九つの試練~嫉妬の間~
現在椿は大いに混乱していた。
その理由はただ一つ。
「なにこれ」
目の前の人ひとりが普通に入れるくらいの扉の真ん中に、『ようこそいらっしゃいまし♪』と看板がつけられていたからだ。
さて、なぜ椿がこんなところにいるのかというと、理由は簡単。九つの試練を受けに来たのだ。
鬼人族の集落にある地下牢よりもさらに地下。
そこから不思議な気配がするので、玄武にお願いされて再築前に調査に来たのだ。
元々一週間くらいは時間がいると言ってあったので、ある程度攻略に時間がかかってもしょうがないとは思ったが、
「これはちょっと聞いてないかな」
リボーンと戦う時よりも緊張感を持って来たのに、いきなりのやる気を削がれた気分だ。
まぁ、入るけど。
椿は扉を開けて中に入る。
すると
『はぁーい!九つの試練にようこそ!ここはいわば~嫉妬の間~ってところかな?ここではレベル1からレベル10まで別れていて、それぞれのレベル事に出てくるモンスターが違うから、そのモンスターを全員倒して来てね!』
かなり広い空洞に出て、脳内にそんなコミカルな声が聞こえてきた。
「ほんと、なにこれ」
だが、試練は試練だ。心して挑まねば。
そう思って魔力を練り始め、
『じゃあ、レベル1はっじめっるよー♪』
大空洞の中に大量のモンスターが召喚された。
「……はぁ?」
とりあえず体力と魔力温存用に、上級の範囲氷結魔法で全員倒してみると、
『おめでとう!レベル1クリアだよー☆次はレベル2!しっかりと休憩を取ってから挑んでね♪入口は奥に扉を用意しておいたよ♡』
だんだんこの声がうざくなってきた。
とりあえずMP回復の暇があるとわかったので、
「次からはもっとちゃんと戦うか」
レベル10にもなれば、きっと強力なモンスターが出てくるから。
そうして、椿はレベル2に進んだ。
レベル2では剣を用いて倒そうとしたが、
「こいつら、物理防御高!?」
椿が斬りかかる時、レベル2に生息しているモンスターたちは、体をありえないくらい硬化して確実に椿の攻撃から身を守ってくる。
"身体硬化"とはまた別。
「どちらにせよ、見たことない能力だな」
そう思った椿は剣での攻撃を諦め、レベル1同様、氷結魔法を用いて適当に凍らせて終わらせた。
そうして難なくレベル2を突破したのだが、
「……あれ?もしや氷結魔法だけでこれ突破できる?」
と、思っていたのだが、
「レベル3で魔法分解はダメだろ!」
つまりそういうことだ。
レベル3に入ってすぐに氷結魔法をブッパしたのだが、発生した氷を全モンスターが分解してしまった。
「くそっ。"死を呼ぶ死神の嵐"!」
最上級の風魔法で一度モンスターを全て錯乱させる。
それでも残ったモンスターたちは、風を分解して対処しているが、
「"滅亡の光"」
広範囲に光属性の光線を放ち、風に対処しているモンスターを確実に倒す。
それにしても
「レベル2とレベル3のモンスターはどっちも俺が見たことない能力を使ってるな……」
レベル1は瞬殺したので見れなかったが、もしかしたら
「ここの試練は初見の能力にも対応出来るかどうかの試練か?」
まあそれはレベル4に行ったらわかる事だ。
MPをある程度回復させると椿はレベル4に足を踏み入れた。
『それでは!レベル4はっじめっるよー♪』
そうしてレベル4のモンスターが登場した。
「次は亀のモンスターかよ。"獄炎"」
とりあえず出会い頭の魔法を放ったが、椿の魔法は亀に食べられてしまった。
「……魔法捕食?」
すると、椿の魔法を食べた亀が椿に向かって口を開けると、口の中から魔力の光線が飛び出してきた。
「"天蓋"っと。この光線は……魔法じゃないな。俺の魔法に内蔵されたMPをそのまま魔力体として吐き出してるってことか……」
やがて亀が吐き終わると、その瞬間に新たに雷の球が亀に向かって飛んできた。
亀がそれをすぐさま食べると、
「食事中は、他の物は食べれないよな?"獄光"」
光の球が亀の体を包み込んで、
「これでようやく一体」
一体の亀が倒されたことで、他の亀たちが椿を見ていた。
「食べるなら、逆に喰らってみようか。"果てなき深淵"」
リボーンに放った闇属性魔法を、今度は亀に向かって放つ。
亀は"果てなき深淵"を食べようとしていたが、食べても食べても際限なく溢れ出る深淵に、遂に亀の方が蝕まれてしまった。
「これで、レベル4も終了っと」
そこからゆっくりながらも椿は確実に先に進んだ。
レベル5は平衡感覚を狂わせる能力を持つモンスター。
ちなみに無効化した。
レベル6はやたら防御力が高くて、しかも触れたらMPを吸収してくるモンスター。
そんなもの関係なく遠距離から最上級魔法放ちまくった。
レベル7はこちらの動きを予想して攻撃を避けてくるモンスター。
避けられる場所を無くして倒した。
レベル8は周囲一体に睡魔を催す霧を発射するモンスター。
不眠不休あるからそもそも効かなかった。
レベル9はボスが1人いて、そいつが周囲のモンスターを魔力を用いて変質させて、操る能力を持ってた。
鑑定でその能力見て、その能力の理屈がわかったので、操られてるモンスターを奪ってそいつらにボスを倒させた。
そして、遂に次がレベル10。つまり最後の部屋だ。
今のところ、サクサク進んでるように見えるが、実は休憩時間も結構取ってるし、戦闘時間も余裕そうに見えて時間がかかっている。
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか」
そうしてレベル10の部屋に入ると、大きな蛇がいた。
「成程、蛇の方だったか……」
大きな蛇は椿に向かって威嚇をした。
「うーん。頭が八つ。八岐大蛇ってところか?」
そうして椿は手始めに"極滅の業火"を放ってみると、八岐大蛇の体が淡く光って"極滅の業火"の威力を半分以下に落としてしまった。
「ん?魔法吸収?いや、魔力鬱散か?面倒臭い体だな」
すると、椿の言葉を理解したのかはわからないが、八岐大蛇は椿に向かって炎を吐き出した。
「ブレスか……あれ?八岐大蛇ってブレス吐くっけ?」
ささやかな疑問を抱きつつ、八岐大蛇に向かって物理的に見えない魔法を準備する。
「"隠蔽者"×"獄炎"」
視認することが不可能な炎魔法を放って、見事八岐大蛇に傷をつけるが、
「……自動再生か?いや、頭部の一つが回復役か…」
と、そんな事を考えていると、椿をじっと見つめてくる頭がある事に気がついた。
その頭を椿もじっと見つめると、頭の中に映像が流れ込んできた。
「!?チッ!バッドステータス系の能力まで備わってんのかよこの大蛇は!」
頭の中に流れ込んできた映像。それはエミリーが死に、花恋やリーリエを助けようとする目の前で殺される光景。その他にも親しくなった人たちが無惨に殺される光景が頭の中に浮かんだ。
「ったく。本当に厄介だよ試練ってのは……」
そう言って椿は不敵な笑みを浮かべると……
「じゃ、返すぞ八岐大蛇。"白昼夢"」
八つの首全てに同時に魔法をかける。
この魔法は幸せな光景を見せて、体の動きを奪う、先程八岐大蛇がしてきた攻撃の真逆の攻撃だ。だが、
「希望の後には絶望がないとな!"絶対的悪夢ナイトメア"」
その直後、八岐大蛇の首全てが我武者羅に暴れだした。
当たり前だ。先程まで幸福な光景が浮かんでいたのに、それが急に絶望に変わったのだから。
「じゃあな蛇ども」
そう言いながら椿が指をパチンっと鳴らすと、山田さんの首全てが落とされた。
「さてさて、これで攻略だとは思うけど……」
最後に出てきた扉を潜ると
『嫉妬の間の試練合格おめでとう。攻略者君。僕の名前はバンボラ。短い時間だと思うが、よろしく頼むよ』
やっぱりいた。バンボラ
「よろしく。っでところであの妙にウザイ説明とか念話何?嫌がらせ?」
『……最初に僕に聞くことがそれかい?もっと無いのかい?嫉妬の間ってなに?とかバンボラってどういう存在?とか』
「いや、九つの試練のことは知ってるし。二つ攻略済みだから。あと、バンボラのことを聞いても答えてくれないことぐらい知ってるよ。他の二人がそうだったし」
椿が攻略者であることを明かすと、バンボラは目に見えて面白くなさそうな表情をした。表情豊かだなこのゴーレム。
『なんだ、もう知ってたのか……。ああ、あの妙にウザイのは深夜テンションで作った悪ふざけだよ』
「悪ふざけであんなもん作るな」
そうして、バンボラはつまらなそうな動作で魔法陣を展開すると宝玉を取り出して椿に投げ渡した。
「いや、宝玉の扱い雑だな。バンボラってこんなにも違うのか……」
『まあバンボラも一つの生命だからね。体が違えばもちろん色々変わるものもあるさ。それより今君が受け取ったのが嫉妬の宝玉さ。能力はありとあらゆる能力の創造』
能力の創造、か。
『ここの試練は受けるものにとって見たことの無い能力を持つモンスターを創造して出現させる仕組みだ。そして、初見の能力に対する厄介さ、そして、誰も知らない能力が欲しいという渇望。その集大成が嫉妬の能力なのさ』
バンボラはそれだけ言うと、奥に引っ込んでしまった。
もう、帰れということだろうか。
なんとまぁ、
「愛想のないことで」
椿はもう帰ることにした。
ちなみに帰還用の魔法陣は出して貰えなかったので、自力で転移して脱出した。
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