陰キャなのに異世界召喚!?まじですか
教室が光に包まれ、咄嗟に目を閉じた椿。
感覚的に光が収まったと感じとり、ゆっくりと目を開くと、見たことの無い場所にいた。
椿は周囲を呆然と見渡すと、あの瞬間、クラスにいた椿を含めた10人の学生が椿同様、呆然としていた。
周囲のクラスメイトは突然光りだしたかと思えば、目を開けると自分たちが先程までいた教室ではなく、見たこともないような場所なのだ。動揺してと仕方がない。
だが、椿はそんなことよりも周りの様子が気になった。
まず自分たちが座っている地面。その地面には注視しなければわからないほど薄らと光っている魔法陣。
そしてその魔法陣の内側に自分たちがいる。
そして魔法陣の外側、魔法陣の周りにはコスプレ見たいな服を着て地面には倒れて動けない人や、肩で息をしながら地面に座り込んでいる人がいた。
倒れている人が全体の八割程度だろうか。
そして見たこともない場所、というよりは地球では基本的に見ない部屋の中であるこの部屋には出入口である扉がひとつしかない。
しかも椿の座っている場所はその扉から最も遠い場所。
魔法陣の外の人間の八割が倒れていると言っても、残りは二割も残っている。
全員が肩で息をしていて、顔が見るからにしんどそうで、どう見ても満身創痍でも、それでも何かしらの対策はしていることだろう。
魔法陣の上に乗っていたクラスメイトたちが少し落ち着きを取り戻し始めたタイミングで、この部屋唯一の扉が静かに開いた。
そこからでてきた人物は見た目は四十代後半だろうが、得体の知れない威圧感があった。
そしてその人物は魔法陣の上に乗っている椿たちを見渡してから、深みのある、落ち着いた声で椿たちに話しかけた。
「よく来てくれた。救国の勇者とその同郷の者たちよ。私はエスポワール王国の現国王、ユスティーツ・S・エスポワールという。歓迎するぞ、勇者一行よ」
□■
ユスティーツという人物に挨拶された後、椿たちは魔法陣のあった部屋から解放されて、現在はお城の玉座の間に案内された。
ちなみに魔法陣のあった部屋は城の地下にあった。
玉座の間に入った椿たちは現在お城のメイドさんが用意してくれた椅子に座っている。
ユスティーツは全員が椅子に座ったことを確認すると、自身も玉座に座り、説明を始めた。
曰く、この世界は椿たちが住んでいた世界と違う世界であるということ。
曰く、この世界では昔から人間族と魔王が率いる悪魔族が戦争をしているということ。
曰く、最近までは何とか均衡を保っていたところ、最近になって魔王軍が本腰を入れだし、人間族を滅ぼしにかかっていること。
曰く、人間族の崩壊を天界に住まう天使族の頂点、神様が感じ取ったとのこと。
曰く、人間族に魔王軍への対抗策、切り札とするために異世界から強力な力を持った人間を召喚する術式を授けると神託が来たとのこと。
曰く、その術式自体は違う国に授けられたものの、扱うために必要な魔力と術者が足りなかったとのこと。
曰く、この世界で最も広大な領土を誇るエスポワール王国ならばそれらの問題を解決できるだろうとのこと。
そして術式を授かったエスポワール王国は宮廷魔術師をはじめとした魔法騎士団を集め、全員で召喚を始めたものの、扱う魔力が膨大すぎて勇者の周囲の人間までついでに召喚してしまい、その代償として300人ほどいた魔法騎士団も今では40人程しか残っていないとのことだ。
そこまで黙って話しを聞いていた椿たちだが、ここまで来てついに質問をするために手を挙げるものが出た。
「すみません、ユスティーツ殿。質問はよろしいですか?」
高円寺 光だ。
「うむ。私に答えられることならなんでも答えよう」
「わかりました。そもそも神に力を借りたとはいえ、これはれっきとした誘拐です。国王として、そこら辺はどうお考えでしょうか?」
光のご最もな意見に少し目を瞑ると
「耳が痛い限りだ。我々の世界の都合とはいえ、異世界の住民に迷惑をかけておるのだからな。とはいえ、我々も神ブジャルドによって異世界へ干渉する魔法を授けられた。しかもそれは呼び出すのみで送り返すことの出来ぬ一方通行の魔法であり、現状我々に異世界に干渉する術は無いということだ」
そのユスティーツの言葉に椿と光以外は動揺した。
椿はラノベや漫画も嗜んでおり、こういう展開も予想していた。
予想していた椿からすると、ユスティーツがかなり友好的なことが僥倖であるとも思っている。
動揺が拡がりつつあるクラスメイト達を一瞥すると、
「しかし、そちらの者が言っていたとおり、誘拐であることは間違えようのない事実。こちらの都合で一方的に呼び出してしまったことは申し訳なく思っている。代わりと言ってはなんだが、勇者一行の生活は我々王族が保証しよう。それに戦うためとはいえ、一方的に呼び出してしまったのだ。拒むものには戦闘の訓練は無理強いはせん。ただしこの世界で生き抜くために、最低限自衛の術は学んでほしいとは思っている。そしてエスポワール王国は勇者一行の帰還に協力し、帰還の術が見つかりしだい、引き止めることはせず、静かに見送る。これでよいか?」
「はい。寛大なご配慮に感謝します」
「なに。元はと言えばお主らの許可も取らずに強制的に召喚したこちらの落ち度でもある。誰が戦闘訓練に参加するかは後ほど聞こう。私は席を外す。仲間と一緒にこの先どうしようか話し合うと良い。夕食の準備が完了し次第、誰かに呼びに来させようと」
そういうと、ユスティーツは玉座の間から出ていった。
玉座の間には現在椿たちクラスメイトだけが残っていた。
その数10名。
随分な高待遇だなと椿は思った。
椿が見た事のある異世界物でのこういった展開では、だいたい王は無理やり従わせようとするか、内心を隠した状態でいい方向に進めるかだ。
だけど椿の拙い観察眼では少なくともユスティーツは嘘を言っていないと判断した。
まあ油断したところを後ろからプスッとする可能性も否定は出来ないが。
「それで?どうするんだ光」
光にそう質問したのは光の友人八旗 平一だ。
どうやら光とは昔からの友人で、見た目は筋肉ゴリラと言った感じだ。
ちなみに平一は見た目通りの脳筋ではなく、意外と考えたりする。
テストでは毎回学年でも真ん中から少ししたくらいらしい。
「そうだな。まずはみんなの意見を聞きたいんだけど」
「意見、つうことは」
「ああ。戦争に参加するか否か」
戦争に参加するのかそれともしないのか。
椿は迷うことまでもなく参加しないことを選ぶ。
「俺としてはみんなに無理強いをしたくない。だから俺の意見は最後に言う」
「おいおい。それなんか狡くねえか?」
平一がそう言った瞬間
「いや、賢明な判断だと思う」
椿は思わずそう口にしてしまった。
みんなの視線が椿に向いたのを見て、椿は思わず黙ってしまったが
「みんな、上里くんにそんなに注目しては彼も喋りにくいだろう。上里くんは内気な性格だから。それで、どうしてそう思ったんだい?」
光の言葉でなんとか冷静に話せるようになった椿はゆっくりと口を開いていく。
「高円寺くんが最後に意見を言うって言ったことだけど、まず、僕たち日本人は他の国の人達に比べて他人の言動に流されやすい傾向があるみたいなんだ。そしてこの中での実質的なリーダーは高円寺くんだから、高円寺くんがもし仮に戦争への参戦の意志を最初に伝えると、みんなの頭では、戦争に参加しないでおこうと思っていたけど、高円寺くんが参加するなら参加しようかな、って思考になると思ったから。だから高円寺くんが最後に言うのは全体的にもいいことだと、そう思っただけ」
椿が自分の意見を述べると、光を除いた八名は改めて考え出した。
今の話の議題。
戦争に参加するかどうか。
と、そこでクラスメイトの宇都宮 翔が手を挙げた。
「?どうしたんだ宇都宮」
「率直に言うと、俺は返事はもう少し後でもいいと思っている」
「返事を先延ばしにするのか?」
「ああ。そうだ」
翔のその言葉に何人かは驚いていたみたいだけど。
「俺も理由もなしに返事を先延ばしにしようと言った訳では無い」
「じゃあ教えてくれ。その理由とやらを」
「もちろんだ。まず、俺はそれを決めるのはもう少し情報が集まってからの方がいいと思っている」
「?情報ならさっきユスティーツさんが色々と……」
「それはこの世界の情報であり、俺たちの現状の情報では無い」
そう。翔の言う通り、自分たちの現在の情報はほとんどない。
「俺たちの、情報?」
「ああ。俺もそこまで詳しくは無いが、すていたすやら、すきるといった類のものが与えられると聞いている。とくに相手方から召喚された人達は強い力をもって」
「……宇都宮って異世界ものに詳しかったんだね」
「実は、兄が創作物がかなり好きでな。もし異世界に行ったら、と色々教えこまれてたんだ。こんなところで活躍するとは思わなかったが、な。人生、なにがあるかわかったものじゃないな」
翔はそう言って笑っていた。
椿は翔の意見も交えて考えてる。
創作物ではチートな能力と強力な仲間がいればどんな困難にも打ち勝てる!みたいに書いてあるが、ここは現実。
チートな能力があっても何が起こるのかわからないのが現実だ。
自身の能力が明らかになっても安易に戦争には参加しない方がいいだろう。
とりあえず椿たちの結論としては返事は先延ばしにして、3日後には答えを出すと言っておいた。
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