第2話
彼女は馬車が村から見えなくなった瞬間、村のみんなに急いで地面から起こされ、何処かへ手を引かれて歩いて行った。
その時に見えた足や腕にいくつもの傷跡があった。鞭で打たれたかのような傷だけじゃない、火傷の跡のような傷もあった。
俺が呑気にこの村で過ごしてきた間に、どれだけ彼女が傷ついてきたのか、どれだけ守れなかったのかが感じられて自身が許せなく、嫌になる。
彼女と違って、俺は村長についていくように指示される。俺はその指示に従い、村長の家の中へと入った。
村長の家の中で、村長は俺に頭を下げた。深く深く、申し訳なさそうにしながら。決して村長のせいではないのに、村長は彼女が傷ついていることを俺に謝っていた。
村長は謝り終わった後、未だ握りしめていた俺の手を開いて、あまりに強く握りしめていたせいで、爪が刺さったのか、皮膚が破れて血が出ているところの手当を丁寧にしてくれた。
「こんな怪我をしているところを見られたら、悲しまれますよ」
「……俺の身体は傷だらけですから」
「何もかも、あなた達に謝らないといけないことばかりね」
村長は悲しそうな顔をして笑った。
村長がそんな顔をする必要はないのに。
「謝らないで下さい。両親がいなくなった後、俺をここまで育ててくれたのは村長じゃないですか」
「でも、それでも、あなた達に厳しい道を選ばせたのは私だからね」
村長、前村長の娘で現村長は、俺達にもよくしてくれた。
彼女が連れて行かされそうになっている時に父親共々、国の兵士を止めようとしてくれた。
村長は彼女も俺も、身分なんか関係なく、弟妹のように可愛がってくれた。
いつも姉のように面倒を見て、褒めて、叱ってくれた。
優しく見守ってくれていたのは、彼女だ。
俺が村を出て行き、心身ともに傷ついて帰ってきた時も、見るもの全てが怯える色を見ても、彼女だけは変わらず、丁寧に、姉のように接してくれた。
彼女が昔と変わらない態度で俺と接してくれたから、俺もこの村に再び溶け込めたし、村の皆も俺を恐怖ではなく、敬愛と友愛の目で見てくれるようになったのだ。
村長は、手当てが終わった俺の手を優しく包み込んで、真剣な顔で俺の目を、忌み嫌われ恐怖の代名詞となっている俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「ヒューズ、ミアを頼みます」
「言われなくとも、そうします」
彼女の両親も俺の両親も、彼女が村を離れてから亡くなってしまった。彼女に一番近しい人間は俺だけになっているから、そうじゃなくても、俺はきっと彼女の面倒を見る。
「費用なら気にしないで。いくらでも出すわ」
「……はい。ありがとうございます」
村長の家から出た俺は、彼女が連れて行かれた場所を聞き、その家に向かって走った。
彼女と共に、彼女が知っている村人がいるらしいが、きっと不安だろうから。
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