102話 傲りを焼く灼熱
「大体ね、さっきから散々馬鹿にしてるけど銀級だってれっきとした上位冒険者なんだからね!勘違いするな馬鹿!」
ミアンの指摘に聴衆と化した冒険者たちから次々同意の声が上がる。
彼女はずかずかという音が聞こえそうな勢いで俺たちに近づいてきた。
「銀級を見下してふてくされてたのはこの馬鹿アルヴァも同じだけど……金級冒険者ならもっとシャキっとしなさいよ!燃やすわよ!」
「ミアン……」
彼女はまるで雪山に突如現れた松明のようだった。
確かにそうだ。銀級にさえなれない冒険者は沢山いる。
昔のアルヴァだって銀級冒険者に昇格した時は大喜びしただろう。
たとえるなら毎回試験で三位を取り続けた結果、三位を無価値だと認識し始めた秀才。
そんな状態に彼はなっていたのかもしれない。
「大体アルヴァが金級になれないのは性格が悪過ぎたからなんだからね!」
「なっ」
今度はオーリックの代わりに俺が情けない声を上げる番だった。
その意見は初耳だが納得しかないのは何故なのか。
「こいつは独学の剣術が伸び悩んでいたのにそのせいで誰にも学べなくてずっとそのままだったのたよ!」
説教も嫌で比較されるのも嫌だから自分より強い剣士には近寄らないし。
大勢の前で恥ずかしい理由を公開され穴があったら埋まりたくなった。
今ならこの状態から更にもう一人分裂出来るかもしれない。
ミアンはそんな俺の状況を綺麗に無視してオーリックを睨みつける。
「でも情けなくピーピー泣いて役立たずなアンタより千倍マシだわ。私たちのリーダー舐めんじゃないわよ」
戦う気がないなら後ろで好きに落ち込んでなさい。そう容赦なく言い放った後に炎の女魔術師は俺に視線を向けた。
青年クロノではなく俺の方をだ。それが何故か嬉しかった。
「ボサっとしてないでさっさと作戦言いなさいよ、魔族に気づかれたら終わりでしょうが!」
「あっ、はい」
噛みつく勢いで言われて返事をする。
俺はまだ少年姿だった時のクロノと打ち合わせた内容を口にした。
「まず今から全員俺とクロノに殺されて貰う、それから……」
首筋に重く冷たい物が当たる。
それがオーリックの抜いた剣だと気づいた俺はわざとらしく溜息を吐いた。
この素早い動きは金級冒険者だけある。先程までの腑抜けた態度が嘘のようだ。
「振りだよ、決まってるだろ。そんなんだから騙されるんだ」
「そうよ、オーリック。アルヴァたちがその気なら私たちここに呼ばれもせず死んでいるわ」
悪夢に囚われた自分たちなんて無力過ぎて子供でもあっさり殺せるだろう。
そう落ち着き払った様子でエウレアが言う。クロノはともかく俺には他人の夢へ干渉する力は無いが黙っておいた。
「オーリックさん、軽率な行動はやめてくださいね、正直貴方の事は余り助けたくないんです」
「というかこいつの発言も軽率だけどね。私も一瞬燃やそうかと思ったわ」
青年クロノとミアンが俺とオーリックをそれぞれ責める。
確かに過激な物言いだった。ついインパクトを重視してしまったのかもしれない。
俺はそれをフォローする為口を開いた。
「実際に死んで貰う訳じゃない。死んだふりをして欲しいんだ。女魔族の想定外の事態を演出してこちらに呼び寄せたい」
「こちらにって……この夢にってことですか、アルヴァ」
「そうだ。そして可能ならこの世界で彼女を倒し精神を閉じ込める」
エストの質問に答える。
キルケーの精神をこの世界に縛り付ければ現実の肉体は無防備だ。倒すなり捕まえるなり好き放題である。
まあ、楽に成功することは無いとも思っているが。
「僕とアルヴァさんが倒す役を担当します。」
他の人でも構わないですけど。そう男性体のクロノが並ぶ冒険者たちを見回すが皆視線をそらし黙ったままだ。
灰色の鷹団のメンバー以外は。
「は?私もその魔族焼き尽くすつもりだけど。数に入れないとか燃やすわよ」
「私攻撃は苦手ですが治癒なら得意です、アルヴァならご存知でしょうけれど」
傲慢に言い放つミアンの表情に恐れはない。寧ろ屈辱的な悪夢を見せられたせいか怒りで活き活きとしている。
「エストも……残る気なのか?」
「はい、信徒の私が強い魔族を討伐すればライトフレア様の威光がもっと広まりますからね」
目を美しい宝石のように輝かせて灰色の鷹団の女治癒士は微笑んだ。
「それに志半ばで命尽きても私の献身は皆様の記憶に残るでしょうし」
きっと殉教者として教会のレリーフに名前を加えられるでしょう。
そううっとりと語る彼女に少し寒気がした。
「そう、か……カースとブロックは?」
「俺たちが必要なら使えよ、なるべく危険がない奴な」
「わかった」
小柄な盗賊と、その発言に頷いて同意する顔の見えないパラディン。
彼らに俺はそう答える。正直全員に協力して貰えるとは思わなかった。
ミアンだけは脅してでも絶対協力して貰わなければいけないがこの様子なら必要なさそうだ。
ただ彼女の役割は戦闘ではない。
「ミアン、悪いけどその炎は湯沸かしに使って欲しい」
「は?」
「あっ、違うな。沸騰するレベルだと熱すぎるか……ぬるま湯程度で」
「馬鹿アルヴァ……もしかしてこの状況で風呂に入るつもりなの?」
だとしたら茹でるわよ。そう掌に魔力を集めながらミアンが問いかける。
炎の鳥が生まれそうな気配を感じ俺はほっとした。夢の世界でも強力な魔術は使えるらしい。
だがミアンが活躍するのは現実世界でだ。
「ミアン、お前にはその炎で湖の温度を上げて欲しいんだ」
じゃないと夢から覚めても仮死状態に逆戻りだからな。
俺の言葉に「そういうこと」と呟いたのは金級の女賢者エウレアだった。
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