第70話 真凜は葉山翔太の妹である

 氷の女王を彷彿とさせる面持ちで放たれ環奈の言葉に横になっている真凜は一瞬顰めっ面を作ったが、手品師ばりにものすごいスピードでまた悲しい表情に変えた。


「何を言ってるの?私、こんなに心が痛いのに、騙すなんて……」

「真凜、そういうところよ」

「っ!!」


 顔色一つ変えずに鋭い眼光を向けている環奈に、さしもの真凜といえども、当惑の色を見せているようだ。


「ずっとそうやって狡賢く欲しいものを手に入れては捨て、手に入れては捨ててきたでしょ?」

「……」

「それに、私は別に真凜から樹を奪った覚えはないの」

「何言って……」


 唇を震わせて環奈の綺麗な青い瞳を直視出来ずに天井を見上げる真凜。


 環奈は自分の手を真凜の頬に当てて無理くり自分を見るように仕向ける。


「別に付き合ってたわけでもないでしょ。樹に無理矢理犯されたわけでもないのに、被害者面しないで」

「っ!違うの!私は無理矢理……」


「本当に?」

「……」

「私は幼い頃から真凜を見てきての。だから本当のことを言う時の真凜の顔と嘘をつく時の真凜の顔をよく知っているわ。あなたはちゃっかりしている。好きでもない男に処女を奪われるような女の子じゃいの」

「っ……」

「真凜がしたわよね?」


 環奈は手にさらなる力を入れ、真凜の頬がより圧迫された。真凜はというと、環奈の表情があまりにも真剣過ぎて瞳を動かしなるべく彼女と目を合わせないようにしていた。


 だが、


「えいっ!」

「っ!」


 真凜は全力で身体を振って環奈の捕縛から抜け出した。


 ちょうど、横になっている真凜の股間と環奈の股間がくっついたところで、真凜は急に顔色を変えて口を開いた。


「樹っちが襲ったの!私があまりにも魅力的だから!環奈ちゃんより私の方が綺麗で可愛いから樹っち、我慢できなくて私の身体を心ゆくまで堪能したの!!私は全然したいと思わなかったのに、樹っちが私の口に舌を入れて、強引にやったの!」


 捲し立てる真凜の表情は実に醜かった。


 俺は、真凜という女の子のことを全然理解できていなかった。

 

 ただ、気さくでサバサバしていて、結構いい感じのギャルだと思っていた。だが、彼女の言動を見て、


 俺は思うのだ。



 

 

 真凜は





 葉山翔太の実の妹だと。


 やはり血は争えない。


 おそらく、俺と真凜二人きりだったら、絶対してやられて操り人形と化しただろう。


 転生前の俺は間違いなく大人だったが、この世界は決して俺に甘くない世界である。


 エロ漫画には出てこない複雑すぎる人間関係を俺は見落としていた。


 だが、


 環奈のおかげで窮地から脱することはできそうだ。


 こういう場面は、女性の意見が受け入れられやすい。だから、環奈の言葉が持つ力は相当強いと言えよう。


「出ていけ……」

「え?」

「真凜……今すぐここから出ていけ!私、見損なったわ。真凜そういう子だったなんて……」


 と、環奈は立ち上がってソファの隣にある紙袋(真凜のモノ)を手に持ちそれを真凜に押し付けて彼女の腕を引っ張る。その弾みに紙袋からが落ちた。


「な、何やってるの!ちょっと!環奈ちゃん!ここは樹っちの家よ!何勝手に追い出そうとしてるの!」

「うるさい!樹に二度と近づくな!」


 だが、真凜の抵抗はなかなか手強かった。


 環奈に阻止されながらも、視線はずっと俺に向けられている。


 なので、俺は

 

 深く息を吸ってから口を開く。



「真凜、俺の家から出て行ってくれ。お前は冷静な状態じゃないんだ」

「えっ!?」


 俺の言葉を聞いて真凜は固まる。環奈は訪れてきたチャンスを逃すまいと、真凜の腕を思いっきり引っ張って立たせた。そして、彼女の背中を押して、玄関まで行って、真凜を追い出してからそのままドアを閉めて鍵をかけた。

 

 心配になり、俺もついていった。


 環奈は息を弾ませて後ろにいる俺を切なく見つめている。


「……環奈。悪い。全部俺のせいだ」

「全部じゃないの。私にも非がある」

「いや、環奈は悪くない。むしろ、俺、環奈に迷惑ばかりかけてきたし」

「ううん。これまでずっと中途半端な態度をとってきた私も悪いの。前にも言ったけど、私がもっと早く樹に想いを伝えていれば……」

「環奈……」

「樹……来て」


 環奈は両手を広げて俺の全部を受け入れる準備をしていた。なので、俺は迷いなく環奈のいる玄関の方へ足早に行き、環奈の胸に俺を頭を埋めた。


「やっぱり、私、樹がいないとだめなの。お母さんもそうだし……だから絶対離さないから」

「ああ。俺も環奈たちが必要だ。俺の人生の中で環奈はかけがえの無い大切な存在だよ」

「っ……」


 環奈は少し身体を震わせたが、豊満な胸が優しく震えを吸収し、俺に心地よい感触を与える。そんな極上の触り心地を堪能していると、環奈は俺の頭に腕を回して囁く。


「ねえ、続きしよう」

「え?やるの?」

「……私、樹が欲しいの。の樹が」

「……大丈夫か?」

「私は大丈夫よ。樹こそ大丈夫?」

「ああ。環奈のおかげでもう寂しくない」

「ふふっ、私が全部受け止めるから」


 俺たちは見つめ合って、互いの唇を貪り合ってから





 の姿で激しく求め合った。



X X X


真凜side



「クッソ……クソクソクソ!!!!」


 電柱を蹴って悔しそうに息を荒げる真凜。住宅街であるため、人こそ少ないが、彼女の行動は非常に目立つ。


 彼女は悔しがっており、怒ってもいる。


 一体何に対する怒りと悔しさなのだろうか。


 樹を手に入れられなかったことへの怒りか、


 それとも、





 自分のことを知り過ぎている環奈に勝てないことへの悔しさなのか。


 


 雁字搦めになった自分の心を覆っている大きな胸にそっと手を乗せた真凜はいつかの日に交わされた会話を思い出すのだった。


『何もしないときっと後悔するからね。私も、に彼女とか、好意を抱いている女の子がいても、アタックしまくって堕とすつもりよ』


 まだ仲良かった頃に一緒に行ったパフェ屋さんで真凜が環奈に放った言葉である。


 彼女はあの日の言葉を噛み締めるように、握り拳を作り、足を止めた。


 そして、小さくつぶやくのだ。





「奪ってやる……全部」









追記



コロナかかっちゃった!


もし、海外旅行中にかかったらマジでヤバかったと思いますね。


ポジティブシンキングは大事!


でも、熱あるしちょっとだるいかも



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