ギャングスタ桃太郎

リタ・ワーサー

ギャングスタ桃太郎

昔むかし。

あるところに腕利きの醸造家であるビッグGと、桃農家のオーヴァがおりました。

二人は仲睦まじくラブラブ、お互いの生業しごとを究めようとたくさんのお酒をつくりました。

しかしながら、極めて無知蒙昧な民衆のため、「酒はダメ」と断じられ、禁酒法が制定されてしまったのです。

二人は聡明クールだったので悪いのは酒ではなく、本性に悪いものを抱えているバカもいるだけだとわかっていましたが、あえて歯向かうようなこともせず、桃の生産と消毒用アルコールの製造に切り替えていきました。

じつはこっそり、二人で楽しむぶんはつくっていたのですが、ベッドの下に隠していたためにばれることはありませんでした。

そうしたなかでもGさんとオーヴァさんの間には愛が育まれ、子宝に恵まれたのです。


見た目は元気な男の子でしたが、ミオスタチン関連筋肉肥大、という難病チャレンジを抱えていました。

Gさんとオーヴァさんは愛する息子を救うべく、懸命に働き治療にのぞみました。

なんとか男の子は育っていきましたが、生活は苦しくなりました。

この病気は筋肉がものすごく大きく強く育ちすぎるので、たくさんの栄養が必要でしたし、詳しいお医者さんも多くなかったのです。

そのため、二人は法律違反マジヤバと知りながらも、こっそりとお酒を売るサバくようになったのです。

Gさんとオーヴァさんの密造酒は少しずつ人気を上げ、そのうち酒を好む政治家オエライサンなども買いに来るようになりました。

おかげで少しずつ男の子の家は裕福になり、なんとか男の子も病気とともに人生を歩んでいくことが出来そうになってきました。

ひと安心した夫婦は、男の子にようやく名前をつけました。

キービィ。

なんか響きはラッパーみたいですね。

キービィはすこし汚いお金ですくすくと育ち、ジュニアハイスクールを卒業するころには180cmを超す身長タッパとなり、持病のため体重も100kgを超えました。

マーヴェル映画を見て始めたMMAソウゴウもなかなか性に合い、両親のような仕事よりは海兵隊にでも入ろうかな、と思い始めてきました。


ところがハイスクールに入って4ヶ月ほど経ったとき、件の政治家オエライサン脱税わるさ報道さスッパぬかれたのです。

キービィのお家の密造酒もお金のながれからばれてしまい、両親は刑務所ムショに入ることになってしまいました。

お金はキービィの治療に使われ、あまり貯金できておらず、罰金をはらうことができなかったのです。

キービィは怒りに燃えました。

怒りの中でキービィは地元の顔役ギャングスタを頼ることにしました。

密造酒を組織ファミリー販路ルートにのせないか、とGさんのもとに半端者チンピラが来ていたことを思い出したのです。


偉大なる首領ドンブラコは言いました。

隣町となりのオンラファミリーをしてこい、そうすれば密造酒の販路ルートもくれてやるし、両親の保釈金も払ってやろう」

キービィはうっすら生涯を搾り取られる予感がしましたが、なにより両親が心配だったので首を縦に振りました。


首領ドンブラコは「手ぶらでは厳しいだろう」と大ぶりのナイフヒカリモノと、チャカ、予備のマガジンを4つ餞別としてキービィに渡しました。

おまけに借金で首が回らなくなったから、と鉄砲玉代わりのイケメンを側周りとしてつけてくれました。

イケメンはSM通いで借金をしたほどの生粋のドMだったので、ボンテージを着ていました。

なかなか洒落たデザイナーの手によるのか、少し露出の多いアメコミヒーローのようにも見えました。


イケメンは言いました。

「私は偉大なる首領ドンブラコのイヌなのです」

せっかくなのでキービィもイヌと呼ぶことにしました。

命をかける以上は、とキービィはスキットルに忍ばせたGさんとオーヴァさんのお酒で盃も交わします。

イヌはキービィのお酒を気に入ったようです。

キービィは少しだけ温かい気持ちになりましたが、傍から見ればマッチョとボンテージの男がひとつのスキットルからお酒を飲んでいたので、少しキツい絵面でした。

乗り込カチコむにしてもまずは情報です。

キービィとイヌは情報屋を頼ることにしました。

偉大なる首領ドンブラコにはどんどん借りが増えていきます。


情報屋は汚職で落ちぶれた軍人でした。

電子戦部隊で鳴らした腕に溺れ、CIAにちょっかいを出したところに偉大なる首領ドンブラコに助けてもらったそうです。

軍に興味を持っていたキービィは興味をそそられましたが、情報屋は突然来たマッチョとボンテージの二人組には早く帰ってほしそうでした。


偉大なる首領ドンブラコの紹介なら、と情報屋はオンラファミリーの首領ドンの予定を流してくれました。

どうやらパリピ趣味スッカラカンのドラ息子がナイトクラブを立ち上げるらしく、オープニングセレモニーへ出席するようです。

ハコが狭いため、単純に距離が近くるチャンスは多そうでした。

情報屋は正直返り討ちにあうだろうとわかっていましたが、キービィはただの脳筋マッチョな学生だったので、この無謀ヤバさに気づけませんでした。

イヌは恐ろしくてたまりませんでしたが、そのような場にボンテージのまま乗り込カチコむ、という体験が初めてで、恐らく蔑まれて見られるであろうことに体の一部を熱くボッキしていました。

とにかく絵面がキツいですね。


情報屋は嫌になり、デスクの引き出しをあけコカインをキメました。

キービィは目の前で麻薬ヤクをキメだしたことに少し嫌な気持ちになりましたが、彼なりの礼として件のスキットルから酒を振る舞いました。

情報屋は少し曖昧な状態になっていたため、マッチョからの酒も気を良くして呷りました。

するとなんということでしょう。

科学的ケミカルなよくわからないマリアージュがおき、情報屋の脳が多幸感マジハッピーに打ちのめされていきます。

瞳孔は散大し、すべてが眩しく虹色サイケデリックに輝いて見えました。

血流がよくなったのか、無自覚に抱えていた眼精疲労や肩こりもほぐされていきます。


情報屋の目にはキービィはもはや霊酒アムリタをもたらすヴィシュヌにしか見えません。

こころなしかイヌですら蠱惑的セクシーに見えました。

気づけば土下座ジャパニーズドゲザし、俺も連れて行ってくれ、と懇願していました。


キービィは両親の酒がウケたことに気を良くし、またイザとなれば軍人だからなにか役に立つだろうと連れて行くことにしました。

情報屋はもう一度酒を求め、キービィたちは改めて酒で乾杯することにしました。

情報屋は故郷の言葉で乾杯の音頭を取ります。

乾杯サルー!」


キービィには聞き慣れませんでしたが、いい響きだノリがよかったので、情報屋をこっそりサル、と呼ぶことにしました。

サルはラリっていましたが、もとは軍人プロ。まともなことをいいました。

「いくらなんでもナイフと拳銃チャカと変態だけじゃギャングの首は取れないだろう」

キービィにももっともに感じられたので、マッチョと変態とジャンキーは武器を揃えに行きました。


ちょうど近くに偉大なる首領ドンブラコの息がかかったガンショップがありました。

そこのガンスミスはなかなかイケイケなお姉さんが取り仕切っていましたが、声が低かったので女装子だとキービィにもわかりました。

ルックスと声のアンバランスさ、銃器を紹介するときの距離の近さにキービィはドギマギしましたが、なんとか武器はサルのアドバイスをもらいながら揃えることができました。


キービィの肩を妙に撫で擦る女装子はいいました。

「あなたがたの息、イケない匂いがするわね」

単純に酒臭いといえばいいのに。

暗に自分にも酒を飲ませろ、と言っているように感じたキービィはしぶしぶ酒を分けてやりました。

無駄に吐息まじりセクシーに女装子は飲み干しましたが、『なにか』が足りずキービィの心の琴線には触れませんでした。


しかしサルの下半身は猛烈に刺激を受けたようです。

よくわからない理屈をならべつつ口説き始めたのです。


あれよあれよと話が進むうち、『キービィの…』『菊の花…』の不穏な言葉が聞こえつつも女装子もカチコミに加わることになったようです。

少し不安な気持ちになったキービィでしたが、人手はあったほうがいいし、色仕掛にひっかかるアホもいるかもしれない、と了承します。

目の前でそのアホもいることですし。

いよいよカチコむことにしました。

ナイトクラブの客に交じり近づいてオンラファミリーの首領ドンる。

バカみたいに単純で無謀な作戦でしたが、素人のマッチョ、変態、ラリったジャンキー、発情した女装子にはこれしかありません。

それに案外単純なものこそ防ぎにくい気もします。


キービィたちはあっという間に首領ドンに近づくところまできてしまいました。

上手く行きすぎて怖いくらいです。

怖いボディガードもいましたが、幸いにして人間に見えたので、ドタマ銃弾タマをブチ込めばれそうでした。

そうはいってもキービィは色んな意味で童貞ヴァージンです。

怖くて脚が震えて来ました。

そんなキービィにサルはタバコのようなものを差し出します。

故郷ホームじゃタバコがわりなんだ。宴席パーティーにもつきものだぜ」

キービィはそれに火を点け、煙を肺に取り込んですかさず両親の酒を呷りました。

なんだかよくわからないけれど、途端に元気になりました。

そう、マリファナをキメたのです。


両親の酒はどうやらイケないお薬ドラッグとのシナジーが強かったようでした。

すべてが遅くなりバレットタイム、まるでマトリックスの世界に入り込んだようです。

大概意識が加速オーバーレブしても身体はついてこないことは多いのですが、キービィには両親が愛と少し汚いお金で育んでくれたミオスタチン筋肥大異常の身体があります。

十分以上に彼の身体は躍動しましたレッツパーティータイム

奔る眼光フラッシュアイ吠える弾丸フラッシュファイア

キービィは天下無双マジチートでした。

一つの弾丸タマが一つの生命タマを確実に奪い、無駄弾ひとつありません。

どうやらオンラファミリーの雑魚どもエキストラチャカを抜いたようでしたが、飛んでくる弾はすべて見えましたし、撃たれてから避けることもできました。


無事に首領の生命もれましたが、マガジンに余裕があったのでドラ息子とそのとりまきの生命もっておきました。

鏖殺デストロイというやつですね。

ナイトクラブは血の海ブラッドバスになりました。

犬もサルも女装子みんなも戦っていたようですが、ほとんどがキービィの手管でした。


神がかった『なにか』が、キービィをその夜から一流のやり手としたのです。

キービィは偉大なる首領ドンブラコとの約束を果たしました。

偉大なる首領ドンブラコは偉大なパネェので、けっして約束を破ることはありません。

恨み言を言う輩は、大抵偉大なる首領ドンブラコの約束を取り違えているだけですし、すぐに恨み言も言えなくなります。


両親はキービィのもとにかえってきました。

少し人相ツラが変わってしまった息子を寂しい目で見るときもありますが、いまはみんなで食卓を囲むことができます。

カーテンを閉める必要はありましたが、サルの故郷の言葉で乾杯サルーすることもできます。

少し後ろ暗いけれど、暖かな日常をとりもどすことができました。


キービィは程なくして父ビッグGの跡を継ぎ、偉大なる首領ブラコのもとでお酒を造って売ることにしました。

さすがのギャングの販路ルート、キービィたち家族は大金持ちとなり、表向きにも禁酒法のない国での醸造アドバイザーとしての地位を得ることができました。

時々なにかよくわからないものを運ぶことになるときもありますが、細かなことを追求しないのが長生きのコツだと、キービィはわきまえています。


あの三人も、後ろ暗いながらも変わらず日常を過ごしているとキービィは耳にしています。



今日もキービィたちの桃園には暖かなが差し込むのでした。

めでたしめでたし。

〈完〉

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ギャングスタ桃太郎 リタ・ワーサー @foolstyle_7

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