第49話 二人だけの秘密、真凜の過去
ラブホテル
俺と環奈は近くにあるラブホテルに赴いた。ここは以前俺と環さんが関係を持ったところでもある。
環奈は緊張した面持ちで俺の服の裾をぎゅっと握り込んでいた。
俺は料金を支払って、環奈の背中を優しく押しながら進んだ。やがて俺たちの部屋が見えてきたので、中に入る。
「……緊張しているのか?」
「……」
中に入った環奈は身震いしながら周囲を見渡した。
「無理しなくても良いから。嫌なら家に帰ってもいい」
俺は真面目な顔で言った。別に嘘をついているわけではない。そういうことを嫌がる相手に対しては、手を出さない。
「良いの。金払ってここまできたんだし」
「今は環奈のことだけを気にして。お金は二の次だ」
「……私、もう子供じゃないんだもん」
彼女の決意は揺るがなかった。
握り拳を作り、唇を噛み締め、俺に鋭い視線を向けてきたのだ。
なので、俺は彼女の頭を再び撫でてあげた。
すると、環奈は恥ずかしそうに口を開く。
「樹は、高校生なのに時々大人っぽいよね……」
「そうか?」
「う、うん。なんだか他の同級生たちと違って、話していると落ち着くというか」
「ならよかったな」
「……」
と、優しい表情の俺の言葉を聞いた環奈は俯いて俺の腕をつつく。
「やっぱり腕、すごいね」
「まあ、筋トレしたばかだし、いつもより硬いかもな」
「本当……昔の樹とは大違い……」
「ああ。キモデブだった頃の俺はもういないぞ。もう……いないから」
「ううん。あの頃の樹も今の樹も同じ近藤樹という男よ。さっきも言ったように、全部私が受け止めるから」
「環奈……」
「樹……」
ジムで既にシャワーを浴びた俺たちは、お互いに熱い視線を送り、距離を詰める。
俺の心を満たしてくれる言葉。
それをかけてくれた人は、環奈だけ。
そのことが嬉しくて、俺は環奈の頬を撫でてあげた。
柔らかすぎる感触に感嘆していたが、環奈は違うことを望んでいるような目をしていた。
なので、俺は力強く環奈を抱き上げて、そのままベッドまで行く。
この日の夜、
俺と環奈は
関係を持った。
最初は痛がっていたが、エロ漫画のメインヒロインという名に相応しく、後半になるにつれて、恐ろしいほどの動きで俺を満足させようとしていた。
まるで、誰にも渡さんと言わんばかりにずっと俺を目を見ながら行為に及んだ。
俺の顔、息遣い、体の動き、思考を全部自分の体に刻む勢いで俺を離してくれなかった。
ブラックホールに吸い込まれるかのように、俺は彼女に飲み込まれ、彼女は俺の色に染め上がった。
相性は、言うまでもなかろう。
気が狂うほど俺たちは互いを求め合った。
長時間に及ぶ行為が終わった後、俺たちは色んな話をした。
真凜のこと、葉山のこと、真斗のこと、ゴリラのこと、葉山と連んでるギャルたちのこと、三上のこと、立崎のこと、学のこと、啓介のこと、環さんのこと、俺の両親のこと……
あげたらキリがない。
意外と俺と環奈の間には共通の話題が多いんだなと思った。
そろそろ親が心配する時間帯になると、俺たちは本当に名残惜しそうに次いつ会うか、その日程を決めた。
そして、
俺と環奈は付き合うことにした。
もちろん、これが葉山や真凜や周りに知れ渡れば大事になりかねないから、あくまで高校を卒業するまで二人だけの秘密ということしておいた。
X X X
真凜side
真凜の部屋
真凜はベッドで横になったまま悔しそうに歯軋りをしている。だけど、樹には連絡をしていない。
まだ彼とは付き合っていない。
だから下手に動くと環奈に怪しまれて自分がより不利な状況に陥りかねないと思っているのだ。
そして、自分が重い女だと思われたくないから、大人の余裕?を見せるためでもある。
真凜はスマホを手に取って情報収集のためのネットサーフィンを開始した。
『男を喜ばせる方法』『恋愛テクニック』などなど……主に異性の心を掴む方法を中心に色々と調べる真凜。
絶対奪われたくない。
絶対私が手に入れてみせる。
絶対私が
全部奪う
どうして彼女はこういう性格になってしまったのか。
それは彼女の過去を知ればおそらく理由の発端を知ることができるのではなかろうか。
タイミングよく、真凜はしばし情報収集をしたのち、環奈と過ごした記憶を思い出す。
真凜と環奈は卒業した小学校と中学校が全部同じだ。なので昔は一緒にいる機会が多く、学校でもことあるごとに一緒に遊んだりもした。
だが……
『好きです!付き合ってください!』
『ごめんなさい。あまり興味ないから』
『そ、そんな!』
小学校でもっともイケている男からの告白をなんの躊躇いもなく断る環奈の姿を見て、最初の頃は憧れていた。
しかし、
『君、真凜ちゃんっていう子だね?神崎さんの幼馴染って聞いたんだけど、紹介してくれない?』
『神崎さんはどんな男が好き?』
『神崎さんの趣味は何?』
『神崎……』
小学生だった頃の真凜にとって環奈は踏み込めないオーラを漂わせる女の子だった。神々しい光を放つ女神のように、男の間からは恋愛対象、そして女の子からは憧れと嫉妬の対象。
そんな自分も環奈お姉ちゃんのような人になりたくて、真凜は努力をすることにした。他の女の子同様憧れと嫉妬の感情を抱きながら。
そうやって中学デビューし、メイクとか服に人一倍時間をかけ、自分を磨いてきた。すると、他の男に告白を結構されるようになった。
努力によって成し遂げた結果。
努力しなかった自分には興味を一切示してくれなかったのに、今の自分に対しては下心見え見えの状態で近づく男たち。
真凜は、そんな男たちを小馬鹿にして、もてあそんで、飽きたらタバコの吸い殻のようにポイッと捨てるように別れを告げた。
以前、環奈と真凜が仲違いする前に、環奈は真凜に対して『付き合ったとしても、ほとんど半月もいかなかったじゃん』と言ったことがある。中学校時代の真凜はまさしくそういう女の子だったのだ。
しかし、自分の心は満たされなかった。
そんな中、飲み物を忘れて、自販機に行ったとき男子たちの話を偶然聞いた。
『おい、E組の西山のやつの噂聞いた?』
『ああ、神崎さんに告白したけど、見事玉砕!』
『マジで神崎さんはハードル高すぎだろ。可愛いし、胸大きいし、すっげスタイルいいから』
『それに幼馴染の葉山ってやつもめっちゃ怖いしうざいんだよな』
『葉山か……あいつマジでくそだよ』
『ああ。噂によると、隣校の女子と付き合っているんだってよ!』
『なのに、神崎さんに告白してきた男子たちに暴言吐くのかよ』
と、真凜の興味を引くような話に耳は自ずと自販機の方に向いている。
『そういえば葉山ってやつ、妹いたよな』
『ああ。なんか、付き合ってすぐ別れるんだってよ』
『あの子もやっぱりハードル高いんだよな』
『神崎さんと葉山の妹、どっちが上?』
『愚問だな。神崎さんが断然上に決まってんじゃん!』
『だな。葉山の妹ってなんか背伸びしてるって感じだけど、神崎さんは別にオシャレしたわけでもないのに、雰囲気が違うんだよな〜』
『それな〜』
「……」
極めつけは
自分が好きだった先輩の話。
中学二年生の時、真凜には好きな先輩がいた。サッカー部のエース兼キャプテンで、試験の成績もいい優秀なイケメン先輩。
発育がいい真凜は、彼の心を掴むべく、色んな方法も用いて彼を堕とそうとした。
マネージャとして甘い言葉を囁いたり、こまめに連絡をしてデートに誘ったりと。ありとあらゆる手を尽くした。やがて噂も流れた。
だが、
『好きです!俺と付き合ってください!』
あの先輩は、自分じゃなく環奈の方を選んだ。
『あの……噂だと、真凜と付き合っているって聞きましたけど、なんで私に?』
『それは嘘です。それに、神崎さんの方が……もっとかわいいから』
『……ごめんなさい。私、恋愛とかに興味ありませんので』
「……」
心が張り裂けそうに痛かった。
環奈への憧れと怒り。それを必死に隠して真凜は笑顔を作り、幼馴染という関係を保ってきた。
違う高校に通うこととなり、真凜は以前のように環奈に対して醜い感情を抱くことは無くなった。なので、実の姉妹のように仲良く過ごした。
ようつべや雑誌などを見て、もっと自分を磨き上げて、学校では一二を争う美少女として認識されるようになったし、男たちからものすごく告白を受けるようになったからである。メイド喫茶店でも、自分は脚光を浴びている人気メイドだ。
だが、男をジャグラーばりに手球に取り、興味が冷めるまでもてあそび、ポイッと捨てる習慣はいまだに根強く残っている。
弄ばれたと気づいた男子が、怒り狂って彼女に暴力を振るおうとしたり身体を貪ろうとしても、他の男を見つけてその人を盾にし吊し上げを喰らわせる。
これが彼女の生き方だ。
微かに残るもどかしい気持ちはなくならず、押し殺して生きていた。
でも、
環奈と自分は同じ男が好きになった。
我に返った環奈は、
努力をして
奪う方法を探し始める。
そして、自分の体を貪った樹のワイルドな姿を想像しながら、環奈よりはちょっと小さいが、巨のつく自分のマシュマロにそっと手を当てる。
追記
サッカー部の先輩は強すぎるから翔太はダンマリでした。
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