうやって対処してるのでしょうか……」
「うーん。椿なら普通に切り刻んでそう……」
先程までの凛とした姿は薄れ、突如現れた空飛ぶ少女、リーリエと何やら話している。
「あ、あの……」
エミリーが話しかけようとしたが、再度飛んでくる"魔弾"。
「あ、また飛んできた。"天壁"」
リーリエが障壁魔法で威力を削減しつつ、花恋が"魔弾"を弾く。
「とりあえず、あなた方はお守りしますので、安心してください」
花恋のその凛とした姿に誰もが見惚れた。
召喚者たちは、自分たちは異世界から召喚され、チート能力を所持しているはずなのに、それを生かせずに、しかもこの世界の住民に守られているのいう事実に嫌気がさす。
「椿さん……そんな相手はやく倒してしまってくださいね」
花恋が呟いた瞬間に霧は晴れ、黒い炎が天へと向かって昇って行った。
「花恋、あれって……」
「はい。そうです」
花恋は驚いているエミリーたちを背に、その黒炎を見つめながら
「椿さんが〈閻魔〉を抜きました」
□■
「急げ?急げだと……たかだか人間風情が……この俺に向かって急げだと?マグレでその剣を俺に当てただけで随分と調子に乗るんだな……その剣の斬撃あとも、この炎さえどうにか出来れば……」
椿はなおも言葉を言い続けるソルセルリーの顔面を殴りつけた。
「ぐほっ」
ソルセルリーが回転しながら飛んでいくのを"神速"を使いながら追いかけ、その速度を維持した状態でソルセルリーの胴体を蹴り飛ばした。
「うがっ!?」
空気を吐き出しながら飛んでいくソルセルリーを再度追いかけ、椿は一度地面に蹴り落とす。
そして地面に叩きつけられバウンドしたソルセルリーの腹をもう一度蹴り飛ばす。
ソルセルリーは反撃に出るために"神速"で一度逃れようとするも、椿にすぐに追いつかれ顔面を蹴られ、その状態から足を掴まれ地面に叩きつけられた。
「え!?椿さん!?」
すぐ近くに花恋がいる。リーリエや転移させたはずのエミリーたちもいるところから、随分と遠くまで来たことが予測される。
だが、それさえ意に返さず、ソルセルリーの顔面を殴り続ける。
「が!?この……」
ソルセルリーは分身系の魔法の一つである"脱皮"を用いて自身の抜け皮を犠牲に椿の猛攻から逃れる。
「この!"魔弾"」
1万にも及ぶ"魔弾"。しかも今回は椿が守るべき者もいる。これなら倒せると思い、発射したが、
「いくぞ、〈閻魔〉」
椿が手に持った刀によって"魔弾"は全て斬り落とされてしまった。
先程まで椿が避けるか受け流すしか出来なかった"魔弾"があっさりと。
「はぁ!?なんだ!なんなんだお前は!」
叫ぶソルセルリーに椿は無情にも魔法の準備に入る。
「複合魔法"灼熱嵐牙"」
炎と風の最上級合成魔法によってソルセルリーは焼き焦がされながら吹き飛ぶ。
「ぐぞっ!」
なんとか"神速"で上空に逃れるも、ソルセルリーの目の前に転移した椿が顔面を蹴りあげる。
そのまま胴体を殴り飛ばし、ソルセルリーがいる場所よりも上に転移すると、
「閻魔一刀流ーー閻龍王」
ソルセルリーの胴体を切り裂いた。
「がはっ!」
体から大量の血が吹き出すのを見ながらソルセルリーは体勢を整える。
だが、椿はソルセルリーにまだ攻撃を仕掛ける。
「"魔弾"」
「……は?」
ソルセルリーには理解ができなかった。
(やつは、今、なんて?)
だが、ソルセルリーが理解するしないに関わらず、攻撃は開始される。
椿の周囲から10万にも及ぶ数の"魔弾"が出現した。
「はあああ!?」
自分が作った魔法を、自分の10倍の数をいとも容易く生成するのを見ながら、ソルセルリーも"魔弾"を準備した。
そして、両者の攻撃がぶつかり合い、ソルセルリーの"魔弾"が消し飛んでも、まだ飛んでくる"魔弾"からなんとか逃れる。
だが、"魔弾"から逃れたソルセルリーを椿はかかと落としの要領で蹴り落とす。
「このっ」
なんとか起き上がり"魔弾"を発射する。
たとえ相手にパクられても、ソルセルリーが最も得意とする魔法だ。数では圧倒されようとも、一発の威力と速射力は自分の方が上だと言い聞かせ"魔弾"を飛ばす。
数を減らし、その分速度に力を入れた"魔弾"を。
だが、椿はそれをも凌駕する。
全ての"魔弾"を一つの例外もなく完璧に斬り落とす。
そして、ソルセルリーの視界から消えたと思ったら、下からアッパーを繰り出され、そのまま切り返してかかと落としをする。
「グッ、ゼェゼェ」
飛行も不安定になりながらも椿のことだけはしっかりと見る。
「なんだ?もう終わりか?その程度だったのかお前は。まさか本当にもう何も無いのか?ならお前……もう死ぬしかないぞ」
上空から見下すように椿がソルセルリーを見ている。
期待外れ、失望感にまみれたその瞳を見て、ソルセルリーのストレスは限界まで上昇する。
「安心しろ。俺とお前の圧倒的な差はその魔力容量だ。幾ら"魔弾"を大量に発動できようと、お前のMPはたかだか知れている。俺の残りのMP全てを込めたこの技、この世の全てを塵に帰すこの技は……」
"絶空弾"
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