ただの面接

@1GIFT

第1話 天海 雫

 私の名前は「ナナ」、本名ではない。

 性別は女、年齢は……まあ大人ではあるがまだまだ若いと言えるくらいだ。

 身長は160後半くらい、スタイルは悪くないほうだと思う。

 白髪はくはつのショートヘアに真紅しんくの赤い目をしている、私の唯一のコンプレックスだ。

 服装は三つ揃えのブラック、仕事柄身だしなみには気を遣うようにしている。

 そんな私はとある場所で面接管として働いている。

 私に任されている仕事はただ一つ。

 ここに訪れたものを面接すること。

 そこに私の意思はない、必要ではない。

 なぜならそれが私の仕事だから。


「さて、はじめるか」


 私はネクタイを締めなおし、えりを正し、

 目の前の白い扉の中へと入っていった。

 部屋の中は暗闇が広がっていて、先ほどの扉と同じ色をした白い机と椅子が鏡合わせに並んでいる。

 私は近くにある椅子に座り書類とペンを置く。

 両手の人差し指で頬を持ち上げ笑顔を作り、調で声を出す。


「どうぞ、お入り下さ~い」

 

 そうして待つこと数秒、ゆっくりと扉が開かれた。


「失礼します」

 

 入ってきた人物を見て思わず笑みを浮かべる。

 だってその人はとても可愛らしい少女だったから。

 髪の色は黒くつややかに輝き、肌は雪のように白く滑らかだ。


「初めまして、どうぞ座って」

 

 私が手を差し出すと彼女は少し躊躇ちゅうちょした様子を見せた後、私の前にあるもう一つの椅子に腰かけた。

 その動作一つ一つが美しく、まるで芸術品のような雰囲気をかもし出している。


「これからあなたにいくつか質問をしていくね、答えたくなかったら無理して答えなくてもいいよ」


 そういうと少女は首を横に振り、「大丈夫です」と答えた。


「ありがとう。じゃあまず名前を教えてくれるかな?」

「はい、名前は天海あまみ しずくと言います」

「雫さんね、じゃあ次に性別と年齢を教えてください」

「えっと……女で年齢は14歳です」

「そっかぁ、女の子なんだねぇ」

「あの……もしかして私何か変なところありましたか? 服装とか髪型とか……」


 心配そうに自分の姿を確認する彼女に慌てて声をかける。


「ううん、全然そんな事ないよ。ただ君があまりにも可愛いからちょっとびっくりしただけだよ」


 それを聞いた彼女は顔を赤らめ、下を向いてしまった。

 可愛らしいな。

 私が小さかった頃より2……いや10倍は可愛いな、くそ。


「次は趣味について教えてくれるかな?」

「趣味は読書ですね、あと最近は料理にも興味が出てきました」

「へぇ~そうなんだ、今度是非作っているところを見せてほしいな」

「はい! ぜひ!」


 嬉しそうに笑う彼女を見ながら次の質問をする。


「何か特技ってあるかな?」

「特技は家事全般です、特に掃除が得意でお母さんからも褒められたことがあります」

「すごいね、将来は良い奥さんになれそうだ」

「あ、ありがとうございます……」


 ……可愛すぎん?

 恥ずかしそうにする彼女の頭をでたい衝動を抑えながら次の質問をする。


「あなたの功績を教えてくれるかな?」

「功績ですか……」


 彼女は少し悩み、やがて口を開いた。


「それなら学校の成績が一番良かったことですかね」

「へぇ、勉強が好きなのかな?」

「いえ、好きというわけではありません。ただ、成績が良いことは周りから認められやすいじゃないですか。だから頑張っていただけです」

「ふむ、なるほど」


 ここまでは順調に進んでいるな。

 彼女との会話も楽しいし、今日も何事もなく無事に仕事を――。


 ぐしゃ


 心臓が潰れた。

 そう思った時に、自分の心音が異常なほど大きくなっていることに気が付く。

 よかった、ある。

 あたり前なことなのに安心している自分がいた。

 手汗のせいでペンが持ちずらい。

 それともこれは力が入らなくなってきているから?

 そうだワタシは――。


「……面接官さん?」


 目の前にいる少女の声によって我に返る。

 彼女に目を向けると心配そうにこちらを見ていた。

 今は面接中。

 ……仕事をしなくては。


「いや~突然ごめんね。こんな質問見たことなかったから」


 平然を装ってみたが、どうやら彼女にはバレバレらしい。

 ……なんだか申し訳ないな。

 面接の支障にならなければいいけど。


「それじゃあ、質問するね」


 私は深呼吸をして、その質問を彼女にした。


「今の日常に何か、はない?」

「えっ」


 私は彼女の答えを静かに待った。

 今までとは違う質問に驚いていた彼女だったが、少しした後にニコッと微笑む。


「ないです。毎日楽しく過ごせて幸せですよ」


 その笑顔はとても眩しく、美しいものだった。


「そっか」


 思わず笑みを浮かべてしまう。

 きっと彼女はこの世界に絶望なんてしていないのだろう。

 そんな彼女を、私は少しうらやましく思ってしまった。


「ありがとう、これで終わりだよ」

「はい、失礼します」


 彼女は丁寧に頭を下げた後、扉から出て行った。

 私は椅子に深く座り込み、天井を見上げる。


「はぁ……」


 ため息がこぼれてしまう。

 これで今日の仕事は終わった。

 まあ、明日になれば今日と同じような一日が始まるが。


「……」


 机の上に置いてある書類に目をやる。

 そこには今日の履歴書が置いてあった。

 名前、性別、年齢、趣味、特技、そして質問への答え。


「天海 雫、ね」


 先ほどの少女の名前を呟く。

 彼女はこの世界のことをどう思って生きているのだろうか。

 私がこの世界に疑問を持ったのはいつだったかな。

 多分あの時だ。

 そう、私がここに来ることになったあの日。

 あの日から私の人生は狂いだしたのだ。

 ……私は面接官。

 ここに来た人物の人生を知り、書類を提出する。

 何の為に、どんな意味があって。

 私は知らない、知る必要がない。

 ……知ることができない。

 それが私の仕事だ。

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