落ちこぼれ海軍士官だった俺がクーデターに巻き込まれ、昼寝する時間を奪われたので、姫様と叛乱したがもう遅い?

スズツキスズ

序章 戦火の予感

 王国歴216年 11月5日05時28分


 アングレット要塞自治領 帝国国境地帯


「突撃せよ!」


 指揮官の言葉に呼応するかのように兵士たちは雄たけびを上げながらただひたすらに前進する。


 彼らが一心不乱に目指している目標、それは周囲が石壁で固められ、強力な野砲が備え付けられている要塞であった。


 フェルゼルシア王国建国以来、帝国からの度重なる攻撃を阻止してきたその要塞は帝国側からは畏怖を籠めてアングレットの悪魔と呼称されていた。


 その様子を要塞内部から見ていた白髪の老人は溜息をついた。


「はぁ。全く奴ら、性懲りも無くまた来おったか」


「カルステン将軍、いかがなさいますか?」


「なに、いつも通り追い払うだけだ。コーエン少佐の第三中隊に迎撃を」


 部下の言葉にカルステン将軍は気だるそうに白髪を掻きながら指示を出そうとする。

 しかしその指示を遮るように部屋の扉が勢いよく開いた。


「カルステン将軍!大変です!」


「どうしたコーエン少佐、今貴官に出撃命令を出そうとだな…そんなに慌ててどうした?。この程度の襲撃は別に珍しくもなかろう」


「いえ、それが…」


「敵が来ているのだ。早く言いたまえ」


「先程マグヌス騎士団長率いる近衛騎士団が勝手に出撃しました…」


「何だと!」


 近衛騎士団はフェルゼルシア国王の直属部隊であり、王都及び王城の防衛を任務としている。


 本来王都にある王城から決して離れることのない彼らだが、来月に予定している国王陛下のアングレット要塞表敬訪問の警備について事前に打ち合わせを行う為、2日前より近衛騎士団長以下10名が駐留していた。


「勝手なことを…。コーエン少佐!直ちに部隊を出撃させろ!」


「お言葉ですが閣下、あの敵兵力では近衛のみで十分なのでは?」


「少佐、ここアングレットは我々王国陸軍の管轄だ。近衛に我がもの顔で好き勝手されては困るのだよ。それを分からせる必要がある」


「なるほど…承知いたしました。第三中隊、直ちに出撃します!」


「頼んだぞ」


 少佐が部屋から出たのを確認した後、おもむろに机の上に置いてある写真立てを手に取る。


「…お前はわしを許さんだろうな。だがこちらにも事情があるのだ」


 しばし感傷にふけようとするが、外から銃声が次々と鳴り響き、戦闘が始まったことを要塞内に告げる。


「…始まったか」


 写真立てを伏せるように机の上に置き、軍帽を目深に被るとカルステン将軍は執務室を出て指揮所へと向かった。

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