第二話 仕事は命がけ

ん?…ここぉ何処だ?目が覚めると薄暗く埃の溜まった廃病の病室?にいた。髪の毛から血のような物がぽたぽたと床に滴り、体は壁に凭れかかり思うように動かなかった。そして右手には何故か折れた刀を持っていた。何で折れてんだ?というか何故…刀?


そもそも、何で俺はこんなボロい病院なんかにいるんだ?体はちょっとやそっとじゃ壊れる程弱くは無いし、何か重い病気になった覚えも無い。とにかく状況を整理する為に辺りを見渡した。すると壁に大きな穴ほごが開いていた。成人男性一人ぐらいなら余裕で入れるようなデカい穴。あれ?あの穴ぁ?確か俺が…。


「くっ、来るなぁ!悪魔ぁ!」

「いいじゃんよぉ。八月朔日ほずみちゃんよぉー俺たちぃ、親友だろぉ?」

ん?誰だ?状況整理の最中に隣の部屋の方から声がした。


聞き覚えがあるようなないような。穴が開いてる部屋の方からか?激痛が走る中立ち上がり、声がする方へと行くと部屋の角で見覚え?のある中学生くらいの少年が、少女を抱き抱えて、歩み寄る男?に怯え、ナイフを突きつけているのが、朧げながら見えた。


「おーぃ、痛っ!」掌を少年に向けて呼びかけようとすると手の先から腕全体にかけて激痛が走った。よく見ると手首が完全に折れており、腕は血で染まっていた。痛みには強い為あまり辛くは無いが、折れてぶら下がった手首は少しグロテスクだった。


「おい!悪魔!」

「あ゙ぁ?」折れた原因であろう男に、残りの体力を出し切る勢いで呼びかけると、こちらに振り返り鋭い目つきで睨みつけてきた。


ん?悪魔?何故か悪魔という言葉が咄嗟に口からこぼれた。「少し待ってくれ」

「はぁ」

「すぅ…はぁー」両腕を限界まで上に伸ばしながら息を吸い、思いっきり上げた腕をゆっくり下ろしながら息を吐いた。いつも焦りや不安は大きく息を吸い落ち着く事が大事。叔母に毎日のように言われてきた事が久々に役に立った気がした。

「…終わった?」

「まだだ」

「はぁ」


悪魔は目線を地に向け、深くため息を吐いた


深呼吸のおかげか何となくだが、此処で起きた事を思い出してきた。「おい、八月朔日ほずみ無事か?」

「は、はい!」

「あぁ。悪い、姉ちゃんの方だ」

「は、はい。血は止まったと思いますが、かなり顔色が悪いです」

「そうか…分かった。すぐ終わらせるから、ちょっと待ってろ」


「黒瀬君、まだかなぁ‼︎」

八月朔日との話を終えると待たされている事に苛立ち始め床を強く蹴り始める悪魔。


「あぁ、悪い。なぁ悪魔」

「あぁ?」

「俺殺してもいいから、あの子たちだけでも見逃してくれない?」

「うーん…駄目。…ていうか、死にかけの死に損ないに選択権は無いと思うんだけどぉ?」

「いや、まぁそうなんだけどさ」

目を大きく見開き笑いながら、答え、交渉はあっさり断られた。


意識は霞始め、左腕から流れる血は未だ止まる事なく指先へと流れ続けていた。呼吸も少しずつ荒くなっていく。本当に勝てんのか?もし負けたら…。そんな不安が頭をよぎった。だが子供二人を抱えて逃げる程の体力も残っていないし、結局は戦う羽目になる。


なら此処でやるしかない。そう心に言い聞かせた。折れた刀を強く握りしめ、ニヤけている悪魔を強く睨めつけた。



「おいおい、そんな睨むなよぉー怖いなぁ。もしかしてまだやんの?そんなボロボロな体でよぉ。別にお前だけなら見逃してやるよぉ?黒瀬ちゃぁん」

「無駄話はいいから早くかかってこいよ。さっさとしねぇと診療時間が過ぎるだろうが」

「分かったよ。本当は殺っちゃいけねぇ約束だけどよぉ、まぁ仕方無いよなぁ?黒瀬君よぉー死んでもよぉ俺の前に、出て来んなよ!!」


言い終えると、瞬く間に、腰を低く下げ、尖った爪を前に突き出し飛び掛かってきた。

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