キモデブの竿役に転生した俺は、寝取ることはせず、体を鍛える。すると、なぜかヒロインたちが寄ってくるんだけど……
なるとし
第1話 気づいたらキモデブになっていた
俺は死んだ。
思えば短い人生だった。
だけど、後悔はしない。
俺には幼馴染や親しい友達はいない。両親も昔亡くなったので、遺産と給料でなんとか命を繋いでいたのだが、仕事帰りにトラックに轢かれて人生終了した。
孤独感を忘れるためにひたすらスポーツジムでトレーナーとして人に運動を教えたり自分の身体を鍛えまくったりしていたけど、もうそれもできなくなるのか。
死後には何が俺を待っているんだろう。
天国?地獄?極楽?転生?
まあ、今の俺にとってはどこに行こうがどうでもよく、この空に浮くような気持ちよさに俺の全てを委ねだ。
そしたら、急に周りが明るくなり、
俺は、
目が覚めた。
「あれ?ここはどこ?」
見えてくるのは、散らかりに散らかった部屋。壁にはメイドやアニメやアイドルのポスターが貼られており、机のモニターには露出多めの服を着た女の子のキャラが立っている。おそらくMMORPGの類のものだろう。
そしてモニターの隣にはアニキャラのフィギュアが少々。
これはあれだな。
絵に描いたようなオタク部屋だ。
そう思った瞬間、気分を悪くする酸っぱい匂いが俺の鼻を刺激する。それと同時に体にものすごい重量感が伝わった。
「ん?」
目を開けて手を見たが、いつもの引き締まった手ではなく、豚足を彷彿とさせる太い謎の生命体のようなモノがあった。
びっくりして俺はすぐベッドから降りた。重さによって凹んだマットレスを背に、鏡を見た俺は絶叫した。
「ななな、なんだよこれ!?!?!?!?」
引き締まった細マッチョである俺は、キモデブになったのだった。
これはひどい。
背は180センチくらいでちょっと高め。そして肝心な体重は、俺のざっくりとした見積もりではあるが、優に120キロは超えそうだ。
自分の醜い姿を見ていると、転生前のこいつの記憶が俺に上書きされた。
「な、なんだと!?」
俺は驚くしか無かった。この世界……主人公が持っている記憶……この既視感はきっとあれだ。
昔読んだことのあるエロ漫画。
『クラスで俺を見下すイケメン男子の幼馴染に催眠をかけて寝取る本』だったけ。うん。確かにそうだった気がする。俺は普段こんなハードなエロ本は読まないが、主人公の男子があまりにも気障ったらしかったので、試しに読んでみた。今もこのエロ漫画の内容は鮮明に覚えている。
「樹〜起きなさい〜朝ごはんできてるわよ〜」
俺が思索に耽っていると、お母さんがドアをノックしながら言った。
あ、そういえば、こいつ(近藤樹)って両親ともに無事に生きているんだよね。
「今行く」
俺はそう返事して、つけっぱなしにしていたパソコンの電源を切ってご飯を食べるために、部屋を出た。
X X X
「うわっみてみて!くさいつきだよ!」
「いや、ぶさいつきでしょ?」
「とにかく近づかないでおこう」
「キモい」
校門をくぐろうとしたら、多くの男女が俺に向かって軽蔑の視線を向けてきた。
今日は隅々まで綺麗に体を洗ったから汗でもかかない限り、臭うことはないと思うんだが……
でも、学校の連中が持っている固定観念というものは早々変わるものではない。何より、近藤樹自身が学校のみんなにネガティブな印象を植え付けたのだ。だから文句は言えまい。
俺は深々とため息を吐いて、重たい体を動かし、自分のクラスに向かった。
クラスの中に入っても、俺の立場が変わることはない。むしろ密閉された空間で一緒に授業を聴くわけだから、ちょっとでも目立つようなことをしようものなら、俺が聞こえるところで陰口言われる。それってもう陰口じゃなくない?
と、いうわけで、俺は自分の席に座って、教科書を机の上に出した。
「あ、また落書きか……勘弁してくれよな」
俺はため息をついて、『ブサイク』とか『死ね』と言った、俺の人格を否定するようら落書きを消して行く。
そしたら予鈴が鳴って、やがて先生がやってきた。そして授業の始まり。
「えっと、この問題には、この式を使えばいいです。試験に出るからちゃんと覚えといてくださいね」
眠っている生徒もいれば、密かにコソコソ話し合う連中もいる。もちろん中にはいい点を取るために真面目に授業を聞いている連中もいる。
そんな真面目な連中の内一人が消しゴムを落としたようだ。
俺は条件反射的にそれを拾い、辺りを見渡す。すると、俺にだけ聞こえる小声で誰かが「あの……」って言った。
俺はその声の主の方に視線を送る。
すると、そこには、透き通った青い瞳も持つ女の子がいた。
そしてその女の子は柔らかな黒髪を揺らして手を差し伸べてきた。整った顔立ちと男の本能を刺激する滑らかで長い足と細い腰。そして俺の手では収まりきれない爆のつく乳。
そう。何を隠そう。このエロ漫画のメインヒロインである神崎環奈である。まさしく絵に描いたような清純派美少女だ。
そんな彼女に、俺は拾った消しゴムを渡す。
すると、彼女はにっこりと微笑んで、また俺にだけ聞こえる小声でお礼を言う。
「ありがとう、近藤くん」
「あ、ああ」
彼女は俺を軽蔑することなく、優しく接してくれた。
彼女はもともとこういう人間である。俺の隣に座っているが、他の人と違って俺に蔑むような視線を送ったことは見たことがない。時々「ちょっとこいつ苦手だな」みたいな表情を向けてくることはあっても俺の存在自体を否定するような言動を見せたりはしない。
俺は小さく頷いてすぐ先生の授業に集中した。
隅っこで誰かが俺を睨んでいるような気がするけど、今は気にしないでおこう。
X X X
先生の授業が終わって俺が寛いでいると、突然、爽やかな金髪イケメンが俺の席にやってきた。
「ちょっと近藤くん、君に話したいことがあるけど」
「お、俺?」
「うん。今、ちょうど休みだし、ついてきて」
「う、うん」
神崎環奈の幼馴染である葉山真斗である。俺は彼の後ろを追いかけて、人が普段通らない踊り場にやってきた。
「それで、話ってのは……」
「おい、お前なんで環奈の手触ったんだ?」
葉山は急に心底冷たい話し方で俺に問うた。そのギャップに戸惑いながらも、俺は返事をする。
「神崎さん、消しゴム落としたから、拾ってあげただけだよ」
葉山は俺の言葉を聞いて、眉間に皺を寄せた。
「お前、キモいんだから、俺の幼馴染に触れるんじゃねーよ」
「え?俺はただ単に……」
「キモいんだよ。クソデブが。一緒にいるだけでも吐き気がする。消えてくれればいいのに」
「……」
「もう一度言う。俺の環奈に触れるな。もし、さっきみたいなことがまた起きたら、お前、ただじゃ済まされないから」
葉山はまるで放射能廃棄物を見るように俺をきっと睨んでから、「ちっ!」と舌打ちして、歩き去る。
「……」
なるほど。
これは結構効きますね。
なぜ、転生する前の近藤樹があいつの幼馴染を寝取ろうとしたのか、理解した。
漫画を読むのと実際言葉を吐かれるのとじゃまるで違う。
だけど、俺に他人の幼馴染を寝取るような趣味はない。
俺は体を鍛えることが好きだ。
これまでずっとジムトレーナーとしてやってきたのだ。
だから、徹底的に鍛えて痩せて、新しく生まれ変わってやる。
幸いなことに、俺のお母さんは美形でお父さんはイケメンだ。
多くのデブたちを指導してきた元ジムトレーナーである俺の予想が正しければ、体重を77キログラムくらいに持っていけば、間違いなく俺はイケメンになる。
やってやる。
葉山と神崎が何をしようが俺の知ったこっちゃない。
俺は我が道を歩く。
もうすぐ夏休みがやってくるんだ。有り余っている時間をゲームやアニメやアイドルのために費やすことをやめ、俺の体のために使おう。
俺は握り拳を作って、クラスの方へと歩き始める。
120キログラムを誇る巨体がなぜか軽く感じられた。
こうやって近藤樹の物語が幕を開ける。
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